借入金の返済原資とは
借入金を返済していくためのお金があるかどうかを知るための重要な指標として、返済原資という考えがあります。
「自分の会社はいくらまで借りることができるのだろう?」と疑問に思う経営者の方も多いのではないでしょうか?
それは返済原資を知ることで知ることができます。
この記事では、借入金の返済原資の考えかたについて解説していきます。
- 執筆者の情報
- 名前:手塚 龍馬(36歳)
職歴:過去7年,地銀の貸付業務担当
返済原資とは
返済原資とはどのような考えなのでしょうか?
また、返済原資はどのように計算すべきでしょうか?
借入金を返済することができる資金
お金を借りたら、当たり前ですが返済をしていかなければなりません。
このため、銀行がお金を返済することができるのか企業を判定するための指標が返済原資という指標です。
また、返済原資は自分でも簡単に計算することができるため、自社の損益計算書から返済原資を算出し、年間いくらの返済の借入金までなら返済可能かを知るためにも役立つことができます。
概算の計算方法
返済原資は以下の計算式で計算します。
返済原資=税引後当期純利益+減価償却費
税金を払った後の当期の純利益は翌期に利益として繰り越すことができます。
つまり、利益のあまり分である剰余金です。
また、減価償却費は、資産の価値を使用年数に応じて目減りさせていくための費用ですので、実際に現金が会社から流出しているわけではありません。
このため、税引後の当期純利益と、実際に現金の流出が伴わない減価償却費を足した数字が、翌年以降、返済に回していくことができるお金である返済原資となるのです。
もっと簡単に言えば、返済原資とは、会社を正常に運転していく以上に余ったお金ということもできるでしょう。
ただし、ここから求めることができる数字はあくまでも概要で、必ずしも正しい数字というわけではありません。
概算方法は正確な返済原資?
返済原資=税引後当期純利益+減価償却費で計算することができると説明しましたが、この計算方法はあくまでも概算の計算方法です。
ほとんどの業種では税引後当期純利益=現金とはならないためです。
ここでは、より精緻な返済原資について解説していきます。
現金取引の場合は正確
すべての仕入れを現金で行い、売上がすべて現金という飲食店のような業種なら、当期純利益はすべて現金で所有しているはずです。
そこに実際の現金流出が伴わない減価償却費を当期純利益にプラスすれば、その数字が翌年返済に回すことができる返済原資となる現金であることは間違いありません。
しかし、このような業種は日本国内にほとんどありません。
多くの業種が、売上の入金は後日になる受取手形や売掛金で計上し、仕入れ分の支払いは支払手形や買掛金という掛け取引によって行っていることが一般的です。
期末になり、損益計算書を作成し、利益が確定しても、その利益=手元の現金とはなりません。
日本の会計は発生主義という概念をもとに行われています。
発生主義とは、現金であろうと掛けや手形であろうと、売上や仕入れがあった時点で、売上や仕入れを計上するという考え方です。
例えば、売掛金にて10万円の売上があった場合を考えてみましょう。
仕分けは以下のようになります。
借 方 | 貸 方 |
---|---|
売掛金(10万円) | 売上(10万円)←収益 |
このように、現金の入金がなくても、売上があった時点で売上は計上されます。
この状態で期末になった場合には、この10万円は現金の入金がないにもかかわわず売上といして計上されているわけですから、この損益計算書をもとに計算された当期純利益の中には現金化した売上も売掛金として計上した売上も交じっていることになります。
また会社の資産を売却して現金を手に入れた場合も同様です。
資産の売却によって現金の入金があった場合を考えてみましょう。
会社の土地を1000万円で現金にて売却した際の仕分けは以下の通りです。
借 方 | 貸 方 |
---|---|
現金(1,000万円)←資産の増加 | 土地(1,000万円)←資産の減少 |
この場合には、1,000万円の土地という資産を1,000万円の現金と交換しただけですので、収益や費用は一切発生していません。
収益や費用が発生しなければ損益計算書には何も影響しないため、土地を売っても売らなくても当期純利益と減価償却費から求められる返済原資は全く変わりません。
しかし、会社の手元には1,000万円の現金が入金となっているため、返済原資はプラスの1,000万円となります。
このように、当期純利益と減価償却費から求められる返済原資は実態とは大きく異なることもあるという点に注意が必要です。
キャッシュフロー計算書の方が正確
キャッシュフロー計算書には3つの計算書があります。
営業キャッシュフロー、投資キャッシュフロー、財務キャッシュフローです。
営業キャッシュフローとは、その年の営業活動によって現金がどの程度プラスになったのかマイナスになったのかを示します。
いくら売上があり、収益を出せていたとしても、売上によって発生する売掛金や受取手形が現金回収できない場合には営業キャッシュフローはマイナスになります。
また、投資キャッシュフローは土地や建物などの資産の売買によって現金のプラスマイナスを計算するキャッシュフローです。
財務キャッシュフローとは、お金を借りた場合には現金が増えるためプラスになり、返済すれば現金が流出するためにマイナスになります。
このように、営業活動、投資活動、財務活動によって、いくら現金が増えたのかを計算するのがキャッシュフロー計算書です。
キャッシュフロー計算書であれば、売上や仕入れの計上と現金の入出金のタイミングのズレや、損益計算書に計上されない資産の売却購入による現金の入出金などすべての取引を加味したうえで、現金の流れを管理できます。
現金取引だけという業者以外は、当期純利益と減価償却費から返済原資を求めるよりも、キャッシュフロー計算書から返済原資を求めたほうがよいでしょう。
返済原資がないと借入できない
返済原資とは、借入金を返済することができる資金を示すものです。
したがって、返済原資がない場合には必ず借入を行うことができないのでしょうか?
融資額を決定するための重要指標
お金を返済できない会社へは融資を行いませんが、しかし、必ずしも返済原資がなければ融資を受けることができないということはありません。
そもそも赤字であるからこそ融資を受けたいという企業は多数存在するため、運転資金の融資であればその時返済原資がなくても融資を受けられることもあります。
ただし、設備投資のお金を借りる際には、返済原資がない場合には融資を受けることは難しくなることもあります。
経営計画で融資を受けられることも
一時的な景気悪化による運転資金を借りたいような場合には、返済原資がない場合がほとんどです。
必ずしも返済原資がなければお金を借りられないのであれば一時的に赤字に転落した企にはお金を貸さないことになってしまいます。
このため、融資を受ける際には、今後の見込みについて返済原資が作れるように経営計画を立てることが重要です。
1,000万円を5年返済で借りたいのであれば、1年間に元金返済に必要なお金は200万円ですので、予測の利益を減価償却費と合わせて200万円以上となるような計画を策定することが重要です。
まとめ
返済原資とは、借りたお金を返済していく現金がその会社にあるかどうかを示す指標です。
返済原資がない場合には融資を受けることができない場合があります。
また、自社に返済原資があるのであれば、年間返済額が返済原資に収まる範囲内の借入であれば、借入目的に合理性が見いだせれば融資を受けることができる可能性が高くなります。
返済原資は当期純利益に減価償却費を足せば簡単に求めることができますが、現金取引の会社でない限り、この数字は正確なものではなくあくまでも概要です。
自社がいくらの返済まで行うことができるかを詳細に知りたければキャッシュフロー計算書の金額を返済原資とすることが最も正確な方法です。
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