銀行融資の元金据置とは?返済をしないで損をする?
銀行融資を返済するときに、据置(すえおき)期間といって、元金の返済を一定期間止めておくことができます。
この据置には条件があり、もともと据置期間がある商品や、銀行との交渉で元金の返済を待ってもらうなど様々です。
この「据置期間」を上手に利用して、返済に困らない資金計画を立てましょう。
銀行融資の据置期間とは
銀行融資の据置期間(すえおききかん)とは、融資期間のうち元金の返済をしなくてもいい期間になります。
- 借入期間:融資を受けてから完済するまでの期間
- 据置期間:毎月の元金返済を一時的に止めておくことができる期間
なお、据置期間は返済元金の支払いはしなくてもいいのですが、利息は支払う必要があります。
据置期間中は元金が減らないので、支払利息の総額が普通の融資より多くなりますので注意をしましょう。
元金据置期間のメリット
元金据置期間を設定するメリットは「時間を稼ぐことができる」という点です。
例えば、新規事業のために必要な資金を借りた場合、借りた翌月からすぐに返済が始まってしまったら、新規事業の売上から返済を行っていくことが難しくなります。
新規事業というのは事業が軌道に乗るまでに時間がかかるものです。
また、新しい機械設備を導入する場合にも、設備を導入してすぐに稼働できるわけではありません。
従業員の研修期間やオペレーション期間などで本格稼働までには時間がかかってしまいます。
このように、借りたお金が収益を生み出すことができるようになるまでに元金返済を据え置くことによって、より確実に返済することができるようになるという点が元金すえおきの最大のメリットです。
さらに、返済に困った人にも一定期間利息だけを支払っていれば延滞にならずに時間を稼ぐことができるため元金据置は有効です。
据置期間の注意点
据置期間を利用する場合は、以下の2点に注意する必要がああります。
- 利息が増える
- 再融資が難しくなる
どういうことか詳しく説明しましょう。
利息が増える
事業性融資で返済元金を据置するときは、利息の総額が多くなることに気をつけてください。
銀行融資は残高がある以上、利息を支払わなければいけないので、元金の据置をすると残高が減らない状態になります。
この期間が長ければ長いほど、支払利息の総額は増えます。したがって、銀行からは据置しましょうといってくれないことが多いでしょう。
住宅ローンや教育ローンの場合は、「返済元金を据置しましょう!」という提案があるかもしれませんが、条件変更についてはよほど銀行で貸出金の回収が難しいといった判断がされない限り銀行からの提案は少ないでしょう。
「利息が多くなるから銀行にとっては良いのでは?」と思うかもしれませんが、銀行融資は返済期間が長くなるほど「リスクがある」と認識するので、返済期間が延びる可能性がある「元金据置」は好ましくないからです。
また、貸出しした融資金は銀行にとっては「資産」ですが、業績悪化による元金据置(リスケ)をした場合、その資産は回収が難しいと判断されると貸倒引当金に計上しなくてはいけなくなるという好ましくない理由があります。
再融資が難しくなる
返済が困難という理由で元金据置を利用した場合には再融資を受けることは非常に難しくなります。
元金据置というのは、返済計画の見直し(リスケジュール)です。
当初の返済計画が困難になり、返済計画を見直した融資を「条件緩和債権」と言います。
条件緩和債権があるうちは、条件緩和期間から最低でも1年を経過しないと新規で借入をすることが難しくなってしまいます。
単純に考えて、現状で返済が困難だから元金据置をしている人に、それ以上の融資をしてしまったらお金を貸している側のリスクはさらに大きくなってしまいます。
元金の据置はどの程度損する?
銀行融資の返済元金を据置すると、元金が減らない分、利息の総額が増えるのですが、どの程度損をするのか見ていきましょう。
例として「借入金額1,000万円」「金利:2%」「借入期間:5年」で計算をします。
元金据置しない場合の利息総額は元金均等返済で支払いをすると、合計で508,306円となります。
これを借入当初1年間を元金据置すると利息の総額は合計で608,312円となります。
この利息は次のように計算をしています。
○1年目:200,000円 ※1,000万円×2%で残高に対して利息が丸々かかる ○2~5年目:408,312円 ※返済期間4年として元金均等で計算 |
元金を据置きしない場合と、しない場合ではその差が10万円にもなります。
したがって、据置をしないで返済が可能な人は返済はすぐにでもした方が得策といえます。
なお、会社にとって支払利息といったコストも大事ですが、一番大事なのはそのときの資金繰りです。
利息の支払いが多くなりますが、それに見合ったメリットがあるのであれば、一度銀行に相談してみてもいいでしょう。
据置期間の利息計算方法
据置期間の利息の計算方法は簡単です。
借入残高×金利÷365日×据置日数
で求めることができます。
借入残高1,000万円で金利2%で3ヶ月(92日)の元金据置を行ったとすると
1,000万円×2%÷365日×92日=50,411円
となります。
利息は日割りで発生します。
このため、1日あたりで発生する利息を求め、据置期間分の日数を乗じることで求めることができます。
先ほどご説明したように、この場合の50,000円超の利息は1円も元金を返済していないのに発生する費用になるため、費用対効果を慎重に検討した上で元金据置を行うようにしましょう。
銀行融資の返済期間の決め方
銀行融資の返済期間はどのように決まるのでしょうか?
会社の運転資金と住宅ローンでは決め方が全く異なります。
会社の運転資金の借入期間
会社の運転資金の借入期間は原則は短期です。
運転資金とは、売上金の入金と経費の支払いのタイミングの時間的なギャップを埋めるために必要な資金とされています。
つまり、売上の発生から入金が3ヶ月先になるのであれば、会社は3ヶ月分の運転資金を手元に持っていない限りは売上金が入金になるまでに会社を回して行くことができなくなります。
商売は支払いが先、入金が後ですので、手元に運転資金は絶対に必要になるのです。
この会社の1ヶ月の経費の支払いのために必要な資金が100万円だとすると、100万円×3ヶ月=300万円は手元に持っていないと会社を回していくことはできません。
このため、売上が入金になるまでの3ヶ月の短期資金を借りるというのが運転資金の原則です。
しかし、それでは3ヶ月後に返済をした後にまた融資が必要になるため、手続きが面倒です。
このため、5年程度かけて長期で少しずつ返済しているという方法が今は主流になっています。
場合によっては7年〜8年程度まで借入期間を設定できることもありますが、基本的には借入期間は5年程度と頭に入れておきましょう。
なお、運転資金も据置期間を利用することができますが、この期間の決め方は「会社の業況が立ち直ると考えられる期間」というのが原則です。
ただし、1年を超える据置期間の設定は難しいと考えた方がよいでしょう。
住宅ローンの借入期間
住宅ローンの借入期間は、商品ごとに設定された借入期間と、完済時年齢に関係します。
ほとんどの住宅ローンでは最長35年返済となっていることが一般的です。
また、完済時年齢は79歳が一般的で、中には75歳となっている商品もありますし、80歳以上の年齢に設定されている場合もあります。
つまり、決められた完済時年齢までに完済できるように、35年以内で自由に借入期間を設定することができます。
例えば完済時年齢75歳の住宅ローンの借入時の年齢が40歳であれば、最長35年で住宅ローンを組んでも完済時は75歳ですので、35年ローンを組むことができます。
借入時が41歳であれば、34年ローンまでしか組むことはできません。
なお、住宅ローンの据置期間は住宅完成前の据置であれば、工事が完了し、住むことができるようになるまで、返済が困難になった場合には1年程度が限度です。
生活福祉資金貸付制度の元金据置について
返済元金を据置できる融資として、「生活福祉資金貸付制度」があります。
生活福祉資金貸付制度は「個人」が対象となりますが、社会福祉協議会という地方自治体が、低所得者を対象に低金利で融資をする制度です。
例えば生活再建までの生活費に使える「総合支援資金」の場合は、最長6か月間の据置ができますので、「お金が必要だけど、しばらくは返済できない」という求職中の人などは利用することを検討してみてもいいでしょう。
融資期間とは?据置期間との違い
融資期間とは、据置期間も合わせた総借入期間のことです。
- 融資期間:据置期間+返済期間
- 据置期間:元金返済をせずに利息だけ支払う期間
例えば、借入から1年間元金の据置を行い、1年経過後に20年かけて返済していくのであれば融資期間は21年になります。
また、当初は据置期間を設定せずに10年ローンを組んだとしても、途中で返済に苦しくなって1年間の据置期間を設けた場合には、結果的に融資期間は11年になってしまいます。
融資期間は返済期間と据置期間によって決まりますので、後から結果的に延びてしまうこともあります。
元金据置を利用する方法と据置期間
銀行融資で据置返済できる場合は、商品で据置を選択できるか、返済が困って銀行に相談をするかの条件が必要になります。
ここでは、どのようなときに据置返済ができるのか見ていきましょう。
月々の返済に困ったとき
月々の返済に困った時などは元金据置は活用することができます。
会社の倒産などによって、収入がなくなった時には元金の返済を据え置けば新しく職業を探すまでの時間を稼ぐことができます。
例えば、3ヶ月の元金据置期間を設けたとすると、その3ヶ月間は利息だけ支払い、その間に仕事を見つけるということができるため、月々の返済に困った時に元金据置はよく活用される方法です。
住宅ローンやつなぎ融資
住宅ローンは住宅に住めるようになる前にお金の支払いが発生します。
土地の購入時や、ハウスメーカーとの契約時の手付金などのタイミングです。
このような時に住宅ローンの返済が始まってしまったら、現在住んでいる賃貸住宅の家賃と住宅ローンの返済をダブルで行っていかなければなりません。
場合によっては住宅ローンと家賃の支払いは困難ですので、このようなことがないように、新築の物件に住めるようになるまで、元金の返済を据置、建物完成後に住宅ローンの返済をスタート左折という方法があります。
教育ローンや奨学金
学生への融資である教育ローンも元金据置を活用することがあります。
教育ローンはあくまでも親に融資するものですが、子供が就職後に返済をしていくという家庭も少なくありません。
そうでなくても、子供が学生の間は仕送りなどでタダでさえお金がかかるため、家庭によっては子供が学生時代に返済をしていくことは難しい場合があります。
このような場合に、子供が就職して社会人になったら返済を開始するという元金据置が活用されることがあります。
また、子供が借りる奨学金も就職後に返済がスタートするため、元金据置と言えば元金据置です。
創業融資
創業の融資も元金据置期間を設ける場合あります。
創業の時には先に様々な投資が必要になりますが、実際に売上が発生するのは創業から数ヶ月後以降になります。
このため、当初の事業計画から、事業が軌道に乗ると思われる期間まで元金の返済を据え置き、事業が軌道に乗ってから返済をスタートされるようにすることができます。
例えば、日本政策金融公庫の新規開業資金は、運転資金の場合で最長2年間の据置期間をとることができます。
銀行融資の据置期間に関するQ&A
元金据置については、さまざまな状況で利用する機会があります。
ですが、デメリットのことを考えると、なかなか判断に困ってしまいます。
ここでは、さまざまな状況の中で、元金据置をどのように判断すれば良いのかということを、Q&A形式でお答えしていきたいと思います。
①自己資金が少なくても元金据置つきの創業融資は受けられる?
答え:融資を受けることは可能です
自己資金が十分にある場合でも、創業後は何が起こるかはわかりません。
もしかすると、計画していたよりも売上が上がらず、自己資金を食いつぶしてしまうかもしれません。
そんな不安定な時期を乗り切るために、元金の据置というものがあり、融資をする側としてもより安全に融資金を回収するためには必要な措置です。
まして、自己資金が少ない場合は、すぐに資金がショートしてしまう可能性もありますので、元金据置で融資を受けることは十分に可能です。
ただし、あくまでも融資をする側が承認した場合であり、よく担当者と相談する必要はあります。
②育休中の住宅ローンを据置にしてもらうか悩んでいる。定期貯金を解約すれば普通に払い続けられるけどどちらが良い?
答え:返済できるのであれば返済し続けたほうが良いです
ろうきんでは、住宅ローンを利用中に育児休暇に入った場合、最長で1年6ヶ月元金を据え置くことができる制度があります。
この制度を利用することにより、育児休暇中で収入が少なくなっている状態でも、返済に困窮することはありません。
ただ、元金据置をすると、元金がまったく減らず、高い利息を支払わなければなりません。
例えば、元金1,500万円の時に育児休暇を取り、最長の1年6ヶ月を元金据置すると、金利1%であれば225,000円の利息がかかることになります。
月にすると12,500円の利息を払う必要があり、元金も返済するよりは返済額は非常に少なくなります。
ですが、据え置きせずに返済していれば、この12,500円も発生しない利息となりますので、トータルで見ると損をしてしまいます。
もし、定期預金等で自己資金があり、育児休暇中でも十分に返済していけるようでしたら、それを充てて返済する方が良いです。
ただし、せっかくこれまで貯めてきたものを崩すのも心もとないですので、よく考えて結論を出しましょう。
元金を据え置きする場合も、定期貯金の一部を繰り上げ返済に回し、そのあとに元金据置をすることで、据置中の利息負担を抑えることもできます。
自己資金があれば、住宅ローンの返済方法を複数の選択肢から選ぶことができますので、状況や考えに合わせて適切な方法を選ぶようにしましょう。
③学生ローンも教育ローンの様に元金据置してもらえる?
答え:貸金業者の学生ローンでは元金据置はできません
一般的には、学生本人が借りるローンのことを「学生ローン」といいますが、消費者金融などの貸金業者が取り扱っている学生ローンには元金据置がありません。
そのため、借入後は毎月返済していく必要があります。
しかし、学生本人が借りるローンには、奨学金もあります。
奨学金は、貸与型であれば返済の義務はありませんので、当然、元金を据え置くこと自体がありません。
貸付型の場合は、卒業後に返済が開始されますので、元金据置と同じ状態となります。
学生ローンで元金の返済を据え置きたい場合は、親に元金据置ができる教育ローンを借りてもらい、その返済を自分で行うなど、親の協力も得る必要があります。
④A銀行の住宅ローンを元金据え置きしている条件下で、B銀行に借換したい。住宅ローン審査に通る?
答え:審査に通る可能性は低いです
A銀行の住宅ローンを据置している状態というのは、返済計画をリスケジュールしていることになります。
つまり、最初に決めた返済期間や返済金額では返済していくことが難しくなったということを意味します。
この状態でも、B銀行に借換の相談はすることができ、場合によっては申し込みもすることはできます。
しかし、それが審査に通るかは別の問題であり、必ず元金を据え置きにしている理由は聞かれることになります。
もしここで返済していくことが困難であるというように、不利になってしまうことを言ってしまうと、返済される見込みがありませんので、審査に通ることはできません。
では、借換をするのと同時に、B銀行で据置期間を設定して申し込んだ場合は、審査に通ることができるのか、ということも気になります。
この場合も、審査に通ることは難しいです。
住宅ローンの借換は、金利の見直しで返済の負担を軽くするものであり、多少であれば返済期間も長くすることができます。
しかし、借換しても元金の据置が必要な状況であれば、それはB銀行にとってリスクにしかなりません。
どこの銀行も住宅ローンに力を入れていますが、融資をするのはきちんと返済能力がある人だけです。
住宅ローンの借換をしたい場合は、元金を据え置く前や元金の据置後しばらく返済した後が望ましく、正常に返済していることを証明できる状態の時に行いましょう。
⑤住宅ローンの元金据置に結構な金額の保証料が必要と担当者に言われた。支払わないとだめ?
答え:支払わないと元金据置はできません
住宅ローンの融資期間中に元金据置をする場合、据え置きする期間の分、融資期間が伸びることになります。
住宅ローンの保証料というのは、融資期間でも決まるため、融資期間が伸びれば保証料も高くなります。
特に、返済して間もない時期で住宅ローン残高が多い場合、新たに負担する保証料も結構な金額になります。
ですが、理屈はわかっていても、返済が苦しくて元金据置をするのに、なぜ高い保証料を払わなければならないのかと納得できない部分もあります。
できることなら保証料を払わずに元金を据え置きたいものですが、残念ながら保証料を払わなければ元金を据置にすることはできません。
では、どのようにすれば良いのかといいますと、それは早い段階で借換することです。
借換時点での住宅ローン残高や金利、残りの返済期間にもよりますが、借換をすることで毎月の返済額を少なくできますし、返済総額の負担も抑えられます。
また、銀行によっては、現在の住宅ローンの残存期間を返済期間とするのではなく、新たに返済期間を設定できます。
これにより、元金据置ほどの効果はありませんが、毎月の負担を抑えることができます。
住宅ローンの借換というと、金利負担の軽減をイメージしますが、使い方によっては金利以外の部分で毎月の負担を軽くすることもできます。
⑥ローンの返済額を減らしたい。元金据置以外の方法は?
答え:借り換えや一部繰り上げ返済の方法があります
住宅ローンは、最初の銀行で完済するのではなく、何回か借り換えをして完済するのが一般的です。
住宅ローンを借り換えすることの最大のメリットは、金利を低くすることであり、これだけでもローンの返済額を少なくできます。
また、先程もお伝えしましたように、銀行によっては新たに住宅ローンの返済期間を設定できるところもあります。
金利差と返済期間の延長の2つを合わせると、住宅ローンの返済額は劇的に少なくなります。
元金据置以外で返済額を少なくしたい場合、借り換えが最も有効な方法です。
それ以外の方法として、一部繰り上げ返済もあります。
住宅ローンで一部繰り上げ返済をすると、「返済額の軽減」と「返済期間の短縮」を選ぶことができ、一括で返済した金額に応じて毎月の返済額を少なくすることもできますし、返済期間を短くすることもできます。
毎月の負担を軽くしたい場合は、「返済額の軽減」を選択すれば、元金据置以外の方法として有効となります。
ただし、返済額を大幅に少なくさせるためには、それなりにまとまった自己資金が必要になりますので、この方法は自己資金がある場合にのみ使える方法です。
まとめ
事業性融資の返済元金の据置は返済額が減りますが、支払利息の総額が増えたり、今後の追加融資に影響がでたりする可能性もあります。
しかし、元金据置によって資金繰りが改善された会社も実際ありますので、元金据置を検討している経営者は、メリット、デメリットを良く理解し、上手に利用していきましょう。
また、個人の商品でも据置ができるものは、しっかりと返済計画を立てた上で利用するかどうかを検討しましょう。
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