銀行借入で求められる担保とは
事業主や、個人でも銀行から借入を行う際に担保を求められることがあります。
しかし、担保については解っているようで解っていないことがたくさんあります。銀行に上手くやられてしまわないよう担保を理解しておきましょう。
- 執筆者の情報
- 名前: 芦田春馬(39歳)
職歴: 銀行と消費者金融,計15年勤務
目次
担保は銀行にとっての保険
そもそも担保とは一体なんなのかをご説明いたします。
通常、銀行(簡単化のために、その他の金融機関も含めて銀行とします)が担保を求めるのは、融資をした相手が、返済できなくなった時のための保険としての目的になります。
例えば、1億円の融資を行ったと同時に、50百万円の価値がある不動産を担保として取得していることとします。その後、60百万円までは元金の返済を受けたものの、その後、延滞となり、返済が途絶えてしまったとしましょう。
銀行は担保として取得していた50百万円の不動産を売却し、その代金をもって返済が受けられていない貸付金(残高40百万円)や、未収利息などに充当することになります。
つまり、銀行としては、融資を行う際に、融資先の返済能力に不安がある場合や、現在は不安を感じていないが、返済期間が長期に渡る場合に、将来の保険として担保を求めることとなります。
担保には人と物がある!?
そして、担保を大きく2つに分けると人的担保と、物的担保に分けることができます。
それぞれについてご説明したいと思います。
借入人以外から回収する「人的担保」
「人的」担保というだけあり、人を担保として扱うものです。
融資先の返済が困難となった場合に、融資先の人的資源(友人知人などの人間関係)から債権の回収を図ろうとするものです。
具体的な人的担保の例としては、「保証人」があげられます。
保証人とは、融資先への貸付を行う際に、銀行に対して、借入人が返済を無事に行うことを保証する存在です。
そして、借入人が返済出来なくなった場合には、保証人に対して債務の履行が求められることとなります。
銀行としては、借入人単体だけでは将来の返済に不安がある際に、借入人以外の第3者の信用力から回収を図ることの出来る保険となります。
中小企業が銀行から借入を行う際には、大抵、代表者などの経営責任者に保証を求めます。
連帯保証は責任が重い
なお、保証には、通常の「保証」と「連帯保証」の2種類があります。
そして、連帯保証は保証に比べて、遥かに責任が重くなります。
通常の保証の場合、銀行が保証人に対して、債務の履行を求めても、保証人は、「先に債務者に対して請求しろ」や、「債務者の資産から先に回収しろ」ということを求めることが出来、すぐに保証人が債務を履行することを拒否することが出来ます。
しかし、連帯保証人の場合、こういった権利が認められていません。
つまり、連帯保証人は借入人と同等の責任を負う存在となるのです。
そして、銀行が保証人を求める場合、通常、こちらの連帯保証人を指しています。
物的担保とは資産による保全
先ほどの「人的」に対して、「物的」は物や、権利といった資産を用いる担保を指します。
銀行が利用することの多い物的担保としては、不動産(土地や、建物など)や、有価証券(株券など)などがあります。
物的担保の場合、融資に対する返済が滞った場合には、銀行は担保を売却して、売却代金から回収することが可能となります。
また、担保物件については、担保提供者(担保となる資産の所有者)が売却に同意しなくても、担保権を行使することで、強制的に担保資産を売却することが可能です。
人的担保である保証人の場合、債務の履行を求めても、保証人自体も返済できる資力を有していない可能性がありますし、その方も逃げてしまうといった不安要素が考えられます。
人的担保の場合、保証人を拘束することはできません。
しかし、物的担保であれば、不動産を持って逃げるということも出来ませんし、有価証券なども質権として銀行が預かっておくことが可能であり、担保としての安全性は高いと考えられます。
担保の価値(売却する際の価格)も比較的安定していて、銀行から見た場合、担保としての回収可能性は高いと考えられます。
担保を取得することの効力
銀行から考えた場合、担保を取得することによって、担保で守るべき債権(被担保債権と言います)への返済を強制する効果があります。
それには、主に以下の2つがあります。
①優先弁済的効力
②留置的効力
①優先弁先的効力とは、借入人が支払いを出来なくなった際に、担保として取得している資産から、他の債権者に先立って優先的に回収を行うことが出来る効力です。
つまり、担保権者(担保を設定している銀行など)は、無担保の債権者よりも、担保資産の売却代金からの回収を、先に行う権利が得られます。
②留置的効力とは、担保としている資産を留置できることです。
留置とは、ある程度の条件のもと、銀行の支配下に置いて管理できるということです。
つまり、融資に対する返済が行われるまで、銀行が担保となる資産を直接的に管理することができ、借入人に対しては、担保物件が売却されないように間接的に返済を強制する効果となります。
担保として求められる資産はこれ!!
では、次に実際に銀行が求める担保についてご説明いたします。
銀行が担保として求める資産の基準としては、流動性が重要となります。
流動性とは、いざ売却が必要となった際の、売却(現金への交換)の容易さです。
担保の王道:不動産担保
銀行が求める担保の代表例は、不動産担保です。
事業主だけでなく、個人の方が家を購入する際に、住宅ローンを組む際にも活用されます。
ご自宅(マンション、戸建て)、土地、オフィスビル、工場など様々な不動産がありますが、そういった不動産を担保とするものです。
不動産担保においては、担保権を設定しても、対象不動産は担保提供者が、そのまま利用を継続できます。
自宅として住み続けたり、事業用資産として使用を続けることが可能です。
一方で、融資に対する返済が滞った場合には、対象となる不動産を、裁判所を介して、強制的に売却(競売)することが可能です。
預金担保は保全度が高い
預金担保とは、担保提供者が保有する預金(定期預金など)を担保として提供することです。
通常、融資を受ける銀行に対して、担保提供者(借入人自身や、代表者、代表者の親族など)が定期預金を作り、その定期預金を担保として提供することになります。
銀行にとっては、担保提供を受けている定期預金は、融資が完済されるまで、定期預金の解約に応じませんし、定期預金は元本割れすることもありませんので、価値が減少するということもありません。
銀行にとって、流動性が高く、価値が安定しているため、最も安全な担保であると言えます。
売上債権を担保とする受取手形担保
受取手形担保は、借入人が事業を行っているなかで、販売先から受け取る手形を担保として銀行に提供するものです。
受取手形の期日の取り立てまでの一時的な融資を受ける際や、銀行から融資を受ける際に、不動産や、預金担保などの担保物件が無い時に、利用されることがあります。
手形の場合、融資先からの返済が滞ったとしても、手形期日に、手形振出人に資金力があれば現金化されますので、銀行は取り立てされた代金から回収を行うことができます。
銀行は、融資先の信用とは関係なく、手形の振出人の信用に期待することができます。
株式などを担保とする有価証券担保
有価証券担保の目的となる資産には、株式などの有価証券があります。
借入人や、代表者などの担保提供者が保有している株式を担保として預かるものです。
銀行としては、上場会社の株式であれば、証券取引所で容易に売却することができますので、流動性が非常に高い担保と言えます。
但し、株式は、価値が大きく増減することがあるため、融資を行った際に期待していた担保価値を、売却時に大きく下回ってしまう危険性もあります。
そのため、担保として株式を預かる場合の評価額は、その時の時価に対し、一定の掛目(60~80%程度)を乗じて評価しています。
また、有価証券担保には、上場会社の株式以外に、非上場会社の株式を対象とするものもあります。
例えば、融資先の代表者から、その企業の株式や、子会社の株式などを預かることもあります。
担保権が実行されると、代表者の株主としての地位を失ってしまうことにもなるため、代表者に対して、返済を強制する効果が期待できます。
一方で、非上場会社の株式を売却することは困難なため、売却による回収はあまり期待できません。
不動産担保で使われる担保権
融資先からの返済が滞った場合の備えとして設定する担保権には、いくつかの種類があります。
まずは不動産担保で用いられる抵当権と根抵当権をご紹介いたします。
住宅ローンで使われる抵当権
抵当権は、特定の債権を保全するために用いられる担保権です。
そして、抵当権は不動産担保に用いられる担保権となります。
事業主が提供する担保物件に設定されることも、もちろんありますが、個人が住宅ローンを借入した場合に、購入するご自宅に設定されるのが、この抵当権です。
抵当権を設定された担保物件は、銀行に占有されることなく、担保提供者がそのまま占有・使用を継続することができます。
住宅ローンを利用して自宅を購入したが、ローンが完済されるまで、自宅は銀行が占有して、借入人が利用できない(住めない)なんてことはありませんよね。
抵当権を設定する場合、被担保債権となる融資が明確に特定されます。
住宅ローンの場合、抵当権が保全するのは、あくまで住宅ローンで、そのローンから発生する利子や、遅延損害金までとなります。
もし、同じ銀行からカードローンなどの別の借入を行っていたとしても、そちらの借入までは担保の範囲に含めることはありません。
つまり、銀行は、住宅ローンが完済された後に、その他のローンが残っているからといって、抵当権を使って、自宅を競売にかけるということはできません。
根抵当権は不特定多数の債権を担保
根抵当権は、抵当権と良く似ていて、不動産担保に対して設定するものとして、銀行で頻繁に用いられます。
個人の住宅ローンなどでは、使用されることはほぼありませんが、事業性資金の借入を行う場合には、こちらの根抵当権の方が用いられます。
抵当権と根抵当権の主な違いは、被担保債権が特定の債権に限定されるのか、一定の範囲内で不特定の債権を担保するのかということです。
抵当権が特定の債権(例えば、住宅ローンなど)を限定して担保するのに対し、根抵当権は、それ以外に、同じ銀行から借入を行えば、そちらの債権も被担保債権とすることになります。
根抵当権のメリットは、事業会社など、反復的に銀行からの借入を行う必要がある場合、その度に抵当権の設定を行う必要がなく、手間と費用が削減できることです。
デメリットは、特定の債権を返済しても、銀行との取引が継続している、もしくは、今後も継続する予定があれば、根抵当権は使用できるため、担保権の解除を銀行に交渉しづらくなることです。
一旦借入が無くなったからといって、根抵当権の解除を申し出ると、銀行から今後の融資は行わないということで良いのかと文句を言われたり、他行への乗り換えを検討しているのではと怪しまれることもあります。
不動産には質権と譲渡担保権が使われる
動産に対して使われる担保権には主に2種類あります。
それぞれの特徴を理解しておきましょう。
質権では担保物件を銀行が管理
質権は、担保提供者から担保物件を実際に受け取り、融資の返済が終了するまで、その担保物件を銀行が預かり続ける必要があります。
担保提供者が継続して占有、使用し続けることが出来る抵当権などとは、この部分が異なります。
そして、もし融資の返済が滞った場合には、銀行がその担保物件を保管していますので、容易に売却したり、銀行自身の資産とすることで、融資の回収に充当することが出来ます。
質権は、不動産を主な対象とする抵当権・根抵当権と異なり、比較的小額な借入を行う際に用いられることが多くなります。
前述の通り、質権では担保物件を、銀行が占有し続けますので、保管が大変なもの(大きなものや、管理に費用がかかるものなど)には適していません。
そのため、実際には、有価証券などの保管が容易なものに用いられることが多い担保権となります。
所有権が移る譲渡担保
譲渡担保とは、特定債権の担保として、担保提供者から受け取る担保物件の所有権を、担保権者に移転する担保権となります。
融資の返済が滞ってしまった場合には、既に所有権が担保権者に移転していますので、この担保物件を売却して回収することが可能です。
逆に、融資の返済が履行され、完済となった場合には、担保権を行使する必要がありませんので、移転していた所有権を、担保提供者に返還することとなります。
不動産担保ローンの審査
不動産担保ローンの審査は大きく分けて以下の3つの手続きに分かれます。
①保証会社の審査
②担保評価額の審査
③返済可能かどうかの審査
①不動産担保ローンも保証会社の保証が必要になります。仮審査では、主に個人信用情報、勤務先、勤続年数、年収、担保などの審査を行います。
いくら不動産を担保とするといってもブラックの人が審査に通過するのは非常に難しいようです。
しかし、不動産担保ローンはおまとめに使用する人が多いため多重債務者や、借入額が多い人などを担保が付くことでカードローン審査よりも甘く見てもらうことができ、審査に通過できる可能性もあるようです。
②担保となる不動産の評価を銀行が行います。
この際に、担保価格を超える融資を行うことは絶対にありません。担保評価額の半分程度が融資金額の目安であるといわれています。
東京スター銀行の不動産担保ローンは1億円までの融資を行っていますが、1億円の融資を受けるためには評価額2億円程度の不動産を担保として提供しなければならないといわれています。
③いくら、評価額の高い不動産を担保に入れても契約時から明らかに返済不可能と考えられる人に融資は行いません。
例えば東京スター銀行不動産担保ローンで1億円の融資を受けたとした場合、最長期間が20年ですので、金利を考慮しなくても、毎月約42万円程度の返済金が必要になってしまいます。
年間500万円以上の返済金となりますので、このような場合にはその倍以上の1,000万円以上の年収は必ず必要になります。
担保となる不動産があれば無制限に借りることができるわけではありません。
返済が可能であるというという点も審査に際には重要になります。
譲渡担保は担保物件を利用継続できる
動産を担保とする場合には、抵当権・根抵当権が使用できないので、質権か譲渡担保権を用いることとなります。
しかし、質権は担保権者が担保物件を占有することが条件となりますので、担保提供してしまうと、担保提供者はその資産を利用できなくなってしまいます。
そのため、保管しておくだけの有価証券などであれば問題ありませんが、工場設備や、営業用資産などを対象とするには不都合が生じてしまいます。
それに対して、譲渡担保では、担保権者に所有権が移転した後、その担保物件を担保提供者に賃貸(利息を賃料代わりに受取)することで、抵当権・根抵当権のように、担保提供者が引き続き、その動産を利用できます。
銀行にとっては、担保物件を担保提供者が占有しつづけることになるため、担保の保全に注意が必要となります(銀行が知らない間に売却されてしまうなど)。
しかし、担保として取得できる資産が広がるため、銀行にもメリットが生まれます。
譲渡担保は、抵当権が設定できない動産担保で、担保提供者が引き続き利用を継続する必要があるもの(例えば、工場内の機械など)に用いられることが多い担保物件となります。
譲渡担保では、担保物件を売却するだけでなく、企業が事業を継続するための重要な資産であるため、間接的に融資返済を迫る効果を得ることもできます。
担保で融資額や金利が有利になる
融資を受ける際に担保を提供することによって「融資額」と「金利」において有利に融資を受けることができます。
人や物を担保とすることによって融資をする銀行などは弁済できなくなったときに債権回収がしやすくなります。
債権回収がしやすくなるということはそれだけ銀行などが負うリスクが少なくなりますので大きな金額を低い金利で融資することができます。
また、信用が薄くてそのままでは融資できないような場合でも担保を提供することによって融資が受けやすくなります。
融資の際に担保を提供することは、銀行などからすると債権回収のリスクが少なくなり融資がしやすくなりますし、借りる方からすると低金利で高額な融資を受けやすくなりますので、双方にメリットが産まれます。
ですので、個人が住宅ローンなどで年収の数倍もの融資を低金利で受けることができるのも担保があるからこそといえます。
担保の有無で変わる信用保証協会の融資限度額と金利
信用保証協会は中小企業や個人事業主が銀行などから融資を受ける際に利用することが多いですが、信用保証協会では担保の有無によって保証することができる限度額や金利が異なります。
担保がある場合には2億円(組合の場合4億円)までを保証限度額とし、担保がない場合には8,000万円(組合も同額)までを保証限度額としています。
金利においてはさまざまな制度などによって多くの利率がありますが、大阪信用保証協会の一般保証と事業者カードローンで例を挙げてみます。
一般保証では、担保がある場合0.35%~1.80%、担保がない場合には0.45%~1.90%となっており、事業者カードローンでは担保がある場合0.29%~1.52%、担保がない場合0.39%~1.62%となっています。
このように、担保のある場合とない場合では0.1%金利が低くなることがわかります。
融資金額が多くなればなるほど0.1%金利が違うだけで総額で支払う金額は大きく違いますので、担保を提供することによって経営の安定にもつながります。
担保が必要となるローン
融資には担保が必要のないものと担保が必要なものがあります。
法人の場合には融資金額が大きくなりやすいですし、継続的に融資取引を行うために担保を取ることが多いですが、個人に対する融資の場合には担保が必要のないものも多くあります。
担保が必要となるローンの代表的なものといえば住宅ローンです。
住宅ローンは個人が借り入れする物の中で1番大きな金額となる融資ですので、銀行なども担保を必須として債権回収のリスクを少なくしています。
しかし、最近では1,000万円程度までであれば住宅ローンでも担保が必要のない融資もありますので、たとえ住宅ローンであっても融資金額によっては担保が必要のない場合があります。
住宅ローン以外でも不動産を担保とすることを初めから条件としている「不動産担保ローン」というものもあり、子供の大学などの教育資金などで大きな金額が必要な場合に利用することができます。
また、信販会社が融資をする自動車ローンも該当する自動車を担保として融資していますし、株などの有価証券を担保とする「証券担保ローン」というのにおいても担保が必要なローンです。
住宅ローンは担保の価値によって保証料が変わることも
住宅ローンの融資を受ける際に提供する土地や建物ですが、住宅ローンで保証会社に保証をしてもらうための保証料の計算において担保の価値で保証料の基礎となる金額が変わります。
住宅ローンの中には保証料が必要のないものもありますが、保証料が必要な場合には保証会社が算定した担保の価値によって保証料の基礎数値がおよそ2倍になることもあります。
土地や建物の価値を算定する方法は「路線価」や「固定資産税課税証明書」といったものを基に算定し、融資額以上の価値となった場合には「通常保証料」の数値で保証料が計算されます。
もしも融資額よりも少ない価値であった場合には、担保の価値までは「通常保証料」で計算し、超えてしまった部分に関しては「超過保証料」の数値で計算され、通常保証料と超過保証料の合計が支払う保証料となります。
まとめ
借入規模が大きくなってきたり、財務内容に不十分な点があると、銀行から担保を求められることは多々あります。
借入する側が担保について理解していないと、銀行から求められることに、ただ従うだけとなってしまい、不利な条件を受け入れることにもなりかねません。
借入を行う側としても、しっかりと担保について理解しておきましょう。
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