世界の常識?スイスの路上でバスキングデビューして帰国費稼いでみた

執筆者の情報
名前:赤木しげる
年齢:30代
性別:男性
職歴:平成30年2月よりフリーのトラベルライターとして活躍。

無一文からのヨーロッパ

世界一周からのドロップアウト

世界一周中に旅の資金が尽きた私は、かつてメキシコで出会ったギター侍さんとの記憶を思い起こしていた。

ギター一本片手に旅の資金を稼ぎ、気の赴くままに世界を旅する。

そんな彼は、世界一周という旅をスタートさせたばかりの頃の私にこう言った。

メキシコ時代のギター侍さん

「金無くなったらバスキングやったらええやん!スイスでやったらめっちゃ儲かるで!物価高いからチップの額ぜんぜんちゃうし!」同じ大阪出身ということで気が合い、彼からバスキングという海外でもお金を稼ぐ手段があることを教わった。

懐が寂しくなってくると、侍のコスプレでギターを演奏し、現地の人々に拍手喝采を浴び、チップを稼いでは移動を繰り返す彼の行動を目の当りにした私は密かに心に決めていた。

「俺も金なくなったらとりあえずスイス行ってバスキングってのやったろ!」

救世主はアメリカ人

そんな理由でスイスはジュネーブにと到着した私の有り金は8000円、スイスの物価ではマクドナルドで4回食事をすれば終わりである。

もちろん街にそんな値段で泊まれるホテルも無い。

予想以上に寒かった6月のスイスで、これバスキングに挑戦する前に餓死か凍死かな?とジュネーブ駅前で途方に暮れている私の目に一人の路上演奏者が映る。

駅前で演奏していたブライアン

ボロボロの服に犬を連れ、ギターを弾いて無ければホームレスにしか見えない彼を見て、私は閃いた。

どう見ても彼は日本人が想像するスイス生活を送っていない、彼ならこの高物価スイスに対するなんらかの抜け道を知っているに違いない。

演奏の合間をみて彼に思い切って声を掛けてみた。

「お金が無くて今晩寝る宿がないんだけど、どこかいい安宿か野宿できる場所を知らないか?」

野宿に適した場所でも教えて貰えたらラッキーと思っていた私に対し、ブライアンと名乗ったアメリカ国籍の彼は驚くべき提案をしてきた。

「じゃあ俺の家に泊まれよ、心配しなくても君みたいな人間を何人も泊めたことがあるんだ。」

自分から声を掛けておいてなんだが、話が旨すぎて怪しすぎる。

海外でこの手のパターンは人気の無い場所まで移動した後、身ぐるみはがされるか、体が目当て(強引な同性愛者)と相場が決まっている。

しかし私は彼の提案を快諾した。

彼が悪人でもここでの物価と残金を考えれば寿命が数日変わるだけのことである。

愛すべき隣人達

シェアハウス外観

シェアハウス内

ジュネーブから電車で数駅の閑静な住宅街に彼の住処はあった。

10部屋ほどの一戸建てを様々な国の若者達が十数名ほどでシェアしており、そのリビングのソファが当座の私の寝床となった。

住人達との挨拶が終わると即座に歓迎のパーティーが始まり、その中のやり取りでブライアンをはじめ、住人の多くが一流のバスカーということが判明し、日本に帰るためにバスキングでお金を稼ぎたいという私に対し、その準備と教育を彼らは喜んで整えてくれた。

「お金ができるまでいつまででも居ていいからな、ご飯もいつでも作ってあげるから遠慮するなよ!」

「ありがとう、みんな…こんな得体の知れないおっさんの面倒全部見てくれて。俺もバスキングでちょっとでも稼げるようになったら部屋代と食費入れるから。」

「え?別に俺達もなんも金なんて払ってないぞ?」

「え?じゃあこのシェアハウスの賃貸料とか食費とかどうなってんの?」

「え?ここシェアハウスじゃないよ、誰も住んでない家もったいないじゃん?だから俺らが勝手に住んでるんだよ。あと食べ物もフードプログラムって言って、週2回契約してるスーパーいけば廃棄になる食料全部くれるんだよ、だから住む所と食べ物はタダだぜ、まだ食べられるのに捨てるのはもったいないだろ?」

「せ、せやな、もったいないもんな…」

手分けして食料を仕分けする住人達

仕分けされた食料

今日から俺は

ド素人の私の演奏を聴いてくれる子供たち

歓迎パーティーのおかげで、ようやく私もどうすればバスカーになれるのかを理解できた。

結論から言えば自称してしまえばその瞬間から誰でもバスカーになれるのである。

私自身も、歓迎パーティーで本職のバスカー達から話を聞くまで具体的に何をすればバスカーになれるのか知らなかったのです。

まず「バスカー」とは?

前述の通り、英語のBuskingを名詞化したBuskerなのでバスキングをしている人という意味である。

ただバスカーの行うパフォーマンスで圧倒的に多いのが音楽関係なので、バスカー=ストリートミュージシャンと思われることも多く、またそれも間違いではないのです。

肝心の「バスキング」とは?

基本的に路上で芸を披露して、何らかの恩恵を得る行為全般を指すので、極端な話をしてしまえばなんでも有りなのである。

そこには免許も資格も制度も無く、自称してしまえばその瞬間からバスカーが誕生するのである。

例えばギター侍さんは、バスカー界ではもっともオーソドックスなスタイルと言えるギター弾語りであったし、住人達の中には自国の伝統楽器を演奏する者や、大道芸、手品に自作の雑貨販売、旅の写真販売、人の数だけバスキングのスタイルも多種多様でした。

中にはこんなバスキングスタイルも

結局それって、稼げるの?

この記事を読んで下さっている方々が最も気になる部分は、結局そのバスキングとはどれくらい稼げるものなのか?という点に尽きると思うのでいくつかのモデルケースを紹介させていただきます。

チップで頂いたスイスフランのコイン

差し入れの生ビール、人によりチップは現金でなく現物の場合も

まずは私が、スイスバスキング生活1か月で稼げた金額は約17万円程、スタイルは路上での楽器演奏、実働時間は1日1~5時間を週3~5日程。

私を拾ってくれたブライアンは、1日3~8時間を週6~7日で一月約10万~50万円、スタイルは路上で愛犬を連れてのギター演奏。

住人の1人デニスは1カ月に数日程度、1日15分~1時間程度で月4万円~数十万円程度、スタイルは民族楽器演奏と自作のCD販売。

後述するスイスで出会った日本人バスカーY君は、私とほぼ同じ実働内容で1カ月約60万円、スタイルは複数の楽器演奏とギター弾語り。

具体的な数字を挙げたにも関わらず、その数字の幅が広すぎて、なんの参考にもならなかったと思います。雨が続けば路上に出れず、数日0円なんてことも。

結局個人のスタイルや感性によって多種多様過ぎるのがバスキングであり、それは職業というよりも「生き方」と表現したほうがしっくりくるのではないでしょうか。

違法?合法?

収入に関しては個人の技術や季節、天候等様々な要因で個人によるとしか説明できないのはお分かりいただけたと思うのですが、もう一つ、皆さまの頭に疑問が浮かぶのではないでしょうか?

その疑問がこの見出しであり、その回答も曖昧で申し訳ないのだが、合法に活動できる場合もあれば、違法と見なされる場合もあるとしか言えないのです。

合法な場合の基準は明確で、自治体やエリアによってはパーミット(許可証)を発行しており、許可さえ取れば定められたエリア内での活動は公認となります。

問題は違法と見なされる基準が海外の場合、余りにもその線引きが曖昧な場合が多いからです。

なぜなら同じ場所、同じ時間、同じ内容であっても、巡回の警官や施設職員の気分次第で言うことがころころ変わってしまうので、許可エリア以外での活動はいつ何時違法行為となってしまうかバスカーにもわからないのです。

仮に違法と見なされてしまうと、不法労働による罰金刑や移民局による拘束、最悪国外退去まで話が膨らんでしまうこともあります。

トラ・トラ・トラ

初陣

稼げそうな場所を確保するために早朝出勤する私

さて住人達の好意により、ド素人の私でもなんとかバスカーとしての恰好がついた。

後はひたすらに実践あるのみである。

結果からいうと、私のバスカーとしての初陣の戦果は1時間の演奏で約1500円程であった。

私はその結果に震えた。

日本的に考えると、時給1500円である。シェアハウスに転がっていた楽器をなんとか曲として認識できる程度まで練習しただけの、それまで音楽活動などとは無縁の生活を送ってきたド素人が、並のアルバイトよりも高給取りになってしまったからだ。

やってみれば意外とバスキングってのはちょろいんじゃないか?複数の幸運な要因が重なり、初陣にしては自力以上の結果が出てしまった私はその後、その思い上がりからしばらくの間、バスキング初日に達成した時給1500円の壁を乗り越えることができなかった。

駅前のジャポネ

初陣から1週間、その間の結果は散々なことになっていた。

時給にして数十円、3~4時間演奏して1日の上がりが2~300円。

初日の成果から、とにかく演奏してれば自動的に気前の良いヨーロッパ人達がチップを弾んでくれる。

そんな思い上がった人間とその素人演奏に結果が伴う訳がなかった。

だが、ある日を境に複数の住人達から、同じ内容の気になる噂を聞くことになり、その噂の大本を突き止めたことによって、私のバスキング生活とスイス生活は一変することとなった。

その噂の内容とは、たまに最寄りの駅前で日本人のバスカーがパフォーマンスを行っているという事だった。

会えるなら会ってみたい。

スイスの中では辺鄙な場所であったシェアハウス近郊は、間違っても日本人観光客が訪れるような街ではなかったし、さらに観光客でなくそれが同じバスカーだというのだから驚きだ。

ジュネーブで「こんにちは」

私は基本的に、シェアハウス最寄りの駅近辺でバスキングを行っていたので、いつものように駅への道筋を歩いていた。

すると駅方面から素人でもわかる、とてつもないギターの旋律が聞こえてきたので、私は直感した。

このギターを演奏している人物こそ、最近噂の日本人バスカーに違いない。

ギターの音色に導かれ、駅へと向かうと、そこにはスケッチブックで作った自作の看板をギターケースに立てかけ、軽やかにギターを奏でる日本人バスカーY君の姿があった。

駅前で出会ったY君

彼のギター演奏を楽しみながら、手作りの看板に書かれた自己紹介と、特徴的なギター本体を見比べて一つの疑問が頭をよぎった。

ブライアンの時のごとく、演奏の合間をみて、簡単な自己紹介とさらに頭によぎった疑問を彼にぶつけてみた。

「君はひょっとしてギター侍さんの友人じゃないかな?」

「ギター侍ってSさんの事ですか?」

「そうそう、彼のブログでY君の事見たことあるよ。俺もこの町でバスキングやってるんだけど、その原因を作ったのは彼なんだ。」

Y君の腕を証明するこの人だかり

仁義なきバスキング生活

バスカー戦線異状無し

共通の友人を持つことが判明したY君とは瞬く間に意気投合し、せっかくなのでシェアハウスの住人達に紹介してみると、大歓迎を受け、結局Y君もシェアハウスの一員になってしまった。

ギター侍さんのブログでしか知らなかったY君だったが、話し込んでみるとバスカーとしてもミュージシャンとしても文句の付け所がない人間だった。

そんなY君の指導を受け、私のバスキングも変貌し、それに伴い収入も確実に上がっていった。

基本的にバスキング関連は二人で行動するようになった。

お互いの現状を考えると、そのほうが圧倒的にメリットのほうが大きかったからである。

具体的にいうと、場所の確保である。

Y君からの教えであるが、バスキングをするにあたり、最も結果に反映するポイントは場所なのである。

パフォーマンスの内容やその技術の高低は場所に比べれば2の次3の次なのである。

なにせどんな素晴らしいパフォーマンスも見てくれる人がいなければ収入には繋がらないのだから。

お隣さんは難民

当然美味しい場所は競争相手も多く、毎回毎回美味しい場所を確保できるわけではない。

そこは2人組の長所を生かし、片方が演奏中に片方がより良い条件の場所の確保や、食事、トイレ休憩など、ローテーションを組んでお互いの空き時間を最大限有効活用できるようにしていた。

1人では美味しい場所を確保できても、例えばトイレに行っている隙に他のバスカーに確保されていた、なんてこともざらだからである。

そんな具合にうまい事回りだした私達だったが、すぐにその回転もぎこちなくなってしまった。

その原因は悪いボ○ニア人であった。

説明を始めると記事の内容が変わってしまうため省略させていただくが、記事中の2017年当時のジュネーブにはボ○ニアからの難民が溢れていた。

かっこ良く言うと、レザボアドッグス

国の問題でもあるので、可哀そうな側面もあるのだが、悪いボ○ニア人は路上生活の暗黙のルールを一切守らない。

例えば通行を妨げるような場所取りや、ゴミのポイ捨て、チップを強要するような行為、演奏の場合音量は周囲に十分配慮する、周りに迷惑をかけないという根本的な思考すら教育を受けられない彼らには理解ができないのである。

すでにパフォーマンスをしているバスカーの真横で演奏を始めるような外道も悪いボ○ニア人によく見受けられた。

こちらからの譲歩の上での提案であっても上記のありさまなので、もはや彼らとのやりとりは野良犬の縄張り争い以外の何事でもなかった。

とはいえ、マナーを守っていようが私達も街の住民達からしたらよそ者である。

どちらに非があるにせよ、よそ者同士の小競り合いなど、住民達からすれば迷惑には変わりないので、こちらが折れるしかない場合が多かった。

演奏中のバスカーの横で突然風呂敷を広げる外道ボ○ニア人

挑発してくるボ○ニア人

ありがとうヨーロッパ

すべてが順調というわけではなかったが、私達は1カ月程で共に目標金額に達したためお世話になったスイスはジュネーブに別れを告げることとなった。

Y君はそのままお隣フランスへ向かいバスキング生活件音楽修行の旅へ、つかの間の音楽家生活を満喫した私は日本へ、スイスの人々の優しさのおかげでそれぞれ次の一歩を踏み出せたのだった。

何処をとっても絵になるスイス

この記事の筆者

赤木 しげる

20代より最低1カ月は現地に滞在を信条に、1年の半分を海外生活、残りを得意の語学を生かす為、外資系リゾートホテルで勤務。
1年に渡る世界一周達成を機に、実体験を元に現地密着生活を綴るトラベルライターとして独立。

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