母子家庭の貧困に迫る
記事の目次
母子家庭の貧困の実態
母子家庭の貧困については、今に始まった話ではなく、昔から取り沙汰されている切実な問題です。
時折、テレビ等の有名メディアで特集が組まれることもあるので、その実態を目の当りにしたことがある人もいることでしょう。
しかし、実際の切実な貧困の状態について、把握していない人も多いのが実情です。
そこでまずは母子家庭の貧困とはどのようなものなのか、その実態について把握してもらうことにしましょう。
母子家庭の現実は貧乏生活ブログより厳しい
近年は貧乏生活ブログなるものが人気で、人気ブログランキングでも、上位にランキングされているものも見られます。
しかし、その内容は決して必死さがうかがえるものではなく、むしろ笑いを誘うようなものも少なくありません。
確かに大変だなと思う話ではありますが、今回の主題となる母子家庭の貧困具合と比べれば、雲泥の差があると言わざるを得ないのが実情です。
母子家庭の貧困の実情を知れば、誰もが貧乏生活ブログををやっている人は、本気の貧困ではないと感じるでしょう。
貧乏生活ブログに書かれている内容は、押しなべて下記のような感じのものばかりです。
土日のまるまる2日間、引きこもっていました。ふと鏡に映った自分の顔を見たら 薄汚くて生気が無くて 世捨て人のようでした。下着姿でダラダラごろごろ… カップ麺を食べて、お菓子を食べて レトルトのカレーを食べて…今日は月曜日。 バイトに行って働かなくてはなりません。 世捨て人になっている場合じゃない。 今週も頑張ります…
ブログに書ける程度の貧乏というニュアンスで、切実さが感じられませんよね。
確かにこのブロガーが50歳、バツイチ子なしであることを考えれば、頑張って欲しいという気持ちにはなりますが、母子家庭が抱える貧国と比べれば、本気の貧困ではないと感じてしまいます。
それでは、実際に母子家庭の貧困がどのようなものであるのかを、見ていくことにしましょう。
貧困家庭の夏休みはさらに悲惨
2018年の全国母子世帯等調査によると、母子家庭の貧困が深刻なものであることが見て取れます。
その調査結果では母子家庭の平均年収入は262.6万円と公表されていますが、この金額は国民生活調査で公表された、児童あり世帯の平均所得697.3万円を大きく下回るものです。
また、全世帯平均所得の549.6万円比べても、50%を下回る数値で、いかに収入が乏しいかが見て取れます。
母子家庭の貧困の重圧は母親だけにのしかかるものではありません。
窮した生活からくるプレッシャーは、子供にも悪影響を与え、子供が学校で頻繁に問題を起こすケースも少なくないのです。
しかも、貧困から下記のような状態に置かれることも多く、子供は学校で孤立状態に追い込まれることになってしまいます。
◆ 給食費が払えない
◆ 修学旅行に行けない
◆ 学校の教材が買えない
また、夏休みともなれば、更に悲惨なことになってしまいます。
猛暑の中、クーラーをつけることもできず、栄養価の高い食事である給食も出なくなるため、栄養価の偏ったコンビニやスーパーの惣菜に頼ることになり、慢性的な栄養不足に陥ってしまうのです。
この影響は大きく、育ちざかりの子供の成長を一番妨げる要因となります。
貧困家庭の特徴
日本におけるひとり親家庭の貧困率は50.8%にも上り、先進国の中でも最悪な状態にあります。
しかし、日本の貧困層にはある1つの大きな特徴があり、有職者の貧困家庭よりも、無職者の貧困家庭の方が比率は少ないのです。
これは日本の社会が子育てをしながら働ける環境にないことが大きく影響しています。
満足な収入が得られる正規雇用者としての雇用が難しく、子供を育てながら働けるのが、下記のような非正規雇用となる職場に限られているため、安定した収入が得られないだけでなく、十分な収入を得ることができないのです。
◆ パート
◆ アルバイト
これは日本の社会にも大きな損失を生む原因と言われています。
貧困家庭に育った子供は、納税義務が課せられる年齢になっても、納税者とならず、社会保障に頼る生活を送ることが多く、これによる社会的損失は42.9兆円に上るのです。
となれば、母子家庭の貧困問題は、社会的問題として、社会ぐるみで解決していかなければならない問題だと言えるでしょう。
厚生労働省によると貧困率は50%以上
先にも言いましたがひとり親世帯となる、母子家庭の貧困は社会的問題です。
そこで、その意識を持ってもらうためにも、母子家庭がなぜ貧困に陥るのか、また、母子家庭はなぜ貧困の連鎖が起きやすいのかを知る前に、母子家庭の経済状態の実情を見ていきましょう。
母子家庭の収入は全世帯平均の半分以下
全世帯 | 子供のいる世帯 | 母子家庭世帯 | |
---|---|---|---|
平均世帯所得 | 549.6万円 | 697.3万円 | 262.6万円 |
平均所得以下の割合 | 61.4% | 42.2% | 95.1% |
世帯員1人あたりの所得 | 207.3万円 | 166.9万円 | 97.1万円 |
貧困率 | 15.7% | 12.9% | 13.9% |
*世帯収入と世帯員1人あたりの所得
参考:厚生労働省「平成22年国民生活基本調査」
厚生労働省「平成22年国民生活基本調査」によると、全世帯の平均所得が549.6万円であるのに対し、母子家庭世帯の平均所得は262.6万円と半分以下になっています。
子供がいる世帯と比べると3分の1強とさらに差が広がります。
「平均的な世帯よりも母子家庭は世帯員数が少ないから、ある程度所得が少なくても生活に問題はないのでは」と考える人がいるかもしれません。
ですが、世帯員1人あたりの所得を見ると、母子家庭世帯の世帯員は全世帯の世帯員の半分以下の所得しか得ていません。
住居費や食費、学習関連費、通信費等すべての1年間の出費を合わせても、100万円以下に抑えなくては暮らしていけないのが母子家庭の実情なのです。
また、全世帯の平均所得以下の世帯が占める割合を見てみると、母子家庭世帯の約95%は、平均所得以下で暮らしていることが分かります。
つまり、母子家庭が20世帯あるなら19世帯は、平均所得以下の収入で生活しているわけです。
これらの結果から、世帯全体として見ても、個人として見ても、母子家庭は経済状況が明るくないことは明白ですね。
◆ 厚生労働省「平成22年国民生活基本調査の概況・世帯別の所得の状況」
3分の1以上の世帯が貯蓄0円
全世帯 | 子供がいる世帯 | 母子家庭世帯 | |
---|---|---|---|
貯蓄がない世帯の割合 | 16.0% | 15.3% | 36.5% |
平均貯金額 | 1047.0% | 706.7万円 | 263.8万円 |
*世帯の種類と貯蓄のない世帯の割合・貯蓄額
参考:厚生労働省「平成25年各種世帯の所得等調査」
子供がいる家庭では、何かと出費がかかります。
支出も増えますので、貯金をする余裕がなくなってしまうことも多いでしょう。
厚生労働省が実施した「平成25年各種世帯の所得等調査」によると、子供がいる世帯の15.3%は貯金がまったくない状況でした。
一方、母子家庭世帯に限定して見てみると、全世帯のうち36.5%が、つまり3世帯に1世帯以上が、貯金がまったくない状況となのです。
また、貯金の額にも大きな違いが見られました。
全世帯の平均貯蓄額は1,047万円でしたが、母子家庭は約264万円と、わずか4分の1の貯蓄しかないことが明らかになっています。
貯金が少なければ、病気や解雇等、不測の事態で収入が得られなくなった時は、あっという間に生活が困窮状態に陥ってしまうでしょう。
母子家庭の貧困が一時的な状況なのではなく、将来も続く可能性が高いとも言えるのです。
◆ 厚生労働省「平成25年各種世帯の所得等調査」
母子家庭世帯の14%が生活保護を受給
全世帯 | 母子家庭世帯 | |
---|---|---|
生活保護受給割合 | 1.62% | 14.4% |
*平成23年度・生活保護受給世帯の割合
参考:平成23年度全国母子世帯等調査
生活保護受給人員・世帯数
どうしても最低限の生活ができない時は、生活保護を受けることも可能です。
とはいっても、生活保護を受けるためには、本当に仕事が出来ない状況にあるのか、活用できる資産はないのか、肉親などの頼れる人はいないのか等を厳しくチェックしますので、簡単に活用できるものではありません。
母子家庭の母親が生活保護を頼って、申請したものの、けんもほろろに断られてしまったという話はよく耳にします。
しかし、厚生労働省の平成23年度全国母子世帯等調査によると、母子家庭世帯のうち生活保護を受給している世帯は14.4%でした。
日本の全世帯のうち1.62%が生活保護を受給していることと比べると、母子家庭世帯は約9倍もの高確率で生活保護を受給していることが分かります。
この点からも、母子家庭の貧困具合がいかに酷いものなのかが、うかがえますね。
◆ 厚生労働省「平成23年度全国母子世帯等調査」
◆ 厚生労働省「生活保護受給人員・世帯数」
母子家庭が貧困に陥る理由
ここまで母子家庭の下記数値については触れてきましたが、いずれを見ても、母子家庭世帯は他の世帯よりも経済状況が良くないことは明らかです。
- 世帯所得
- 世帯員あたりの所得
- 貯蓄額
- 生活保護受給率
上記数値の
それではなぜ、母子家庭は貧困状況に陥ってしまうのでしょうか。
ここではその理由について、検証していくことにします。
仕事が不安定だから
今まで専業主婦であった人が、離婚や死別等の理由により急に母子家庭になった場合、定職を探すだけでも一苦労です。
下記のように女性の場合、結婚後ん就業継続割合は50%に満たないのが実情で、実に多くの人が定職から離れています。
就業継続 | 出産退職 | 出産前から無職 | 不評 | |
---|---|---|---|---|
割合 | 38.3% | 33.9% | 23.6% | 4.2% |
*第1子出産前後の母親の就業状況
参考:第1子出産前後の女性の就業継続率
看護師や薬剤師等、すぐに職を見つけやすい資格を持っており、場先が見つけやすい人なら問題ありませんが、大抵の場合は何の資格もなく、手探りの状態で仕事を探すことになりますし、年齢が高くなればなるほど苦労をします。
また、仕事が見つかったとしても非正規採用になることも少なくなく、高収入が見込めないどころか、社会的保証も充分に得られないことも多いでしょう。
結婚後も仕事を継続している人でも、子供が生まれる前後に仕事を辞める人が多いため、再就職には時間がかかります。
内閣府の「第1子出産前後の女性の就業継続率」に関連するデータでは、第1子の出産前後に6割以上の母親が無職の状況であることが確認できます。
子供が小さいうちは育児に専念しようと計画している人が多いため、離別や死別によって収入源がなくなってしまうと、たちまち生活が立ち行かなくなってしまうというわけです。
以上のように、満足な収入が得られる職に就けないことが、まずは母子家庭の経済状態を貧困におとしめる1つの要因と言えます。
◆ 内閣府「第1子出産前後の女性の就業継続率の動向関連データ集」
養育費を受け取っていないから
死別 | 離婚 | 未婚 | その他 | |
---|---|---|---|---|
割合 | 7.5% | 80.8% | 7.8% | 3.9% |
*母子家庭になった理由別割合
参考:平成23年度全国母子世帯等調査結果報告
厚生労働省の「平成23年度全国母子世帯等調査結果報告」によると、死別によって母子家庭になるのは全体の7.5%でした。
死別であれば下記のようなお金を手にできるため、母子家庭となっても、貧困に陥る心配はないでしょう。
- 生命保険
- 退職金
- 遺族年金
しかし、現実は約8割が離婚、1割弱がシングルのまま出産することで母子家庭になっています。
これらの人は上記の恩恵を受けることができないのです。
ですが離婚時に子供がいる場合には、離婚理由によっては慰謝料を求めることもできますし、別れた夫から子供の養育費を受けることができます。
下記は離婚後の親権者割合を示した表です。
親権者 | 男性 | 女性 |
---|---|---|
割合 | 12.4% | 87.6% |
*調停離婚における未成年の子供の親権者
参考:全家庭裁判所「調停離婚における未成年の子供の親権」
この数値を見てみると、約9割は母親に親権が委ねられています。
もちろん、父親が親権を持ち、母親が監護権を持って養育するというケースもありますが、離婚した場合に未成年の子供の約9割は母親と暮らしているのが実情です。
そこで注目してもらいたいのが、下記の養育費を受け取っている割合です。
養育費の状況 | 受け取っている | 受け取ったことがある | 受け取ったことがない | 不詳 |
---|---|---|---|---|
割合 | 19.0% | 16.0% | 59.1% | 5.9% |
*養育費の受給状況
参考:厚生労働省「離婚母子世帯における父親からの養育費の状況」
多くの未成年の子供が母親と暮らしているにも関わらず、この調査結果によると、コンスタントに養育費を受け取っている世帯はわずか19%にすぎないのです。
ここまで説明したように、離婚後の母親の収入は決して満足なものではありません。
そこに輪をかけて、子供の父親が何の援助もしないという身勝手な対応が、母子家庭をさらに貧困状態に追いやっているのは間違いないでしょう。
下記は父親の年収別による、養育費の相場です。
年収 | サラリーマン | 自営業 |
---|---|---|
300万円 | 2万円~4万円 | 2万円~4万円 |
400万円 | 2万円~4万円 | 2万円~4万円 |
500万円 | 2万円~4万円 | 4万円~6万円 |
600万円 | 4万円~6万円 | 6万円~8万円 |
700万円 | 4万円~6万円 | 8万円~10万円 |
800万円 | 6万円~8万円 | 8万円~10万円 |
上記は子供が14歳までの相場となりますが、教育費がかさむようになる15歳から19歳では、下記のように金額が増額されます。
年収 | サラリーマン | 自営業 |
---|---|---|
300万円 | 2万円~4万円 | 4万円~6万円 |
400万円 | 4万円~6万円 | 4万円~6万円 |
500万円 | 4万円~6万円 | 6万円~8万円 |
600万円 | 6万円~8万円 | 8万円~10万円 |
700万円 | 6万円~8万円 | 10万円~12万円 |
800万円 | 8万円~10万円 | 12万円~14万円 |
これはあくまでも相場ですから、実際に得られる養育費は、離婚調停時等での話し合いによって、変わってきますが、得られると得られないとでは、間違いなく経済状態に与える影響は違ってきますよね。
「母子家庭が貧困なのは母親が身勝手だから」という声も耳にしますが、貧困状態になっても多くの母親は、子供の世話をしながら生活しています。
母親の身勝手さ以上に、自分の子供の養育費すら払わない父親の身勝手さも、母子家庭の貧困を生んでいる1つの要因と言えるのではないでしょうか。
◆ 全家庭裁判所「調停離婚における未成年の子供の親権」
◆ 厚生労働省「離婚母子世帯における父親からの養育費の状況」
社会保障制度を詳しく知らないから
母子家庭が貧困から抜け出せない要因の1つに、利用できる社会保障制度や助成金を把握していないことが挙げられます。
これら社旗保険制度や助成金の利用には、手続きが必要になるため、その存在を知らずに手続きが行われないまま、支給を受けていないという母子家庭も出ているのです。
母子家庭が受けられる社旗保証制度は、下記のものが挙げられます。
制度名 | 支給対象(1人分) | 支給額(月額) |
---|---|---|
児童手当 | 3歳未満 | 15,000円 |
3歳以上~小学校修了前 | 10,000万円 | |
児童扶養手当 | 20歳未満 | 42,000円 |
児童育成手当 | 18歳以下 | 13,500円 |
特別児童扶養手当 | 精神又は身体に障害を有する20歳未満 | 1級:51,700円、2級34,430円 |
住宅手当 | 20歳未満 | 自治体によって違う |
地方自治体による助成金は、住んでいる地域によって、支給額が異なります。
また子供の人数に応じて、支給額も増額されるので、特別児童扶養手当以外の3つの児童手当の支給が受けられれば、月額65,000円から70,000円の支給を受けることが可能です。
またこの他にも、下記のような補助や免除を受けることもできます。
- 健康保険料の免除
- 医療費助成
- 保育料減額
- 公共料金の割引
上の3つは広く知られていますが、公共料金の割引が受けられることは、知らない人も多いでしょう。
これは地方自治体によって、割引される項目が異なる上、この制度自体を実施していないところもあります。
まずは、住んでいる地域の自治体に確認してみるようにしてください。
これら社旗保険制度や助成金は、収入の少ない母子家庭の救済制度ですから、所得制限が設けられており、それを超える所得がある場合には、支給を受けることができないものも含まれます。
母子家庭ならば必ず受けられるというものではないので、この点は覚えておきましょう。
自己責任と思って我慢してしまうから
また貧国から陥る理由の1つとして、このような状況に陥ったことを、母親自身が自己責任だと思い込み、1人で頑張ろうと我慢してしまうことが挙げられます。
母子家庭に至る原因は人それぞれですが、貧困に陥るような収入しか得られない状態であれば、1人で抱えていても、問題が解決するわけではありません。
先に説明したように、日本の職場環境は子供を抱えながら働ける環境が整っていないため、母子家庭の母親が正規雇用者として働けるな所は狭き門なのが実情です。
特に資格もなく、30歳を超えているようであれば、普通でもなかなか満足いく職場を見つけることができません。
となれば子供を抱えながら、母親が正規雇用者として働ける場所を探すのは、簡単なことではないことは明白ですよね。
近年はひとり親世帯を救済すべく尽力しているNPO団体をはじめとする、多くの組織が存在します。
まずは、そのような組織に相談し、今後の生活改善のために、どんなことをすればいいのかを相談してみるのもいいでしょう。
シングルマザー家庭の貧困は連鎖するのか?
母子家庭で育った子供は、下記のように負の連鎖を引き継ぐことが多いという話をよく耳にします。
- 希望する職に就けない
- 正規雇用者に慣れない
- 社会保証制度に頼った生活となってしまう
- 親と同じように貧困を招いてしまう
それではなぜ、母子家庭の貧困は、このような連鎖を招いてしまうのでしょうか。
ここでは貧困が連鎖しやすい理由について説明します。
貧困が連鎖することは多い
奨学金のほとんどは給付型ではなく貸付型です。
母子家庭の世帯が利用できる「母子父子寡婦家庭福祉資金貸付金」も、無利子ではありますが、貸付型のため返済義務が課せられます。
奨学金を得て大学を卒業すると、4年後には数百万円の借金を背負うことになるのです。
新入社員の少ない給料の中から奨学金の借金を返済することになりますし、中には、家族への仕送りをしなくてはならない人もいるでしょう。
貧困家庭に育つと、親の援助を受けられないことが多いため、スタート地点から負債を背負うことになるのです。
これがまずは貧困が連鎖してしまう、要因の1つとなってくるでしょう。
塾に通っていない=貧困の連鎖ではない
もちろん奨学金を利用することだけが、貧困を連鎖させる理由ではありません。
世帯における貯蓄が少なく、経済的に不安定な状況が続くことも、貧困の連鎖につながります。
昨今、子供の貧困の連鎖の要因の1つに、経済的な事情から塾に通わせることができないことを挙げる報道がしばしば見られます。
その理由はで、塾に通わせないことが、下記のような結果を生み出す要因となるからだそうです。
- 学力が上がらない
- 良い大学に入れない
- よい会社に入れない
なんだか、無理くりな3段論法のようにも思えますね。
ですが、実際にそうなのでしょうか。
「親の収入と高校卒業後の進路」
参考:文部科学省「親の収入と高校卒業後の進路」
上記の文部科学省が公開しているデータによると、親の年収と子供の学歴は、ほぼ正比例の関係にあります。
となれば収入が少なく、塾に通わせられない家庭では、先ほどの三段論法にも、真実味が湧きますよね。
ですが、これは収入が低いから、大学に進めず、良い就職に就けないことを意味しているわけではないのです。
少子化の現在、レベルさえ問わなければ、大学に入学できる可能性は高いと言えるでしょう。
今の時代、一昔前のように、大学卒業資格が好成績の証明となるわけではありません。
年収が高い人の子供の大学進学率が高いのは、経済的余裕があることから、大学に入学すること自体が普通と捉え(=それ以外の選択肢を考えない)、その結果、大学進学率が高いだけなのです。
ですから、年収が低いと塾に行けないと「塾に行けないから学力がつかない」→「学力が低いから大学に入学できない」→「いい大学に入学できないからいい会社に入社できない」という3段論法は、好成績でなくても大学入学が可能な、今の少子化時代においては成り立たちません。
◆ 文部科学省「親の収入と高校卒業後の進路」
子供自身が大学進学をあきらめることが多い
しかし、収入が少ない世帯では、大学進学という選択肢が、特別なことなのは間違いないでしょう。
奨学金という借金を背負ってまで大学に行くよりも、普通に仕事をした方が楽に生活できると、子供が考えてしまうのも当然です。
また、子供になるべく早く収入を得させるために、親が大学進学をしないように有言無言で圧力をかけることもあります。
経済面以外に精神面に問題があることも
貧困のために常に家庭内に問題を抱え、親子ともに情緒的に安定せず、不登校になってしまう子供も多く見られます。
精神的に不安な状況にいることで、将来を見据えた判断ができず、その時の感情で今後の人生を決定してしまうことも少なくないのです。
貧困は断ち切れる!今すぐ実行したいこと
子供の幸福を願うなら、貧困の連鎖は何としても断ち切りたいものです。
貧困の連鎖を断ち切るために、どのようなことに留意することができるでしょうか。
長期的視野を育てる
「学歴別生涯賃金(退職金を含まない)」
参考:独立行政法人労働政策研究・研修機構「2014年 学歴別生涯賃金」
すぐに社会に出て働くことももちろん立派なことです。
ですが、長期的に見ると、学歴が高い方が生涯賃金も高くなります。
奨学金を背負ってでも高等教育を身につける方が、トータルでは多くの収入を得られることになるということを、一度親子で検討してみてください。
◆ 独立行政法人労働政策研究・研修機構「2014年 学歴別生涯賃金」
精神的にリラックスできる環境を育てる
将来を決定するのは学歴だけではありません。
将来に対して楽観的な見方ができることも、子供自身の強さになります。
子供が将来に希望を持てるようになるためにも、親は情緒的に落ち着ける環境を準備することが大切なのです。
貧困により辛いことも多いですが、なるべく明るい気持ちで毎日過ごせるように心がけましょう。
母子家庭を支援するNPOを頼る
先にも話の中で少し触れましたが、今では母子家庭の支援を目的とした、多くのNPO団体が設立されています。
ここで行われているのは、下記のような支援です。
- 就業情報の提供
- 利用できる行政情報と申請時期の提供
- 各種相談
- 居住支援
また、定期的に母親同士の交流会が開かれる上、クリスマス会など多くのイベントが開催されています。
母子家庭の母親が情緒不安定になりがちなのは、全ての悩みごとを1人胸の中にため込んでしまうことが、一番大きな原因です。
ため込んだものを発散できれば問題ありませんが、生活苦からくる重圧により、それどころではないでしょう。
ため込んだまま、解決できずに、精神的ストレスが大きくなっていくばかりといった具合です。
しかし、こうしたNPOの支援を求めれば、問題解決となる方法が見つかりやすい上、同じ状況に置かれた母親たちとの交流で、母子家庭の母親にしかわからない悩みを話し合ったり、情報交換することができます。
経済的問題の解決だけでなく、心の問題もケアできるというわけです。
1人ですべてを抱え込んでしまうのではなく、NPOの支援を利用してみることをおすすめします。
Q&A:母子家庭の貧困に関する質問と回答
①シンママの貧困は子どもがいるのに離婚したから自業自得?
こういった論評はよく耳にしますが、この意見にはうなずけるところはあるものの、一概に肯定できるものではありません。
離婚は離婚後の生活設計をしっかりと立てる必要がありますが、離婚原因が夫からのDVであることが少なくないため、それどころではなかったというケースがあるからです。
また、日本の職場が子供を育てながら働ける環境ではないという問題も母子家庭の貧困に大きく影響しています。
そのため正規雇用が叶わず、低賃金のパートやアルバイトを掛け持ちしなければならない羽目になってしまうというわけです。
よって、母子家庭の貧困は離婚だけの問題とは言い難く、社会システム全般が引き起こしている問題であるとも言えます。
母親の自業自得という意見は、賛否両論ありますが、全てのケースにおいて肯定することはできないのです。
②母子家庭が生活費にも困るような貧困層に陥るのはどうして?
母子家庭が貧困に陥る要因は、さまざまなものが挙げられますが、一番大きな要因となるのは、やはり十分な収入が得られていないことにつきるでしょう。
母子家庭の母親の収入が十分でないのは、下記のような理由が挙げられます。
- 正規雇用者になれない
- 子供が幼い時の離婚が多い
- 養育費をもらえない
父子家庭のパート・アルバイトなどの非正規雇用率は、6.8%ほどですが、母子家庭の場合は43.8%と大きく上回ります。
また、小学校を卒業するまでは、子育てには時間と労力が必要になるため、離婚時の子供が幼い場合は、どうしてもフルタイムで働くことができません。
そして、養育費を受け取っているのは全体の19.0%と低く、子供の生活費だけでなく、教育費の全てを母親が担っているのが実情です。
収入が低いのに、子供の養育費を全て母親が担っているのが必定ですから、貧困に陥る可能性が高いのもうなづけるところですよね。
③子どもの結婚相手が母子家庭だと、親としては受け入れられないもの?
できるだけいい条件の相手と結婚してもらいたい。
親がそう願うのは当然の話です。
しかし、これは母子家庭という環境で立派に成長した子供にも失礼な意見ですし、女手1つで子供を育て上げた母親をも侮辱することになります。
ですが、母子家庭に対する偏見が消えていないのも事実ですし、母子家庭で育った子供には、下記のような特徴があるとも言われています。
- 愛情不足
- ちゃんとした躾がされていない
- 性格が攻撃的
しかし、これは育った環境が影響してくるため、母子家庭で育った全ての子供がこれらの特徴に当てはまるわけではありません。
ですが、それを考慮したとしても、今結婚しようという年齢の親の世代では、世間体を気にする傾向が強いため、もろ手を挙げて賛成することは少ないでしょう。
まずは両親に、結婚相手をよく知ってもらうことが重要になってくるでしょうね。
④夫は外面が良い一流企業勤め。離婚して貧困に陥るより我慢したほうが子どものため?
離婚原因は人それぞれです。
この先どうしても一緒に人生を歩んでいけないという場合には、互いにとって離婚という選択肢が、最上の選択となってくることもあるでしょう。
それに夫が一流企業に勤務しているのであれば、下記の3点において期待が持てます。
- 慰謝料
- 養育費
- 資産分配
離婚原因や話し合いによっては、当面の生活費だけでなく、高額な養育費も期待できます。
それを元手に、資格を取るなどして、好条件な職を探すのも1つの手です。
いやらしい話にはなりますが、この3つの交渉は重要なポイントになってくるので、離婚訴訟に強い弁護士に相談してみることをおすすめします。
⑤養育費を払わず逃げ得な人たちを政府が何とかしないのはなぜ?
養育費の不払いに対する対処法は、民事執行法に則った対応が求められます。
政府は何もしてくれないという印象が強いのですが、決して何もしていないわけではありません。
養育費の不払い訴訟は民事事件となるため、刑事事件を取り扱う警察が介入することはできす、民事執行法により、問題を解決するしかありません。
この民事執行法に則った、裁判所命令による財産差し押さえの強制執行という方法で、不払い分の養育費を相手から得ることができます。
しかし、そのためには相手の資産状況を調査する必要があるなど手続きが複雑で、弁護士に依頼する必要があるため、費用面を気にして金額が比較的少ない養育費の訴訟を諦める人が多いのが実情です。
泣き寝入りする人が多いというわけですね。
ですが、養育費の未払いが多く、それが母子家庭の貧困に大きく影響していることを鑑みた法務省が法改正の検討に入り、法制審議会の民事執行法部会が主導で、強制執行時に財産情報が取得できる新制度を盛り込んだ、民事執行法の改正要綱案がまとめられたのです。
その内容は相手の各資産を、裁判所が各金融機関と市町村に紹介するというもので、前もって相手の資産情報を踏まえた上で、強制執行を求めることができるようになります。
ちゃんと政府も養育費の不払い問題の解決のために、動いていたというわけです。
しかし、この方法を取るためには、養育費の支払いが、下記いずれかの方法で明確化されていることが条件になります。
- 家庭裁判所の調停や審判を行っている
- 家庭裁判所で判決が確定している
- 養育費の支払いを文書で取り交わしている
また文書で取り交わしている場合には、その文書が公正証書であり、その中に強制執行に関する取り決めが盛り込まれていることが条件とになります。
養育費の支払いを口約束で取り交わしただけでは、利用できません。
この点は注意するようにしてくださいね。
貧困を連鎖させないという強い意志が大切
収入の問題や養育費の問題等、さまざまな事情から、母子家庭はどうしても貧困に陥りやすくなります。
そうならないためにも、離婚を視野に入れる場合には、離婚後の生活設計をしっかりと立てる必要があるでしょう。
もう一緒にいられないから、とにかく早く離婚したいと考える人も多いでしょうが、離婚後の収入が未知数のままでは、安定した生活を送ることはできません。
母子家庭の貧困を生む理由の1つが、離婚後の生活設計を立てないまま、勢いだけで離婚してしまうことにあります。
この点は忘れず、しっかりと頭に叩き込んでおく必要があるでしょう。
また、しっかり生活設計を立てた上での離婚にもかかわらず、品行を招いてしまうことも考えられます。
ここで母親が一番に念頭に置かなければならないのは、子供に祖の貧困を連鎖させてはならないということです。
収入が乏しければ、生活していくだけで精いっぱいになるのはわかりますが、自分以上に子供には精神的ケアが必要になります。
子供はなにも言わなくても、離婚後の母親の心の変化は敏感に感じ取っているので、それが子供の心情面や行動に大きく影響してくるのです。
これは東大大学院教育学研究科の資料でも公表されており、下記のケースに当てはまる場合は、子供の心や行動に大きな影響を与える可能性が高いとされています。
- 離婚後の母親がメンタル的、経済的に弱くなり、親としての機能を果たせなくなった
- 離婚後、母親が長時間労働することにより、子どもと接触する機会が減った
メンタル的に追い詰められた精神状態では、子供の面倒を見ていても、まるで何かの作業をやっているかのごとく、子供に対して全然気持ちが入っていないことがすくなくありません。
しかも、収入を得るためにパートの掛け持ちをするなど、長時間労働を強いられることも少なくないでしょう。
そうなれば子供と接する時間や心情的余裕がなくなり、子供との触れ合いがだんだんと減ってしまい、だんだんと子供の気持ちがわからなくなってしまいます。
このような状態だと、子供は不安やさみしさを募らせていき、非行に走ってしまう可能性が高くなってしまうというわけです。
となれば明るい将来は期待できず、母親と同じような生活を強いられることになってしまいます。
貧困が子供の世代へと連鎖しないためにも、まずは子供のケアが重要になってくるでしょう。
将来的な展望を話し合うことも必要です。
無利子の修学資金である母子父子寡婦家庭福祉資金貸付金等の公的支援をフルに活用して、より良い未来を準備するようにしましょう。
もちろん、生活の無駄を極力減らすことも大切ですが、より良い職に就く努力も大切です。
貧困を決して連鎖させないという強い意志を忘れないでくださいね。