ワンイヤールールの借入金には社長借入金は入らない
会社が社長から借入した役員借入金は、ワンイヤールールによって固定負債となる可能性があります。
しかし、多額の役員借入金をいつまでも固定負債に残しておくことは、社長になにかあったときには相続税がかかりますので好ましくありません。
そこで、その理由や対策方法についてまとめましたので確認していきましょう。
目次
ワンイヤールールとは
会社の負債は営業循環基準とワンイヤールールという2つの基準によって、流動負債と固定負債に分かれます。
この基準は、会社の借入金が短期か長期かに分かれる重要なポイントですので、その仕組みについて確認しましょう。
営業循環基準とは?
営業循環基準とは、会社の取引目的によって流動負債と固定負債に分ける基準です。
このルールにより、負債の中でも会社の営業取引で発生した買掛金や支払手形といった債務は、回収が見込めない場合を除いて流動負債に記載しなければなりません。
また、会社の負債はまず営業循環基準で色分けした後に、次に話しするワンイヤールールでさらに色分けすることになります。
短期借入金と長期借入金の違い
ワンイヤールールとは、借入金や受入れ保証金など会社の営業取引以外でできた負債に対する基準です。
そして、その負債の返済期日が決算の翌日から1年以内であれば流動負債、1年を超える場合は固定負債となります。
したがって、会社の借入金についても、返済期日が1年未満の場合は短期借入金、1年以上の場合は長期借入金となりますので覚えておきましょう。
役員借入金(社長借入金)とは?
中小企業の場合、社長個人の財布から会社の支払いを立て替えることもあると考えられます。
しかしこのような立替えは、会社にとっては役員借入金という負債として残ります。
このような役員借入金は、短期借入金になるか、長期借入金になるのかどうかを確認してみましょう。
社長借入金は短期借入金?長期借入金?
役員借入金は原則として先ほど話したワンイヤールールが適用されるのですが、役員借入金の返済期限を明確にしている会社は少ないため長期借入金にするのが一般的です。
ここで注意したいことは、役員借入金は社長にとって資産となるため、長期化してしまいいつまでも残っていると相続税の対象となるということです。
したがって、これから話しする役員借入金を資本に振り替える方法を覚えておきましょう。
社長借入金は資本と見ることもできる
会社が社長から借入した役員借入金は、資本勘定に振り替えることができます。
それは中小企業では、社長と会社の財布に明確な区別がないために、会社が社長から借入したお金は実質的に会社への出資金としてみなされるからです。
また、役員借入金を資本に振り替えることで、銀行審査や相続税の対策となりますので、このことは後で詳しく話をします。
社長借入金がある中小企業は多い
中小企業は資金調達する際には銀行などの金融機関から借入をして調達することがほとんどであり、実に90%以上の中小企業では借入によって資金調達をしています。
この場合、決算書には借入金として計上することになり、合計額が貸借対照表の負債に計上されます。
しかし、決算書は合計額だけを出していればいいというわけではなく、勘定科目ごとの明細も必要となります。
借入金の明細にはいつ・どこから・どれだけ借りて・いま残高はいくらあるのかということが記載されており、さらに毎月返済している借入金であれば返済額も記載されます。
私も金融機関に勤めていた頃は主に担当する会社が中小企業や小規模事業者がほとんどで決算書もよく見ていました。
その決算書の借入金明細には多くの企業に「社長借入金」があり、その多くが慢性化しているものでした。
しかし、多くの中小企業にある社長借入金は問題が発生する可能性もあり、必ずしもいいものではありません。
ここでは社長借入金があることでどのような問題が発生してしまうのか、それを解消するためにはどのようにすればいいのかということを解説していきます。
社長のほとんどは返済を先延ばしにしている
まず、社長借入金はどのような状況となった場合に発生するのかということについてお話ししていきます。
社長借入金ができる代表的なケースは会社の業績が悪く、金融機関から借入できないために社長個人が会社に貸付する、または急な資金調達が必要となったが借入では間に合わないために社長が貸したというケースです。
その他のケースとしては会社の業績が悪いために役員報酬を支払うことができないために社長から借りていることにしているというものもあります。
また、会社の業務に関わる支払いを社長が立替えていたものがそのまま社長借入金となっているものもあります。
社長借入金となるケースにはこれらのようなものがありますが、多くの社長は借入金の返済を「会社に余裕がある時に」や「会社の業績が回復してから」というように後回しにしています。
金融機関からの借入であれば返済期日というものがありますので先延ばしにすることはできませんが、社長借入金であれば返済期日はありませんのでつい先延ばしにしてしまって慢性化しています。
金融機関からするといいものではない
金融機関は企業の決算書を見て融資をするかどうかを判断しますが、通常の借入以外にも社長借入金があるのは好ましくありません。
それもそのはずで、社長借入金はあくまでも会社の借金であり負債に計上されます。
負債が多くなれば決算書の内容は悪くなり、最悪の場合には「債務超過」となってしまいます。
それでも銀行によっては社長借入を自己資本に組み込んでくれることもありますので社長借入が原因で融資を受けられないということはそれほどありません。
銀行は融資の際ここを見ている!
先ほど負債を流動負債と固定負債に分ける基準の話をしました。
同じ負債でも流動負債であるか、固定負債であるかは銀行審査に影響する重要なポイントです。
そこで、銀行がどのような指標で審査をしているのか確認していきましょう。
流動比率
流動比率は、買掛金や支払手形などの流動負債を、現預金や売掛金といった流動資産で返済できるかという指標です。
この指標が100%を切る会社は、銀行から経営状態が危険であると判断されます。
役員借入金を流動負債に記載している会社は、固定負債に振り替えることで流動比率が改善されますので覚えておきましょう。
自己資本比率
自己資本比率は、会社の総資本のうち自己資本が占めている割合を示すものです。
銀行審査においてこの指標は高いほど望ましく、また先ほど話した役員借入金を資本金に振り替えることで自己資本比率を上げることが可能です。
債務償還年数
債務償還年数は、会社のお金で銀行借入を何年で返済できるかという指標で、10年を超えると銀行審査で厳しくなるといわれています。
ただし、債務償還年数の計算では役員借入金は含みませんので注意しましょう。
社長借入金と相続税
これまで話したように会社が社長から借入した役員借入金は、社長にとって資産となりますので相続税の対象となります。
ただし、役員借入金を資本勘定に振り替えることで相続税対策となりますので、その具体的な方法を紹介します。
会社に貸しているお金には相続税がかかる!
社長が会社の支払いとして立て替えたお金は、会計のルールで会社の役員借入金に仕分されます。
したがって、立替えが積み重なって役員借入金が何千万円もある会社も珍しくはありません。
ただしそのような会社の社長は、貸付金という資産が多いことになりますので、万が一亡くなった場合に多額の相続税が発生しかねません。
そこで、これから話しする相続放棄や債務免除の方法を知っておきましょう。
相続放棄や債務免除を考えよう
会社への貸付金によって発生した相続税の対策として、まずは相続自体を放棄する方法が考えられます。
それは、会社の貸付金という資産は、不動産や上場株式と違って換金性がないため、あえて相続する必要がないからです。
また、別の対策として債務免除が考えられるでしょう。
それは、社長が生前に会社への貸付金について、もう返さなくていいよと債権を放棄する方法です。
ただし、この方法では債務免除となった会社側の利益になりますので、利益を相殺できる繰越欠損という赤字の蓄積があることが前提となりますので注意しましょう。
このように、相続税は対策することができますので、詳しくは顧問税理士に確認することをおすすめします。
社長借入金の解消方法
社長借入金を解消するためには主に3つの方法があります。
しかし、社長借入を解消するための方法をすると、結果的に会社の利益となってしまいますのでより多くの税金を支払うことにもなります。
ですので、社長借入金を解消するタイミングには注意を払ったうえで行う必要があり、単純に解消するだけを目的としていれば思いもよらない税金を支払わなければならなくなってしまう可能性もあります。
ただし、会社が赤字見込みであるという場合には社長借入金を解消することで黒字にすることもできます。
社長借入金を役員報酬の一部で返済
社長借入金を解消するために社長が会社からもらう役員報酬の一部から返済することで徐々に返済していくことができます。
例えば、月の役員報酬が100万円である場合に役員報酬を50万円、社長借入金返済を50万円という内訳に変更します。
このようにしたとしても社長自身がもらう月の収入は変わらず、分割で社長借入金を返済していくことができます。
この解消法のメリットは、役員報酬が減ることで社長個人の所得税が少なくなることであり、社長からすると所得税が少なくなったうえに貸付金の回収もできることです。
社長借入金を退職金として返済する
社長借入金を毎月の役員報酬ではなく退職金として一括で返済することもできます。
退職金ですので社長は通常の所得税ではなく、退職金専用の税率で税金がかかりますので通常の所得税よりも少ない税金の支払だけで済みます。
しかし、会社としては全額が損金となる退職金の支払いが社長借入金を返済した金額は損金とはなりませんので多くの利益が出る可能性はあります。
もちろん生涯現役で退職する気はないという社長もいますが、ずっと社長借入金を払わずにいるよりは形式上だけでも退職をしてこれまでのように実質的に社長として活躍するという方法もあります。
社長借入金を放棄する
社長自身がその借入金を放棄することでも社長借入金を解消することができます。
これにより社長借入金の返済は免除することになり、会社は社長に対して返済しなくてもよくなります。
しかし、会社は免除してもらったことで利益を得ていますので債務免除益という利益が増えることになります。
また、債権は譲渡することもでき、例えば社長から配偶者や子供へ権利を渡すこともできます。
ですが、譲渡をする場合には贈与税がかかることになりますので贈与税の基礎控除額である110万円を超えない範囲で少しずつ譲渡してくことをおすすめします。
まとめ
これまで話した通り、役員借入金は解釈次第で流動負債にも固定負債にもなりますし、また資本という別勘定と見ることもできます。
この違いを押さえておけば会社のお金を1円も動かす必要もなく、銀行審査や相続税を対策することができますので経営者は是非覚えておきましょう。
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