なんで黒字なのに銀行融資に通らないの?
世間一般では黒字と聞けば儲かっていると思うのが普通です。
しかし、企業の財務状態を判断する金融の専門家にかかれば、必ずしも「黒字 = 儲かっている」という図式にはならないようです。
「なんで?」そう思われる方は多いことでしょう。
ですが実際に黒字なのに銀行融資を受けられない企業の数は少なくありません。
銀行は返済能力がないと判断すれば融資は行いません。
ということは黒字であるにもかかわわず、返済能力がないと判断されるケースがあるということなのでしょうか?
そこで今回はなんで黒字なのに銀行融資が受けられないのか、その原因について徹底検証していきましょう。
- 執筆者の情報
- 名前:馬井実
年齢:49歳
性別:男性
職歴:1992年~2008年まで地方銀行で貸付業務に従事
目次
黒字で銀行融資が通らない理由
それではまず黒字で銀行融資が通らない理由について検証します。
黒字で融資が通らないなんて普通に考えればありえない話ですが、下記のような理由であればそれも納得がいきます。
・資金使途が事業資金以外だった
・ギリギリ黒字であり赤字となっても不思議ではない業績
銀行が企業に融資する際の資金使途は事業資金に限定されています。
よって、その経営者や役員への貸付金であるとか、株式運用のための費用であるといったような直接事業と関係のない資金使途で融資申込をしても、融資が実行されることはありません。
これは黒字赤字関係なく、融資条件の問題となってくるのです。
融資条件をクリアできない融資申込は全て却下されます。
そして銀行は決算の連続赤字を気にします。
1期だけの赤字なら、来季の収益確保が見込める事業計画さえシッカリしていれば融資NG
となることはありません。
ですが連続で赤字の場合は融資NGとなるケースが大半であるのが実情です。
よって、赤字を出した次の決算は特にシッカリと確認されます。
その決算書で些少の額面操作をして黒字にしていたり、赤字になっても仕方がないようなギリギリの黒字であった場合には、2期連続赤字と判断されて融資NGとなると考えておいた方がいいでしょう。
「そんな説明ならば今更言われなくても分かっている」
そう思われた方もいることでしょう。
ちょっと待ってください。
ここからが肝心要の本題です。
今回詳しく検証したいのは、これら当たり前の理屈による融資NGではありません。
下記のケースにおける融資NGです。
・借入総額が多い
・売掛金回収に懸念のある資産が多い
借入総額が多い
経営者の中には「黒字経営なのに、毎回毎回資金繰りに四苦八苦しなければならない」と頭を悩ましている方は少なくないでしょう。
このような企業の特徴として挙げられるのが過分な借り入れです。
この過分な借り入れの返済が決算上では黒字なのに、資金繰りを苦しくしている原因となっています。
その理由を決算書の中の損益計算書を見ていきながら説明していきましょう。
損益計算書をみると下記のように売上の内訳が確認できます。
売上高 変動費
固定費 人件費
金利
減価償却費
その他
経常利益
本業とそれ以外の収入を含めた企業力によって獲得した利益が経常利益であり、これに特別利益と特別損失を加減したものが税引前当期純利益となります。
法人税は損益科目に当たらないので、通常は税引き前当期純利益までの計算が損益計算となりますが、今ではそこから納税額を差し引いいて、下記のように納税後当期純利益まで算出するのが一般的となっています。
しかし、ここで問題となってくるのが、損益計算書に元金の返済額が記載されていない点です。
法人税もそうなのですが、借入金の元金返済額は損益科目ではないため、損益計算書上には記載されません。
となればこの元金返済はどのように行われているのでしょうか?
実はこの元金返済は得られた利益である当期純利益の中から支払われているのです。
よって、下記のA社のように過分な借り入れをしている場合、損益計算書上では黒字となっていても実際は赤字だったというケースが出てくるのです。
(A社の場合)
・税引前当期純利益 400万円
・借入金元金返済額 600万円
・納税額 90万円
・減価償却費 200万円
400万円 - 600万円 - 90万円 + 200万円 = -90万円
この状態が続けば決算書上では黒字であっても、毎度毎度資金繰りに苦しむことになるのも当然です。
しかも、このマイナスとなった額面は自己資本から賄われることになるので、この状態がずっと続けば自己資本は減っていく一方で、遅かれ早かれ債務超過に陥ってしまうことは目に見えています。
これではいくら決算書で黒字となっていても、実質財務状態は赤字であることに変わりありません。
黒字であっても銀行融資が受けられないのもうなずける話ですね。
ずっと連続で黒字決算となっているのにもかかわらず、常に資金繰りに苦しんでいる企業の特徴として挙げられるのがこの自己資本の減少です。
理解しておかなければならにのは、銀行は黒字だから返済能力があるとは判断しないという点です。
銀行は企業に対する融資額に下記のような上限を設けています。
融資限度額 = (当期純利益 + 減価償却費) × 10年
つまり、1期で儲かる利益の10年分が融資上限額となるのです。
銀行はこれを越える融資は返済能力を上回るものとなり、返済不能に陥る可能性があると考えています。
A社のケースだと1年分の融資限度額は下記の通りとなります。
400万円 - 90万円 + 200万円 = 510万円
借入金元金返済額600万円というのは、返済不能に陥る可能性がある借り入れというわけですね。
黒字決算を続けている企業でも、融資申込時の借入総額が上記計算式で求められる額を上回っている場合は、有益な担保でもない限りは決して融資実行となることはありません。
過分な借り入れは企業存続を危うくする最大の要因となることをよく肝に銘じておきましょう。
売掛金回収に懸念のある資産が多い
これは起業後に多く見られるのですが、売上は上がり利益が出ているにもかかわらず、売掛金回収が間に合わず、買掛金の支払いに四苦八苦するケースです。
飲食業のように現金商売であれば売掛金となることなく、販売と同時に現金を手にできますが、信用取引が一般化している企業間取引では、製品売却による売上計上があるのに入金がなく、人件費や仕入れ等の支払いが賄えない状態となることは珍しい話ではありません。
そんな状態でも損益計算書上ではチャンと売上計上されているので、売上さえ順調ならば決算上は黒字となります。
しかし、その実態は黒字であっても実際に売掛金が回収できていないため、人件費や仕入れ等の支払いを自己資本で賄っている状況です。
これは下記のような支出と収入にタイムラグが生じることによって起こります。
・A社支払条件 末締め翌末支払い
・B社回収条件 15日締め翌末回収
5月10日にA社から500万円で仕入れた商品を、B社に5月16日に販売したとしましょう。
この場合の買掛先A社への支払日と売掛先B社からの回収日は下記のようになります。
・A社への支払い日 6月末日
・B社からの回収日 7月末日
仕入れと販売が同じ月なのにもかかわらず、支払い日と回収日には1ヶ月ものタイムラグが出ています。
こうなるとA社への支払いはB社への売掛金を当てにできず、自己資金に頼るしか手はなくなってしまいます。
また取引先は1社とは限りませんから、このように支払い日と回収日にタイムラグが発生するような取引条件が多くなればなるほど、自己資金への圧迫は大きくなっていきます。
しかも、この状態は取引が継続される間、ずっと続く事になるのです。
となればいつしか自己資本も削られてしまい、最終的には自己資本で賄えない状態となる危険性があるのです。
また信用取引の怖いところは、必ずしも支払いや回収の確証があるわけではないという点です。
取引先が倒産してしまい、売掛金回収が不可能となって連鎖倒産に追い込まれるという話は珍しいものではありません。
よって銀行は融資先の取引企業にも気を配ります。
取引企業が銀行と付き合いがあれば言うまでもありませんが、そうでなくても銀行は地域企業の情報はある程度持ち合わせています。
その情報に問題があるようならば売掛金回収に問題ありと考えるのです。
以上のように黒字であったとしても売掛金回収に懸念がある場合は、経営存続ができない状況に追い込まれる可能性ありと判断せざるを得ません。
とすれば黒字であっても、融資先企業が返済能力に問題ありと評価されてしまうのも致し方ありませんよね。
黒字倒産は起こるのに、なんで赤字企業は倒産しないの?
ここまでの説明で、黒字でも経営存続に懸念が残る経営状態となる可能性があることはお分かりいただけたでしょう。
このような経営状態はいわゆる黒字倒産の可能性が高い状況と言えます
黒字倒産とは損益計算書上では黒字ですが、キャッシュフロー計算書上の収支が赤字の状態を指します。
支払いや返済するだけの体力がなくなり銀行取引停止処分を受けた挙げ句、最終的には裁判所に破産手続きなどの申請を経て対外的に倒産するという流れです。
会計上では利益を生むだけの仕入れと売上が発生すれば黒字決算となりますし、大量の在庫仕入れをしても売上計上されるまでは支出として計上されないため赤字とはなりません。
ですが支払いや返済に充てるだけの現金がないため、倒産状態に追い込まれてしまうというわけです。
なんとも残念な結末ではありますが、ここで疑問となってくるのが赤字なのに倒産しない企業もあるという点です。
2012年の東京商工リサーチの発表によると、その年に倒産した赤字企業の割合は55.3%、黒字企業の割合は残りの44.7%でした。
しかも注目してもらいたいのは倒産していない企業における赤字企業の割合は26.2%にも及ぶという点です。
黒字で倒産する企業が多い中、なんで赤字なのに倒産しない企業が全体の約30%もを占めるのか本当に不思議ですよね。
実は赤字なのに倒産しないのには、それなりにチャンとした理由があるのです。
赤字なのに倒産しない理由
赤字なのにどうやって倒産を免れたのかは興味の湧くところです。
その企業は共通して下記のような特徴が見られます。
・豊富な現金資産がある
・担保となる資産がある
・増資で債務超過を解消
この特徴から気づいてもらいたいのが、資金繰りができるかどうかが倒産するかしないかの分かれ道となるという点です。
企業は資金繰りを続けられる限りは存続することができます。
よって、これら特徴は決して赤字企業に限った話ではなく、黒字倒産しそうな企業にも言えることなのです。
豊富な現金資産があれば支払いや返済に当てられますし、担保や増資によって銀行融資を受けることも可能になります。
そうすれば黒字倒産を免れることが可能になります。
ようは黒字倒産にしろ、赤字倒産にしろ、資金繰りが厳しくなった際にそれを回避できる資金繰りの算段がどれだけできているのかにかかっているというわけです。
「資金繰りができなくなった、どうしよう」という段階では遅すぎるのです。
そこで、いざという時のために活用してもらいたいのがキャッシュフロー計算書。
銀行融資においてはどれだけ利益が出ているのかを明確に示す貸借対照表や損益計算書が重要視されますが、経営者サイドとしてはこの2つもさる事ながら、キャッシュフロー計算書の運用が重要となってくるのです。
黒字倒産を防ぐには
キャッシュフローの把握に役立つのが、キャッシュフロー計算書。
キャッシュフロー計算書はお金の増減を計算したものです。
黒字倒産しないためには損益計算書や貸借対照表よりも、このキャッシュフロー計算書の方が重要になってきます。
それは何故か?
損益計算書と貸借対照表の下記の目的のため作成されています。
・損益計算書 損益の流れを確認する
・貸借対照表 財産の残高を確認する
よって、経営者は融資申込の際はその数字ばかりを気にするのですが、実際ここに載っている数字は現実にあるお金の増減でもなく、現実にあるお金の残高でもありません。
この2つの書類を見ても企業の持つ実際の支払い能力を判断することができないのです。
この点は先ほどの損益計算書の説明でよくご理解頂いていることでしょう。
黒字決算とは貸借対照表では黒字だが、キャッシュフロー計算書では赤字という状態の企業に起こります。
つまり黒字倒産の可能性があるかどうかは、キャッシュフロー計算書を把握しておかなければ把握できないというわけです。
そこで黒字倒産を防ぐためにも是非取り組んでもらいたいのが、現金資金の流れを重視したキャッシュフロー経営です。
京セラと第二電電(現・KDDI)創業者であり、公益財団法人稲盛財団理事長や日本航空名誉会長を歴任した日本を代表する実業家の稲森和夫氏は以下のように言っています。
「利益を持つのではなく、紛れもなく存在するキャッシュ(現金資金)に基づいて経営の舵取りを行うべき」
経営の健全度を高めるためには、現状どれだけのキャッシュを持っているのかという観点を常に持ち合わせておくことが重要になります。
そこで近年、経営者の間で取り入れなれるようになったのが、このキャッシュフローを重視したキャッシュフロー経営。
キャッシュフロー経営は何も資金繰りの算段に特化したものではありません。
どれだけのキャッシュがあるのかを基準にして、下記のような経営策に用いることができます。
・施策策定
・経営判断
どの商品が高いキャッシュを生み出すのか、マイナスを生み出しているのかなどを明らかにして対策を生み出すことも可能ですし、いくら投資していくらのキャッシュを生み出したのかを評価して投資先対策を立てることも可能になってきます。
キャッシュフロー経営を上手く運用することで、企業の収益性と安定性を増して体力のある健全な企業作りに着手することができるのです。
決算が黒字でも融資を断られた場合はその原因追求を怠るな!
融資を断られ「利益が出てないわけじゃない」、「つなぎ融資さえしてくれれば乗り越えられるんだ」と嘆く経営者は少なくないでしょうが、ここまでの説明で黒字倒産する経営状態の企業に銀行が融資をためらう理由はご理解いただけたかと思います。
ですが中には理由がわからないまま融資を断られたという経営者の方もいることでしょう。
銀行に融資を断られるには必ず何かしら原因があります。
黒字である場合は融資希望額が妥当なものであれば、まず断られることはありませんから、特にその理由を知っておく必要があります。
仮に申し込む企業に問題があるのでああれば、ほかの銀行に融資申込をしても同じ結果となる可能性は高いと言えるでしょう。
それを気にせずに次々と融資申込をして断られてしまっては、最終的には自らどこからも借りれない状況に追い込む羽目になってしまうのです。
しかし、融資を断られた理由が常に企業側にあるとは限りません。
時には銀行側の事情で融資できないこともあるのです。
近年は銀行再編成の波が訪れ、経営難に陥っている銀行の統廃合が進められています。
この傾向は地方であるほど顕著で、突然、銀行合併の話を耳にして驚いたという経験をした経営者の方も少なくないでしょう。
つまり、銀行の行政が悪くなったことで銀行自体が貸出にセーブをかけていることもあるのです。
しかし、その状況にあるかどうかを判断するのはかなり至難の業となってきます。
融資を断る担当者が本当の話をするわけはありませんし、統廃合ともなれば本決まりになるまで情報が漏れることはないからです。
銀行側に問題があるならばいくら対策を練って提出資料を揃えて融資申込をしても徒労に終わるだけですし、企業側に問題があるのならば問題解決なしに他の銀行に融資を求めるのは自殺行為になってしまいます。
黒字なのに銀行融資を断られて際は、なんで断られたのか徹底的にその理由を解明するよう務めることが必要不可欠です。
内輪で解決できない場合は専門家に相談するなどして、くれぐれも理由のわからないまま融資申込を継続することだけはしないようにしましょう。
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