銀行融資の必要性まとめ
企業が銀行から融資を受ける必要性とはなんでしょうか?
一見すると「お金を借りる場合は赤字になったときだけで、会社が順調な時には融資は必要ない」と考えてしまいがちです。
確かに、会社がうまくいっていない時には会社にはお金がありませんので、融資は絶対に必要です。
しかし、事業資金融資の必要性はそれだけにとどまりません。
事業性融資は会社が成長したり拡大したり、円滑に運営したりと、会社が黒字で儲かっている場合にも必要になり、むしろ本来の銀行融資の目的とは、順調な会社をより成長させるために行われるものです。
この記事では、銀行融資の必要性について解説していきます。
- 執筆者の情報
- 名前:手塚 龍馬(36歳)
職歴:過去7年,地銀の貸付業務担当
5つの銀行融資の必要性
銀行融資の必要性は大きく分けて5つあります。
このうち4つは黒字の企業に対して行う融資で、必ずしも融資は赤字の企業に対して行うものではありません。
まずはそれぞれについてざっくりと説明していきます。
規模拡大のための設備投資
規模拡大には設備投資が欠かせません。
新工場、新店舗、新しい製造レーンなどあらゆる規模拡大にはほぼ設備投資が伴います。
このような設備投資はよほど内部留保が充実している会社であれば自己資金で賄うことができますが、一般的な中小企業において、設備投資を自己資金で行うことは不可能ですので、このような場合には銀行融資の必要性が生じます。
会社を円滑に回していくため
会社を円滑に回していくためには、手元にある程度の資金が必要になりあます。
飲食業やサービス業などの現金商売以外は、通常は支払いが先、売上の入金は後になるためです。
このため、売上が入金になるまでの期間に会社を運転するための資金が手元にないと会社は円滑に回っていきません。
このような運転資金を正常運転資金とか経常運転資金と言いますが、これらの資金も銀行から融資によって調達する必要性があります。
スケールメリットを得るため
仕入れの際には、ある程度の量を一括で借りてしまったほうが、単価は安くなります。
仕入れコストを下げて利益率を高くするためにある程度まとまった量の仕入れを一括で行うことは1つの経営テクニックです。
まとまった仕入れを行うためにはまとまったお金が必要になるため、このような場合にも銀行から融資を受ける必要性が生じるのです。
銀行との信頼関係醸成のため
銀行との信頼関係はただ口座を持っているというだけでは構築できません。
融資取引を行い、返済実績を作り、銀行から「信頼できる取引先」というお墨付きを得る必要があるのです。
融資を受ける必要がない会社にも銀行は「お金を借りてくれ」という営業をかけてくることが少なくありません。
このような場合にお金を借りてあげて、期日通りの返済を行うことで、銀行から「信頼できる会社」という評価を得ることができます。
銀行との信頼関係ができていれば、本当に会社にお金が必要となった場合に、融資手続きや審査も円滑に進むため、今は融資を受ける必要はない場合でも、いざお金が必要になった時に備えて、銀行と信頼関係を構築するために融資取引を行っておくというのも1つの銀行融資の必要性です。
赤字を補填するため
不況などの理由によって会社経営が困難になった場合に、銀行から不足分の資金の融資を受けるケースです。
最も分かりやすい融資の必要性ですが、このケースは融資によって企業が立ち直る見込みがあると銀行が判断した場合のみしか融資を受けることはできません。
規模拡大のための設備資金
規模拡大のための設備資金で融資が出ない場合には、企業はどうなってしまうのでしょうか?
融資がないと競争力を失う
設備投資とは規模拡大や技術力向上のために必要です。
同業他社が設備投資を行い、より良い技術やより効率的な技術を取り入れているにも関わらず、自社が何も投資を行わない場合には、自社よりも他社のほうが融資性を確保することになってしまいます。
融資を受けるのを嫌い、設備投資を控えていると、他社との競争力が失われてしまうというリスクがあるのです。
規模拡大のための時間を買う
本来、規模拡大には時間がかかります。
自己資金を貯めて、顧客の信頼を確保した上で、ゆっくりと拡大していくものです。
しかし、競争と変化が激しい現代では、このように規模拡大のための時間を待っている暇はありません。
そこで、自己資金が貯まるまでの時間を利息を払って融資によって買うという考えで設備投資の融資は行われるのです。
このため、将来的に収益が見込めないような融資案件に対しては銀行は融資を行いません。
会社の運転を円滑化するため
会社の運転を円滑化するための融資がない場合には会社は非常に困ることになります。
融資がないと資金ショート
企業が倒産するのは赤字だから倒産するのではありません。
現金がないから倒産するのです。
このため、いくら売上があって黒字でも、売上に伴って発生した売掛金が現金化できない場合には、支払いができずに倒産してしまいます。
手元に正常運転資金がない場合には融資によって調達するしかありません。
この融資が出ない場合には、黒字なのに手元に資金がないために倒産する「黒字倒産」という事態になってしまいます。
なお、利益が出ている企業の正常運転資金を融資するのは銀行の本来的な役割ですので、通常は問題なく融資に応じてくれます。
将来の入金までの時間を買う
正常運転資金融資は売上金が入金となるまでの時間を融資によって埋めることです。
このため、利息を払って、入金までの数ヶ月間という時間を購入するのです。
通常、支払いと入金の時間的なギャップである資金ギャップは数ヶ月程度の短期間ですので、短期資金で融資するのが王道ですが、最近は1年以上の長期で融資するケースの方が多いようです。
スケールメリットを得るため
一括仕入れによるスケールメメリットを得るための融資が出ない場合には企業経営にどのような影響があるのでしょうか?
融資がないと単価が高くなる
手元に一括仕入れの資金がない場合には融資によって資金調達を行う必要がありますが、融資が出ない場合には、一括仕入れが出ないため、細かく仕入れる必要があります。
そのため、仕入単価が高くなり、利益率が低くなります。
また、仕入れの際の送料などが発生する場合にはその分のコストも負わなけければならなくなります。
利息を払って仕入れコストを下げる
スケールメリットを得る場合の融資は簡単に言えば、利息を払って仕入れコストを下げるということです。
そのため、一括仕入れを融資によって検討している人は、金利や保証料などの融資に伴うコストと、一括仕入れによって得られるメリットを比較して、メリットがある場合のみ一括仕入れを行うようにしましょう。
なお、仕入れを一括で行うということは、社内に多くの在庫を抱えるということでもあります。
多くの在庫を抱えると、在庫管理が甘くなりがちで、会社経営にとってはけして良い状態とは言えません。
会社経営においてはできる限り不要な在庫を持たずに在庫の回転率を上げることが良いとされているためです。
このため、スケールメリットを得るための融資は、銀行が明らかにスケールメリットを得た方が会社にとってプラスになると判断した場合のみとなります。
銀行との信頼関係醸成のため
銀行との信頼関係醸成のための融資を受けなければいつまでたっても銀行との信頼関係を構築することはできません。
信頼関係構築は融資取引にあり
銀行と会社との信頼関係を基本的に融資取引によってしか構築することはできません。
融資取引を行うと、会社に毎年決算書を提出する必要があります。
この決算書を銀行は分析し、企業の評価を行っています。
これによって、銀行が企業のことを知り、必要であればアドバイスをするなどという関係を構築することができるのです。
人間関係でもそうですが、信頼関係というものは、お互いがお互いのことをよく知るということから始まるものです。
会社の決算書はあまり他人に見せたくないものですが、銀行がこの決算書の内容を精緻に知っていることが信頼関係につながりますし、それは融資によってしか構築できない関係性です。
将来必要な時のために利息を払う
現在は融資を受ける必要がなくても、将来的には本当に融資によってお金を借りる必要があると言えるかもしれません。
そのような場合に備えて、銀行との信頼関係構築のためのコストとして利息を払うという考え方です。
ただし、必要もないお金を借りてしまうと、不要な用途に借りたお金を使ってしまい、結果的に返済によって会社の資金繰りが悪化し、経営状態が悪くなるということが多々ありますので、借りたお金の使い道には注意しましょう。
赤字を補填するため
赤字を補填するための融資が借りられない場合にはどのようになってしまうのでしょうか?
融資がなければ倒産してしまう
例えば赤字によって毎月10万円の赤字であれば、手元に資金がない限りは会社は支払いができずに倒産してしまいます。
このような場合を融資によって急場をしのぐことができます。
リーマンショック時のような社会的な不況の場合には、融資によって企業を支えないと、倒産が連鎖してさらに不景気が拡大してしまいますので、国の後押しによって銀行は積極的に融資を行います。
一方、社会全体は不況でないにもかかわらず、単純な経営不振によるか赤字の場合には、売上の拡大やコストカットなどによって企業経営の見直しを迫られることになります。
最も必要で最も審査に通りにくい
「お金を借りる」ということについて普段私たちがイメージすることは、赤字であるがためにお金がなくて融資の必要性があるというのが一般的です。
しかし、この理由は最も銀行融資の審査に通りにくい理由です。
基本的に銀行はここまで述べてきた4つの必要性のように、業務拡大やコスト削減など、融資によって会社の収益がよりよくなるために融資を行いたいと考えています。
このため、融資によって赤字を補填するという理由は最も銀行が取り扱いたくない理由であると言えます。
しかし、融資を行うことで救済できる企業があるならば、その企業を救済することも銀行の重要な仕事の1つです。
このため、赤字を補填するための融資は、融資によって時間を稼ぐことで経営が立て直す見込みがある場合のみ行われます。
融資をしても経営が立て直らないと判断された場合には融資を受けることは難しくなり、具体的には3期連続の営業赤字と債務超過が重なっている場合には、融資を受けることは難しくなります。
まとめ
銀行融資を受ける理由はいくつかあります。
①規模拡大のため
②会社を正常に運転するため
③仕入れコストを下げるため
④銀行と信頼関係を構築するため
⑤赤字補填のため
などの必要性があります。
銀行は意味のないお金を貸してはくれません。
必ず申し込みの際には「何のために必要なのか」という融資の必要性を明確にした上で銀行へ融資の相談を行うようにしましょう。