ツケが払えないとどうなる?
ツケ払いは、本来、両者の間で信頼関係が存在するときに成立する支払い方法です。
いつもきっちりと支払いする人が、そのときだけお金が足りずに「これ、後で払っても良い?」「もちろん、ツケで良いですよ」と両者があうんの呼吸で会話をすることで、支払いが次回以降に持ち越されます。
ツケが払えないときは最終的にどうなるか、ツケを踏み倒すことは現実的に可能か、またZOZOTOWN等で問題になっている未成年者のツケ払い未納問題について解説します。
記事の目次
口約束も正式な「契約」とみなされる
ツケ払いは通常の取引とはことなり、書面で契約を交わすことはしません。
あくまでも、両者の信頼関係の元に成り立つ「口約束」です。
しかしながら民法では、口約束も正式な契約として認めています。
ただし、契約は両者の合意が必要ですので、片方が「来週までに20,000円払ってね」と言うだけでは成立しません。
相手側が「ちょっと待ってよ」「先に10,000円だけ払って良い?」等の支払う意思を見せた時点から契約が成立することになるのです。
契約を成立させなければ支払い義務も発生しない
反対に言えば、代金を受け取る側が「ツケにしておくよ」と言っただけでは契約は成り立ちません。
代金を支払う側が返事をしないなら、契約は成立しないことになりますので、最悪、支払わなくても良いということにもなってしまいます。
もちろん、今まで築いてきた信頼関係もなくなってしまいますが、踏み倒すことができないわけではないということになります。
ツケ払いの消滅時効が成立するのは1年か10年
ツケ払いの契約が成立すると、旅館の宿泊料や料理店などの飲食料などは民法第174条により1年で消滅時効となります。
時効期間は受取側が請求する度にリセットされますので、1年の間、1回も店舗側から請求されなかったとするならば客側にも支払う必要がなくなるのです。
一方、途中で店舗側が客側を相手に訴訟を起こして勝訴すると、時効は10年に延長(民法第174条2第1項)され、現実的ではありませんが、訴訟後10年間1度も店側からの請求がない場合に限って客側の支払い義務が消滅します。
商取引の消滅時効は5年で成立
口約束によるツケ払いではなく書面で借金契約をした場合は、民法ではなく商法が適用され、商法第522号の「商取引によって生じた債権」扱いとなり、時効は5年になります。
この時効も、途中で債権者によって請求される度に時効成立期間がリセットされますので、債権者が「早く返せ」と言い続ける限り消滅時効は成立しません。
親族・友人間の消滅時効は10年で成立
親や親戚、友人、知人などからお金を借りた場合は、「借用書」を作成したとしても10年間で消滅時効(民法第167条)になります。
もちろんこの時効も、途中で親や友人が「早く返してよ」と言う度に期間がリセットされますので、10年間1度も請求しない限り時効は完成しません。
合法的にツケを踏み倒すことは可能か?
では、合法的に無銭飲食が可能かということをちょっと考えてきましょう。
店の主人や店員が「ツケ払いにしておくよ」と言ったときに、客が何の返事もしないなら契約は成り立たず、料金を支払わないとしても違法にはなりません。
しかしながら、客が返事をしないので、店員が「やっぱりツケはやめておく。きちんと今日の代金は今日中に払って」と前言を翻すならば、客は他の客と同様、かかった料金を支払わなくてはならなくなります。
この場合は、料金を支払わずに店を出るなら無銭飲食になりますので、警察に通報されるならしかるべき処罰の対象になります。
ツケ払いの提案を聞いたことを話しても契約は成立する
では、店員が「ツケはやめておく。今日中に支払って」と言った時点で、客が「さっきツケ払いで良いっていったでしょ?」と答えるならどうなるでしょうか。
客は、①「店員によるツケ払いの提案を聞いたこと」、そして②「ツケ払いに応じる意思があること」を示したことになりますので、契約は成立し、客は後日料金を支払わなくてはならなくなります。
店側は客に催促をかけることができ、どうしても客が支払わない場合は、裁判所に訴えて、財産差し押さえの命令を出してもらうこともできるのです。
後日であっても契約を成立させることができる
店側が「ツケにしておくよ」と言ったときに客が何の返事もせず、店側が後日不安に思って「あのときの代金を支払って欲しいんだけど」と請求書を見せて催促するならどうでしょうか。
その場合も、客が「ちょっと待ってよ」「手持ちが千円しかないんだけど」と支払う意思を提示したときから契約は成立しますので、店側はいつでも客に催促できますし、万が一の場合は裁判所に訴えることができるようになります。
姿をくらまさない限り、客側は何らかの罪を被る
しかし、客が「何の話?」とあくまでも知らないふりをするなら、契約を成立させることはできなくなります。
そのような場合は、店側は入店記録や監視カメラなどで「客が店にいたこと」を証明し、しかるべき代金を受け取っていないこと、このままでは無銭飲食になることを客に説明しなくてはなりません。
この時点で客が「分かった。ちゃんと支払うから」と言えば、契約成立になりますし、返事をしない場合は警察に無銭飲食として訴えることになるでしょう。
つまり、いずれの場合も、客は姿をくらまさない限り「契約不履行(ツケ払いの踏み倒し)」か「無銭飲食」の罪となる可能性が高いと言えます。
やはり、踏み倒しを検討するのではなく、素直に支払う方が良いでしょう。
【客側】ツケを払えないとどうなる?
では、ツケを払えないと、実際にどのような処置が取られるかを見ていきましょう。
尚、クレジットカードや住民税を払えないときの処置は次の記事で詳しく解説していますので、ぜひ参考にしてみてください。
内容証明が店側から送付される
店のサービスを利用した日時と金額、店側が定めた支払期限、そして支払期限までにお金を払わない場合は法的措置を取ることが書かれた「内容証明」が店側から送付されます。
内容証明が送付されると、中に記載されている事柄が郵便局に保管されますので、客側は後日「そのような手紙を受け取っていない」と主張することはできません。
簡易裁判所から支払督促が送付される
少額の金銭の場合は、「支払督促」によって請求されることが多いです。
客側は簡易裁判所から支払督促を受け取ったら、次の3つのいずれかの措置を取ります。
- 支払督促に記されている期限までにお金を支払う。
- 支払督促に添付された「異議申立書」を2週間以内に裁判所に提出する。
- 支払督促を無視する。
支払督促に記載された期限までにお金を支払うとき
支払督促に記載された期限までに店舗側に料金の支払いを済ませると、店舗側は訴えを取り下げます。
そのため、裁判に発展することはありません。
異議申立書を裁判所に提出するとき
客側が店舗側の申立てが不当なものと考えるとき、添付されている「異議申立書」を使って、2週間以内に裁判所に異議を申し立てることもできます。
この場合は民事訴訟となり、裁判に発展します。
支払督促を無視するとき
客側が支払督促を無視すると、店舗側は支払督促に記された支払い期日を過ぎた日から、いつでも裁判所に「仮執行宣言申立書」を提出することができるようになります。
仮執行宣言申立書が受理されると、客側は簡易裁判所から「仮執行宣言付き支払督促」を受け取ります。
この仮執行宣言付き支払督促も無視すると、店舗側によって差し押さえ等の「強制執行」が申し立てられ、預金や給与、不動産等の財産を差し押さえられることになります。
【店側】ツケを払ってもらえないと?
客がツケを払わないときは、「支払督促」や「少額訴訟」(60万円以下の金額が対象となる場合に利用できる訴訟方法)などの法的措置によって未回収の代金を回収することができます。
しかしながら、支払督促も少額訴訟も、客の名前と住所が明らかなときしか利用することができません。
客の名前も住所も明らかでないときは、ツケによって生じた損失をどのように補填するのでしょうか。
ホストクラブ等のツケが払えないとホストが補填
ホストクラブなどでは、売上目標が達成できないと、ホストから「ツケ払いで良いから、注文してよ」と言われることがあります。
しかし、後日、客とまったく連絡が取れなくなるなら、ホストはツケを回収することができません。
店舗側が「ツケ払いで良いからとにかく売上目標を達成しろ」と命令した場合は、未回収金の補填は店舗側の責任になりますが、ホストが自分の一存で客にツケ払いの提案をしたときは、ホストが自腹で未回収分を支払うことになってしまうのです。
チェーン店等ではツケ払いを命じた人に全責任が!
チェーン店系のサービス業では、基本的には社則でツケ払いによるサービス提供は禁じられています。
それにも関わらず、店長が自分の裁断で「ツケ払いでも良いので売上目標を達成しろ」と従業員に命じた場合は、店長個人が未回収分を補填することになりますし、社内規定に反したということで本部からしかるべき罰則(解雇や減給)を受けることにもなってしまいます。
ZOZOTOWN等の未成年のツケ払い問題
ZOZOTOWNでは、購入してから2ヶ月以内の好きなタイミングで料金を支払う「ツケ払い」(手数料は一律324円)を実施しています。
お小遣いに余裕がないときでもクレジットカードを持っているならショッピングを楽しむことができますが、お金もクレジットカードもないのにどうしても洋服やファッション小物が欲しい人にとっては、ツケ払いは嬉しいサービスですよね。
支払いを忘れてしまいやすいというデメリット
通常のネットショッピングでは、商品やサービスの料金は「注文時」もしくは「受取時」に支払います。
つまり、代金を支払わないで商品を受け取ることができない仕組みになっているのが普通ですので、利用者は商品を受け取った時点で「支払いは済んだもの」と考えてしまいがちです。
そのため、2ヶ月間の猶予があっても代金の支払いを忘れてしまい、ZOZOTOWNから督促状が届くことになってしまいます。
督促状が分かりにくいという評判も!
ZOZOTOWNのツケ払いは、ZOZOTOWNではなくGMOペイメントサービスという会社が管理していますので、督促状のハガキや督促メールもGMOペイメントサービスから届きます。
もちろん、しっかりとハガキやメールの中身を見ればZOZOTOWNからの請求であることが分かるのですが、差出人の名前だけを見て、「GMOペイメントサービス?利用した覚えがないから放っておこう」と、ハガキを捨てたりメールを消去したりしてしまう人も少なくありません。
そのため、故意でないのに、「2ヶ月の猶予期間にツケ払いを支払わない」→「督促状を無視する」→「信用情報機関に滞納の記録が残る」→「裁判所から支払督促が来る」という最悪のシナリオになってしまうことがあるのです。
信用情報機関に滞納の記録が残ると、クレジットカードやローンの審査に落ちやすくなるだけでなく、すでに持っているクレジットカードまで使用不可になってしまうこともあります。
次の記事で信用情報の大切さについてまとめていますので、ぜひご一読ください。
保護者に未成年者の滞納金の支払い義務はない!
ZOZOTOWNのツケ払いは年齢制限なしに利用することができます。
利用条件には「未成年者は保護者の同意をもらうこと」と記載されていますが、同意書を送付する必要はありませんので、実質的には親に相談しなくてもツケ払いで商品を購入することができます。
未成年者の中には「どうせ支払えなくても、最後は親に払ってもらえば良いんでしょ?」と甘い考えを持っている人もいますよね。
しかし、ZOZOTOWNのツケ払いにおいて、親は同意者であって連立保証人ではありませんので、支払い義務を有するのはあくまでも未成年者個人になります。
支払わない限り、未成年者個人に支払督促が送付され、場合によっては裁判に発展することもあるのです。
その日の支払いはその日のうちに!
お金に困っているとき、ツケ払いはとても魅力的な方法のように感じるかもしれません。
ですが、支払う義務が消えるわけではありませんし、場合によっては延滞料や損害金を請求される可能性もあります。
支払いはなるべくその日のうちに済ませること、どうしても支払えないときは最初からサービスを利用しない&商品を購入しないようにしてくださいね。