増資と借入のメリット・デメリット
「増資」と「借入」どちらもお金を調達することに変わりはありませんが、根本的な意味が異なります。なお、「増資」と「借入」はそれぞれにメリットと、デメリットがあります。
今回は、「増資」と「借入」の違いや、メリットとデメリットを押さえて、どちらを利用するといいのか参考にしてください。
- 執筆者の情報
- 名前:馬野 伸斗(50歳)
職歴:信用組合に20年以上勤務
増資と借入の違いとは
増資と借入は、大きく分けて五つの違いがあります。その違いについて、これから説明をしますので見ていきましょう。
まずひとつ目は、貸借対照表上における分類の違いです。増資は投資家(株主)からお金を集めて資金を調達するため、株主資本(自己資本)に分類されます。貸借対照表上の左下に当たる部分です。
一方で、借入は金融機関からお金を借りて資金を調達するため、他人資本(負債)に分類されます。貸借対照表上の左上に当たる部分です。
ふたつ目は、資金提供者の違いです。増資は投資家(株主)から資金の提供を受け、借入は金融機関から融資を受けます。
三つ目は、資金提供者への返済の違いです。増資は資金提供者である投資家への返済は必要ありません。その理由は、投資家が会社の成長や事業の成功を期待して出資をするためです。
なお、投資家は株主ですので、増資を受けて利益がでると投資家に配当金として利益を還元する必要があります。借入は金融機関からお金を借りていますので、利息とともに返済する債務を負います。
四つ目は、議決権の違いです。増資は投資家がお金を出資していますので、保有株式数に応じて投資家に議決権が与えられます。借入は金融機関からの借金であり、出資ではありませんので議決権は発生しません。
五つ目は資金提供者の増資と借入における考え方です。増資は会社の成長性や期待から投資家は出資を考えます。借入は収益性や安全性を考え、金融機関の利益のため融資がされます。
増資のメリットについて
増資で資本金を増やすと、信用性が高まると考えられます。増資は財務基盤の強化につながり、自己資本比率を高めることができます。自己資本比率とは、会社の資金力をパーセンテージで表したものです。
「自己資本÷総資本(他人資本・自己資本)×100=自己資本比率(%)」という計算式で求められます。
自己資本比率が高いほど会社の経営が安定していると判断できるため、投資家の信用の獲得につながります。
また、増資は追加で株式を発行しますので、新たな株主の取得にもつながります。得意先や仕入先、一般の投資家が増えることによって、会社をさらに成長させることが可能になります。
会社が期待通りの成長や利益をあげられれば、得意先や仕入先との信頼性も深まると考えられ、また投資家も継続して株を保有してくれる可能性が高まります。
なお、増資は会社側(がわ)からするとメリットですが、投資家からするとデメリットとして捉えられることもあります。
その理由として会社側(がわ)は増資で自己資本比率をあげて経営を強化できますが、投資家は増資の募集条件や方法がどのようにするかで、既存株主の持分割合が減る可能性がでてきます。
そうなりますと、議決権の行使をするときの影響力が減ってしまうためデメリットとなることもあるでしょう。
増資のデメリットについて
増資をしたときのデメリットのひとつ目は、1株当たりの利益が減少することです。増資をすることによって発行株式数が増え、1株当たりの利益が小さくなってしまいます。
そのため、経済指標では悪材料と判断されやすく、株価の値下がりにつながる可能性があります。
ただし、上場していない未上場株式の場合は、株価の値下がりについては余り意識をする必要はないでしょう。
ふたつ目のデメリットが、筆頭株主や大株主の権限が弱まることです。筆頭株主とは持ち株比率の最も高い投資家のことを指し、大株主とは、持ち株比率の高い投資家のことを指します。
なお、どちらも厳密な定義はありませんが一般的に言われていることですので覚えておきましょう。増資を行うと新規の投資家も増え、持ち株比率が低下します。既存の投資家たちは持ち株比率が低下すると、議決権割合も比例して低下してしまいます。
すると、持ち株比率の高い筆頭株主や大株主の議決権が弱まってしまう可能性があるのです。そのため、筆頭株主や大株主から、反対を受ける可能性があります。
三つ目のデメリットは、税の負担が重くなることです。増資をすると資本金が増えるため、優遇税制を受けられなくなることがあります。
優遇税制が受けられなくなると、市県民税などの法人税の均等割合が高くなる場合もあり、税負担が大きくなると考えられます。
借入のメリットについて
借入のメリットひとつ目は、経営権を自分で持てることです。増資の場合は投資家から出資を募るため、株主総会において今後の経営方針などが投資家の可否によって決まります。
そのため、株主総会において可決されなければ施行することができません。一方で、借入の場合は企業が金融機関からお金を借ります。
そのため、今後の経営や戦略などを企業内で決めることができ、投資家の可否が影響されることはありません。
借入のメリットふたつ目は、金利が低いという点です。個人事業主や中小企業が銀行から融資を受ける場合、融資金額が大きいほど金利は低くなります。審査は厳しいですが、金利が1.0%~4.0%程度で借りられる金融機関がおおいため、支払利息を抑えることが可能です。
借入のメリット三つ目は、金融機関の信用が増すことです。融資を受けたお金を滞りなく返済したという記録は金融機関の信用を高めることにもつながります。
なお、返済した実績があると、次の融資を受けるときに比較的に審査が通りやすくなることがあると考えられます。
借入のデメリットについて
借入のデメリットひとつ目は、審査が厳しく資金調達が確実ではないことです。事業資金調達のために融資を受けるときには、りん議書をもとにして厳しい審査が行われます。
担当の銀行員はもちろん、融資課の管理者や次長、支店長まで審査にかかわることもあります。
また、金融機関がりん議書を作成するに当たって、決算書などの財務諸表や申告のときに税務署に提出をした、勘定科目内訳書が必要になります。
財務諸表をもとに営業利益や経常利益など各利益が確認され、純資産がどの程度あるのかなどおおくの観点から審査が行われます。
また、経営が安定的に運営されているか過去の利益も審査対象となりますので、決算書など書類を最低でも3年分準備しなければいけません。このように、借入の審査には手間や時間がかかってしまうのです。
借入のデメリットふたつ目は、赤字経営であっても支払期日に返済しなくてはならないことです。審査に通って融資を受けられたとしても、黒字経営が続けられるかと言うとそうではありません。
経営の悪化により、当期純利益が赤字になることもあるでしょう。
しかし、利益が赤字になっても借入の返済は続けなければなりません。返済を延滞すると督促状などの連絡が来ますが、それでも返済ができない場合、法的処置が執られる可能性がでてきます。
担保として提供したものが処分をされたり、保証人に返済を迫られたりしますので注意が必要です。
また、今後の融資において審査に悪影響が及んでしまいますので、返済が苦しくなったときには金融機関と相談をしながら解決に向けて動くことをおすすめします。
まとめ
増資と借入はそれぞれに、メリットとデメリットがあります。また、増資と借入には大きく分けて五つの違いがあり、「資金調達」という目的は同じであっても、根本的な意味合いが異なってきます。
それぞれの特徴を学び、増資と借入をうまく利用することが大切で、メリットとデメリットを考えて、どちらで資金調達をするといいのか慎重に検討をしましょう。