運転資金を銀行融資で調達するには 運転資本(WC)、設備資金との違い
会社を経営していく上で必ず必要となってくるのが事業資金。
日本の企業数の約90%を占めると言われている中小企業に限って言えば、金融機関からの事業資金融資を受けずに経営を継続しているところはごく一部に限られていきます。
それほど企業の持つ資本だけで事業資金を賄いきることは難しいことなのです。
よって個人においては決していいイメージと思われていない借金も、企業経営の継続においては必要不可欠の重要なピースとなってきます。
企業経営では事業資金としての借金は当たり前というわけですね。
事業資金の借り入れ目的は大きく分けると下記の2つに分類できます。
・運転資金
・設備資金
そしてどちらを目的に事業融資を依頼するかによって、銀行の対応は大きく違ってきます。
それはこれら2つの資金使途の性質が全く違ってくるからです。
そこで今回はこの内の1つ、運転資金について説明し、資金調達するための秘訣を探っていくことにしましょう。
- 執筆者の情報
- 名前:馬井実
年齢:49歳
性別:男性
職歴:1992年~2008年まで地方銀行で貸付業務に従事
目次
運転資金とは?
運転資金を一口で説明すると、企業経営を継続させるために必要な資金という表現がピッタリくるでしょう。
設備資金のように資金使途がハッキリしているわけではない上、その資金使途は多岐にわたるため、どうしても説明する際には上記のような大雑把な表現となってしまうのです。
しかし、これでは運転資金が具体的にどのような使途をもつものなのか理解することはできませんよね。
そこで最も分かりやすい例として、創業時に必要になってくる運転資金を例に挙げて具体的に説明していきましょう。
創業時に必要となる運転資金は下記の3つです。
・売掛と買掛の入出金ズレを補うための運転資金
・在庫維持をするための運転資金
・事業が軌道に乗り、利益が出るまでの出費に対する運転資金
それでは各項目を簡単に説明していきましょう。
運転資本とは?
運転資本とは、WC(ワーキングキャピタル)と呼ばれ、会社が事業をまわす上で最低限として必要とする手持ちの資金ともいえます。
会社がなぜ事業をまわす上で資金不足が発生するのかについて、運転資本の計算方法と併せて確認しましょう。
運転資本の計算方法
運転資本は以下の計算方法で算出することができます。
運転資本=売掛金+棚卸資産(在庫)-買掛金
例えば、毎月100万円で仕入れをしたものを、翌月に100万円で販売すると仮定します。
そこで、仕入れの支払いは1か月後、また売上げの入金は2か月後として、必要な運転資本を計算すると200万円となります。
売掛金200万円+棚卸資産(在庫)100万円-買掛金100万円=200万円(運転資本)
それでは、金額の具体的な根拠について話します。
売掛金は毎月100万円ずつ増えますが、3か月目以降は2か月前の売上げが入金となります。
そして、売掛金が毎月100万円ずつ減っていきますので、常にあるお金は200万円あるということになります。
逆に、買掛金は毎月100万円ずつ増えますが、2か月目以降は1か月前の売上げが入金となりますので、買掛金が毎月100万円ずつ減っていきます。
したがって、常にあるお金は100万円となります。
また、毎月仕入れたものは翌月に売れるため、毎月の棚卸資産(在庫)は100万円となりますので、これらを計算すると会社が事業をまわす上で必要な運転資本は200万円となるのです。
この計算方法は、銀行融資で会社の必要な運転資金を算出する方法と同じですので、是非覚えておきましょう。
次に、なぜこのような運転資本が必要になるかを具体的に話します。
一般的な経営での運転資本
運転資本が必要となる原因は、売上げの入金と仕入れの支払いにタイムラグがあるからです。
一般的な経営では、売上げはツケ払いで入金されるケースが多く、例えば100万円売り上げたとしても、実際に入金になるのは1か月後に請求します。
そして、さらにその1か月後に入金になるといったように、合わせてお金が入金されるまで2か月を待つ可能性もあります。
それに対し、支払いは同じくツケ払いだとしても、支払いが1か月後であれば、2か月後の売上げ入金がある前に先行して支払いしなければなりません。
このように、支払いが売り上げ入金に先行する場合に運転資本が必要となり、どれだけ多くの売上げが入金になるとしても、それまでの支払いで資金ショートすれば会社は倒産しますので注意しましょう。
いわゆる、黒字倒産とはこのようなことをいいます。
現金経営での運転資本
飲食店や美容室などの、現金経営の業種は必要運転資本が少なくなる傾向があります。
それは、運転資本はつなぎ資金といって、売上げ入金までの立替払であるため、お金がすぐに入ってくる現金経営では立替え払いする必要がないからです。
ただし、現金経営の業種でも従業員の給与や店舗の家賃などは、銀行融資において必要運転資本と見なされますので、借入を検討している現金経営の経営者は覚えておきましょう。
運転資本と運転資金の違い
運転資本は、ここまで話したように会社が事業をまわす上で必要な資金のことですが、銀行のいう必要運転資金と何が違うのか、その違いについてまとめましたので解説します。
違いはなに?
運転資本はWC(ワーキングキャピタル)と呼ばれ、主に会計学や経営学で会社の必要運転資金を表す指標として使われます。
ただし、銀行のいう運転資金も、会社の必要資金を示すもので、その算出方法も運転資本と同じです。
したがって、運転資本と運転資金の違いは、借入を検討する経営者にとっては明確な区別をする必要はなく、その算出方法を理解できれば問題ありません。
銀行は運転と設備の区分けしかしていない
経営者にとって運転資本と運転資金を区別する必要はないと話をしましたが、銀行も明確な区別をしていません。
それは、銀行は融資するお金をそういった区別ではなく、運転資金か設備資金かで大きく区別するからです。
銀行にとっての融資は運転資金は一時的な立替え資金であるため、融資期間は短期となります。
しかし、設備資金は金額が大いため融資期間が長期になる上に、借入に対する担保が必要となる可能性があるという点を覚えておきましょう。
運転資金と設備資金の違いは?
銀行に融資を申し込んだ時、必ず聞かれるのが借入目的となる資金使途です。
設備資金とは?
運転資金に対して設備資金は事業活動をするために必要となる設備を購入するための資金です。
事業活動を行うためには、下記のように様々な設備が必要になります。
- 生産機器
- 自動車
- 電話機
- パソコン
- 事務用品
また創立時ともなれば土地や建物の購入費や、賃貸の場合でも入居資金も工面しなければなりません。
このように、業務継続上どうしても必要なものを購入するときに使う資金を設備資金と言います。
自動車くらいまでならリース、または一括購入という手もありますが、製造業や建築業の機器、不動産業の不動産購入費となれば数千万と高額になるため、一括購入はできませんし、リースよりも銀行融資の方が確実に低金利です。
運転資金は事業を継続するために恒常的に必要となる資金ですが、設備資金は単発的に必要になる資金である点において大きく違ってきます。
この違いをしっかりと理解しておきましょう。
運転資金借入金の目安
運転資金はどの程度まで借りることができるのでしょうか?また、必要運転資金の目安はどのように計算するのでしょうか?
経常運転資金の計算方法
経常運転資金とは、会社の売上がいつも通りに回っていった場合に、必要になる運転資金を示します。経常運転資金は以下のように毎月の平均値を計算します。
経常運転資金(正味営業運転資金)=売上債権(売掛金+受取手形)+棚卸資産-買入債務(買掛金+支払手形)
また、売上債権と買入債務は以下のように計算します。
売上債権:受取手形残高=平均月商×売上原価率×手形回収率×受取手形サイト
売掛金:平均月商×平均売掛サイト
棚卸資産:商品残高=平均月商×売上原価率×商品在庫期間
買入債務: 支払手形残高=平均月商×売上原価率×手形支払率×手形支払サイト
短期資金と長期資金
運転資金には短期資金と長期資金という2つの資金が存在します。短期資金とは完済までの期間が1年以内に到来する借入金で、長期資金とは完済までの期間が1年を超えて到来する借入金です。
一般的に短期借入金の返済は一括で、長期借入金の返済期間は毎月の分割返済です。経常運転資金が100万円と算出された場合には、手元に100万円のお金があれば会社の経営は回っていくことになります。
このため、理想とする資金繰りは短期借入金の借りては返し、借りては返すという方法です。次第に会社の内部留保がたまっていくと考えれば、いずれは運転資金の借入は必要なくなるためです。
しかし、一般的には短期運転資金はつなぎ資金は工事の引当資金などに利用されることが一般的です。長期運転資金は、数か月分の増加運転資金や不足運転資金を融資する場合に使用されます。
大口の仕事を受注して売上が増加したことに伴い、運転資金が増加してしまった場合や、景気動向などによって売上そのものが減少して運転資金が不足した場合に穴を埋めるために融資を行います。
特に景気動向などによって不景気となってしまった会社は数か月運転資金の不足が生じる可能性があります。このような場合には、数か月のちには売上の改善が見込めると判断された場合のみ融資を行います。
長期資金を借りたことによって、毎月の返済額は増加するため、手元の融資金が枯渇した後でも、返済に耐えうる資金繰り表を作成し、売上の増加へ根拠をつけることが審査通過のポイントです。
融資を受ける際のポイント
運転資金の融資を受ける際、一番重要になってくるポイントは、資金使途を明確にすることです。
銀行から見た運転資金の資金使途
運転資金の使途目的は様々ですが、銀行目線から見た資金使途は大きく分けると下記の7つに分類されます。
経常運転資金 (所要運転資金) | 運転資金の割合で最も大きく、よく使われます。 人件費や買掛金などの支払に充てられるものです。 |
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増加運転資金 | 売上げが大きくあるのに、売上げ回収まで期間があるときにつなぎ資金として使われています。 |
減少運転資金 | 売上げが少なく、仕入れなどの資金が足りないときに受ける融資です。 簡単に言い換えると赤字補てん融資です。 |
季節運転資金 | 一定の時期に必要になる資金のことをいい、ボーナスや季節的な商品に充てるものです。 |
未払金決算運転資金 | 車両やコピー機を購入するための設備資金でその一部が残っているとき、購入から6か月以上経過しているものは運転資金として扱われます。 |
賞与資金 | |
その他に分類される運転資金 |
そして運転資金の使途目的がどれに当たるかによって、銀行の融資実行に対する姿勢は大きく変わってくるのです。
それではこれら資金使途はどんなものかを簡単に説明しましょう。
経常運転資金
経常運転資金とは企業を経営していく上で必ず必要となる資金で、売上の現状維持を継続させていくために経常的に必要となる仕入や経費等の支払い資金がそれに当たります。
増加運転資金
企業経営を継続していれば売り上げの増加や、取引先との支払い条件の変化などで、現状の形状運転資金よりも多くの資金が必要になってくることもあります。
つまり増加運転資金とは、これらの変化によって追加で必要となる経常運転資金のことを指すのです。
しかし、注意してほしいのは、この増加運転資金は企業業績の悪化による回収条件の短縮や、取引先の業績悪化に伴う回収条件の長期化など、後ろ向きな原因によって必要となる資金は含まないという点です。
あくまでも前向きな変化によって生じた追加資金のみを指す点をよく理解しておきましょう。
季節資金
販売する商品に季節性がある場合には、その特定期間にその商品や原材料の仕入れが集中することになり、それに合わせた資金繰りが必要となってきます。
これを季節資金と呼びます。
決算資金
企業は決算期には下記のように、様々な支払いが発生します。
・法人税を始めとする税金
・株式配当金
・役員賞与
これら支払いに必要となってくるのが決算資金です。
賞与資金
従業員の夏季や冬季などのボーナス支払いに必要となる資金が賞与資金です。
一般的には決算期に必要となる決算資金と同時に借り入れすることが多く、その場合には賞与資金ではなく決賞資金と呼ばれます。
減産資金
製造業は売り上げが減少すれば生産を減産する手立てをとりますが、その際に発生するのが減産資金です。
生産を減少させるのに資金が必要になるなんて矛盾する話だとお思いの方もいることでしょう。
生産を減少させてもすぐに仕入れ量の引き下げを実行できる場合のみとは限りません。
契約内容等の条件によっては、数カ月の間、同じ仕入れを継続しなければならにケースもあるのです。
また生産量減少は売り上げの減少を意味します。
よって、従来の固定費を支払うためのキャッシュフローが不足します。
これらの支払いに充てるのが減産資金になります。
しかし、この減産資金の融資実行は下記の条件がクリアできる場合のみに限定されます。
・一時的な減産で短期での回復が見込める
・減産後の利益確保ができる
業績の上昇が見込めない場合には回収不能となるため、銀行にとってこの2点は欠かすことのできない必須条件となってきます。
この点はよく理解しておきましょう。
その他に分類される運転資金
これは下記のようにいわゆる企業の支払い能力の低下に伴い必要となる資金を指します。
・手形決済資金
・買掛金決済資金
・赤字による経費支払資金
よって、決して前向きな融資となる運転資金とは言えませんし、これらの資金を必要としているということは経営破たんする可能性が高いと判断されます。
もはや運転資金というにはおこがましいでしょう。
設備資金の審査
設備資金の審査は、投資の計画に対して審査の重点を置くことになります。
設備を購入していつくらいから利益が生まれ、どれくらいの投資効果がが見込めるのかがはっきりしなくては、融資実行となることはないでしょう。
特に設備投資の場合は高額融資となるため、投資計画がしっかりとしたものでなくては、金融機関を納得させることはできません。
合理的な投資かどうか
設備資金の借入を希望する企業が購入を検討している設備が、会社にとって本当に必要なのかどうか、要するに投資計画に必要性と妥当性があるかという合理性が審査の際には非常に重視されます。
例えば、取引先からの受注が増加して、今の機械では受注に対応できないため、設備投資を行ないたいなどの計画であれば、一般的には投資計画に必要性と妥当性は十分に認められますよね。
このケースならば導入後すぐに、利益が生まれることが確定しているので、金融機関も安心して融資ができます。
また、今使っている機械が壊れたから新しい機械を導入したいという場合も、既存の設備が生み出している利益がはっきりとしており、設備資金を融資しない限り会社の業務が継続できないこともあるので、必然性と妥当性が認められます。
しかし、本業がうまくいっていないから、全く別業種に転換するための設備資金といった、必然性と妥当性を予測に頼ったケースでは、よほど緻密な計画でない限り、すんなりと審査を通過することはないでしょう。
設備資金は未来の予測である投資計画に対して審査が行われるため、新規事業のために必要になる設備資金ほど、ど、必然性と妥当性があると認められる必要があるのです。
回収に見込みがあるか
設備資金ももちろん、回収できるかどうかが重要な審査の基準となります。
投資によっていくらの売上の増加が見込めるのか、その事業計画に問題がなければ融資は受けやすくなってきます。
また、銀行が投資計画に懸念をもっても、本業で儲けている会社であれば、投資によって収益が出なくても、借入金の返済には問題ないと判断され、融資に応じてもらえる可能性はあるでしょう。
投資効果が出る時間も考慮
一般的に、投資を行なってもすぐに売上の増加などの効果が出るわけではありません。
通常は、投資によって売上が増加するのに1年以上は必要になると言われます。
設備投資の場合、返済に据置期間が設定されるのも、こういった理由があるからです。
しかし、投資を行なうと、それにならって人件費などの新たな経費が共に発生します。
投資を行ない効果が出るまで返済を据え置くことはできますが、投資によって増加した、この運転資金の支払いは別です。
この新たに増えた運転資金を支払えるだけの資金がを持つ企業でないと、設備投資を行なったことによって確実に財務状況は悪くなってしまいます。
そのため、設備資金の審査の際には投資効果が出るまでどのくらいか、効果が出るまでの資金繰りに耐えることができるかを精査して、無理な投資でないかどうかを判断しています。
事業そのものの内容
事業者が設備投資を行う主な目的は、設備投資によって事業を拡大し、増収、増益をしようとするためです。
銀行からすると、設備投資の融資を行うことによって事業を応援するというスタンスになります。
そのため、そもそも投資以前に銀行が「応援したい」と考えることができる事業者であるか、事業であるかが、スタートになります。
事業者の決算書を分析して業績が悪い場合には「融資によって設備投資を行っても事業の拡大は期待できない」と判断されますし、事業者に成功させるだけの資質がないと判断すれば融資を受けることはできないでしょう。
しかし、現在の事業が好調であれば銀行は「設備投資によって事業を拡大すればさらに業績の向上が見込める」と判断することができ、「設備投資の融資に応じてみよう」と融資案件について前向きになります。
そのため、設備資金の融資を受けるに当たっては、スタートラインとして「そもそもの事業の業績で利益が出ているか、さらに拡大が見込める業者なのか」ということが重要になります。
投資からいくらの利益を生むか
設備資金の原則は、当該設備が生み出す利益から返済を行っていくということです。
そのため、設備投資によってどのくらいの利益を生み出すのかという点は融資判断において最も重要なポイントになります。
すでに受注があるような場合には、その受注が生み出す月間利益を算出します。
その利益から設備資金の借入金の返済額を上回るようであれば「返済可能」と判断されて、融資を受けることができる可能性が高くなります。
しっかりと根拠のある売上と収益予測を立てて、「返済に問題がない」と銀行に納得してもらうことが重要になります。
現在のキャッシュフローはいくらか
どんなに合理的な計画を立てても、あくまでも計画は計画です。
新事業に対する設備投資では「設備投資が失敗するかもしれない」という可能性を排除することはできません。
そのため、設備投資を審査する際には、現在の会社のキャッシュフローも重要になります。
仮に設備投資が失敗したとしてもキャッシュフローがよく、現在の会社の利益から返済していくことができる会社の場合には、融資を受けやすくなります。
本業とは関係のない異業種への投資を希望する場合には、この部分が最も重要になります。
仮に投資が失敗しても、本業から得られる利益で設備資金の借入金を返済することが可能と判断できれば、融資を受けることができる可能性は比較的高くなります。
しかし、本業で返済できるだけの収益もないのに、本業と関係のない業種への設備投資は難しいと考えたほうがよいでしょう。
保全は図れているか
設備資金は高額になることが多い融資です。
また、先ほどから述べているように新事業への設備投資からは、不確定要素を排除することができません。
そのため中小企業が新事業のために設備資金の借入をする場合には、担保や保証人などによって、返済不能となったの場合には、銀行が回収できるような保全が必要になります。
工場を建築する場合には、当該工場の土地建物が担保になりますし、それだけでは融資額に満たない場合には、本社の土地建物も担保に入れるといった具合です。
一方、内部留保もあり毎年何十億円という利益を出している大企業に関しては、無担保で設備資金を融資することもあります。
すでに取引があると借りやすい
銀行からすでに設備資金の借入がある場合には、設備資金を借りやすくなる傾向があります。
特に既存の設備が壊れたり、古くなって新しくする必要がある場合です。
すでに設備資金を融資してしまっている企業に対して、銀行は「なんとか事業で収益を出して返済を続けていってもらわないと困る」という考えを持っています。
そのため、事業の継続に支障が出るような設備購入に関して、銀行は積極的に融資を行い、多少業況が悪くても応援してくれるけーすは多く見られます。
筆者が以前担当していたホテルは、ホテル建築資金の数億円を数年前に融資していました。
ある夏、そのホテルのエアコン設備が全て故障し、修理には数千万円必要という見積もりが出ました。
そのホテルの業況は決してよくはありませんでしたが、エアコンが壊れていては営業ができないため、銀行は急いで修繕に必要な資金を全て融資したというわけです。
銀行からすでに高額の融資を受けている企業は、銀行にとっては何がなんでも事業を継続して、返済を継続していってもらわなければ困る企業です。
このように事業を継続させておきたい場合には、多少現在に業況に問題があったとしても、企業存続に必要な設備資金は借入ができる可能性が高くなってきます。
融資実行後の違い
運転資金と設備資金では、融資実行後の銀行の資金に対する管理が異なります。
これは両者の資金使途が全く違うことが影響しています。
これも運転資金と設備資金の違いのひとつとなるので覚えておきましょう。
運転資金は資金管理なし
運転資金とは、事業活動を継続する上で発生する様々な経費を支払うための資金です。
運転資金は様々な場所へ支払いを行い、また、数か月分の運転資金を借りるため、銀行が借りたお金をどこに使ったのかを把握することは実質的に不可能です。
そのため、運転資金の融資を受けたら、そのお金の使い道に関して銀行は全く関与しません。
だからといって運転資金以外の転用は絶対に避けることをおすすめします。
バレる可能性は低いでしょうが、仮にバレてしまえば契約違反となり、全額一括返済を求められることもありますし、銀行からの信用も無くして今後の借入にも応じてもらえなくなります。
この点はしっかりと覚えておきましょう。
設備資金は資金を管理される
設備資金は申込時に申告した資産の購入のためにしか使用することができない資金です。
そのため、設備資金の融資を受けた後は、融資金の行方を銀行が管理することになります。
資産の購入先への振り込みは基本的に銀行が行い、購入先から受け取った領収書も銀行が写しを保管することとなります。
この設備資金も運転資金と同様に、設備購入以外の使い道に設備資金を使ってしまったら、全額一括返済をもとめられることがありますので、絶対に設備資金は購入対象となる設備以外の使い道には使ってはいけません。
設備資金と運転資金でどちらが融資を受けやすい?
融資を受けるときに何にお金を使うのかによって、借入額は変わります。
一般的に金融機関は高額貸付となるほど、審査は厳しくなってきます。
その点ていえば、高額融資となるケースが多い設備投資の方が厳しいと言えるでしょう。
しかし、これも一概には言えないのが実情で、どちらの方が融資を受けやすいかは、状況次第としか言いようがりません。
融資を申込むときには、融資を受けることで、どれくらいの経営効果がうまれるのかを明確にする必要があります。
これは融資をしたが何も変わらない、経営効果がないでは、返済負担だけが増え、さらに状況を悪化させてしまうからです。
そうなると融資した額の返済もいずれは滞ることになるでしょう。
よって、融資が受けやすいかどうかは、融資によって企業内に経済効果が生まれるかどうかが重要なポイントになってきます。
融資の受けやすさは返済の確実性による!
入金ズレなどで必要になるつなぎ融資のように、今後の入金が確定しているようなケースならば、融資は受けやすいでしょうが、赤字補填のための運転資金なら融資は難しくなってきます。
また受注が増加して生産が間に合わないので設備を増設したいというケースなら、利益が上がることが分かっているので融資は受けやすくなりますが、全てが予測に基づく新事業への設備投資なら融資は厳しくなってきます。
要は、返済できるという確実性がどうかが重要視されるのです。
融資を受けやすいかどうかは、しっかりとした必然性と妥当性があることが求められます。
この2つさえしっかりとしていれば、銀行が返済を不安視することはありません。
設備資金であっても、運転資金であってもどちらが借りやすいということはないでしょう。
また、設備資金は見積書や契約書の提出が必要となり、融資を受けたらすぐに設備投資をしなければいけません。
そして、本当に設備投資をしたのか、銀行でも確認をします。
そして、運転資金は仕入れや経費の何か月分かが必要があるのか、いつまで返済をしていくのかをしっかりと計画する必要があるでしょう。
また、運転資金は返済期間が短く、設備資金は返済期間が長期となる場合が多く、月々の返済額や返済期間が異なってきます。
なお、設備資金の場合は、投資する設備の償却期間内でお金を借りるのが一般的です。
現金商売の業種は運転資金の借入は難しい
運転資金として借入するケースで一番多いのは、売上の現金化と支払い時期にズレが生じ、支払額を自己資金でまかなえない場合です。
現金化する前に支払いが訪れるので、売上を支払いに回せないため、こういった状況が発生してしまいます。
これは通常の企業間取引が現金取引でないことが原因です。
よって現金商売の飲食店や理容店のように売掛金が発生しない業種は、固定費に売上を回すことができるので、経営不振に陥らなければ運転資金に窮することはありません。
現金商売のような場合は、運転資金は審査に通過するためには理由が難しいのが実情です。
運転資金の借入が必要になるのは、仕入が大量に発生するスーパーなどの業種で、急激に売上が落ちた場合くらいでしょう。
借入申込時の注意点
設備資金の借入は高額借入となるケースが少なくありません。
借入申込をする企業にもそれ相応の覚悟がいるでしょうが、融資する銀行は貸し倒れとならないように、融資の必要性と妥当性に問題がないかを慎重に検討します。
共に完済まで滞りなく返済できるだけの裏付けが必要になってくるでしょう。
そこで互いにウィンウィンの結果にするためにも、設備資金の借入申込をする際に、注意してもらいたいポイントを簡単に説明します。
設備投資計画は妥当か確認をする
設備投資の最大の目的は企業の業績を上げるため、または維持していくことです。
したがって、業績に関わらないものには使いません。
設備投資を行うには、企業にどれくらいの業績効果をもたらし、投資結果として利どれくいらいの益が生まれるのかを、しっかりと計画立てる必要があります。
銀行が設備資金の融資をするときに確認するのは、設備投資することにより収益がどの程度あがるのか、会社にとってどのような影響があるのかの2点に尽きます。
この2点がしっかりとしたものであれば、返済に行き詰まることがないからです。
下記のようなケースならば事業計画書の信ぴょう性が高く、設備投資計画に必要性と妥当性が認められるので、銀行から融資の許可が下りるのも難しくはないでしょう。
- 既存設備の入れ替え
- 受注増加に伴う設備増設
しかし、全てを予測に頼るしかない新事業への設備投資となれば、しっかりとした事業計画がないと、なかなかスムーズな審査とはならないでしょう。
返済可能性を検討しよう!
銀行が設備資金の融資をするときに、一番重要視しているのが返済能力です。
これは設備資金の融資に限らず、全ての融資においても言えることです。
融資審査は完済まで無事に返済できるかという一点を、審査している場と言っても過言ではないでしょう。
銀行が返済原資に当たる資金力を見る際にひとつの指標としているのが、借入額をキャッシュフロー(現金の流れ)で割る値です。
キャッシュフローは利益と、減価償却費を合算した額です。
減価償却費は経費として計上はされますが、実際にはお金が出ていきませんので、利益に減価償却費を足した金額が手元に残る現金で、そのお金を利用して返済ができると判断します。
返済期間は設備投資するものにより異なり、償却期間内で返済することが好ましいです。
この計算をする際には、企業利益を生み出す根幹となる営業によって生み出された利益が見れる、営業キャッシュフローを用いることをおすすめします。
なお、償却期間を超える期間の場合は、銀行の審査に通過しないこともありますので注意をしましょう。
また、運転資金の返済期間は、営業循環基準に基づいて1年以内であるのが望ましいです。
したがって、返済開始時期を考慮することはとても大事になります。
経理上で利益があがっていても、手元に現金がなければ経営を継続していけません。
そのため、利益が落ち着くまでは、返済開始時期を遅らせるのもひとつの方法です。
借入後は現物や納品書を確認される
設備資金については融資を受けたらすぐに、商品を購入するため振り込みをすることになります。
これに対して運転資金は、仕入れや経費が流動的であるため、すぐに現金の支払が発生するもではありません。
よって、運転資金の場合はお金の流れを見ることはできないので、融資後に銀行員が資金使途を確認することはありませんが、設備資金の場合には話は別です。
振り込んだと言っても振込先と企業が結託していれば、その後、その資金が企業側に渡されることも考えられます。
そんな不正がないように、設備資金の融資後には融資の目的どおりに資金が利用されているのか、銀行員がしっかりと現物確認を行っているのです。
銀行は具体的な計画によって、必要のない融資をすることを防いだり、計画に問題がありで返済に滞ることにならないよう、審査のときに融資の妥当性をしっかりと精査しています。
これは貸し倒れとなる可能性を回避するためです。
融資目的と違った資金使途に用いられれば、審査で判断した融資効果は期待できず、貸し倒れとなる可能性が高くなってしまします。
設備資金の融資では、必ず不正はバレるので注意をしましょう。
資金使途によって融資実行確率が違う
銀行による運転資金の資金使途の分別方法はご理解いただけたかともいますが、その資金使途になるかで融資確率は全く違ってきます。
銀行は融資をしないと利益が出ませんから、基本的には融資に対して前向きです。
しかし、それは回収可能な案件に限定されます。
運転資金の場合、その判断基準の1つがどの資金使途に分類されるのかという点です。
融資実行時に重要視されるのは返済確立です。
明らかに正常な経営で必要となってくる運転資金なら、返済体力のある企業と判断できますが、そうでない場合には企業体力には疑問符が付きます。
よって、下記のように運転資金は、その資金使途によって銀行の融資意欲は違ってくるのです。
・経常運転資金、増加運転資金 → 積極的に融資したい
・季節資金、決算資金、賞与資金、減産資金 → 積極的ではないが融資してもいい
・その他に分類される運転資金 → 絶対に融資したくない
よって資金使途が何なのかによって、申し込む企業の融資実行確率がある程度判断できるというわけです。
過分な融資希望はNG
銀行は審査時に希望の運転資金が下記のどちらかを精査します。
・正常な運転資金
・正常でない運転資金
よって、正常でない運転資金と判断された場合、融資実行は絶対にあり得ないのです。
この正常な運転資金は先ほどの資金使途でいえば、銀行が積極的に融資したいと考えている経常運転資金、増加運転資金の2つが基準になります。
これらは正常な経営を行っていても発生する必要資金ですから当然のことですよね。
そしてこの正常な運転資金にも、銀行が融資可能と考える上限額があります。
その上限額を所要運転資金と呼び、下記の計算式で求められます。
所要運転資金=(受取手形+売掛金+棚卸資産)ー(支払手形+買掛金)
*この計算時には各項目は下記の条件が設定されます。
・受取手形 割引・裏書譲渡手形は除く
・棚卸資産 資産と認められない不良在庫を除く
・支払手形 設備支払手形は除く
この計算式で算出された金額が、銀行から運転資金として借り入れ可能な上限額となります。
よって、これを超える過分な融資額を希望しても、その融資実行はあり得ませんし、逆に勘ぐられて融資NGとなる可能性があるので注意が必要です。
それでは融資したくない資金使途以外の融資はどうなるのでしょう。
積極的ではないが融資してもいいという分類の運転資金に関しては、正常な運転資金としての基準は適用されません。
しかし、資金使途がハッキリとしているので、必要となる目的証拠があれば融資実行となる確率は高いでしょう。
ただしこれら運転資金は短期返済が条件とされています。
原則6カ月以内、最長でも9~12カ月の返済となるので、手形貸付扱いが一般的になっています。
よって、短期間で返済可能な返済原資があることが、まず融資条件となることをよく理解しておきましょう。
融資を可能にするには資金繰り表が重要
運転資金は正常な運転資金と判断される場合を除き、融資審査が厳しくなるのが一般的です。
正常な運転資金は前向きな事業を行っていると判断されますが、それ以外の場合には「チャンと前向きな事業を行っています!」、「だから今、それを継続していくために運転資金が必要なんです!」と運転資金の融資が数か月後には利益に結び付くことを銀行に理解してもらわなければなりません。
そこで、それを証明するために利用してもらいたいのが資金繰り表です。
運転資金の申し込みは3か月前がベストタイミング
残念ながらすべての企業が資金繰り表を作って、それを経営に活用しているわけではありませんが、資金繰り表を使って資金繰り予想を立てることは精度の高い事業計画を立てる上でも必要不可欠になってきます。
運転資金を手にしても、その効果が現れるのは早くて3カ月ごと言われています。
よって、資金繰り表から運転資金が必要となる時期を予測し、その3か月前に申し込むのがベストなタイミングなのです。
しかも、この時期を狙った申し込み理由を銀行に説明すれば、事業計画性に長けた企業であると評価され、融資実行となる確率を上げることも可能でしょう。
銀行が融資したい時期を狙え!
銀行が融資を募る時期といえば、言わずと知れた9月と3月の決算時期です。
決算時期には業績の追い込み時期ですから融資審査に融通が利く上、対応もスピーディーに行ってくれます。
そうでない時期になれば融資実行が遅れ、計画とおりに借り入れできないことにもなりかねません。
よって資金繰り表と相談しながら、この時期に合わせた申し込みをするのもおススメな申込手段です。
この時期に一度融資を受けておけば、毎年度、融資結果が必要となるこの時期に銀行からの融資アプローチが定期的にかけられるようになる可能性も高くなります。
となれば融資も比較的楽に受けることができるというわけです。
返済期間の目安は?
運転資金の返済期間は、目安として1年未満と考えるとよいでしょう。
基本的に運転資金は通常の会社経営において一時的な赤字を補てんするものであるため、短期的な融資の対象です。
しかし中小企業などの場合は資金繰りや返済の負担を考えて、2年~5年の返済期間を設けている場合もあります。
本来運転資金は売上代金回収までのつなぎ的な意味合いが大きく、売掛金が回収できればそれで借金を返済します。
ところが中小企業の場合は、一月ごとに売上代金を回収するまで給与や経費の支払いで一時的な赤字になる可能性があり、その都度融資を受けていると事務負担が大きくなってしまいます。
そこで通常よりも返済期間を長く設定した長期運転資金として融資を受け、分割で返済していくのです。
ただ長期的な融資を受けるためには、しっかりした業績予想計画や返済計画を立て、金融機関へ提示する必要があります。
そこで返済期間は事業の利益がどのくらい出るのかを基に、判断することがとても大事になります。
なお季節運転資金の場合は、次年度以降の同時期にまた融資を受ける可能性を考慮して、返済期間を考えてみることをおすすめします。
追加融資や返済期間の変更は可能?
追加融資で気を付けたいこと
一度融資を受けまだ返済が終わっていなくても、場合によっては追加融資を検討することもあるでしょう。
しかし返済が終わっていないから、申込みしても無理だろうと諦める人もいるかもしれません。
返済途中であっても追加融資は可能です。
追加融資を受けられるポイントはふたつあります。
ひとつは、現在の借入の返済状況です。
延滞などなくしっかり返済できていれば問題はありません。
ふたつ目は、どうして追加融資が必要になったのか、またその追加融資を返済していける根拠があるのかどうかを明示できるかどうかです。
例えば、建設会社が急な工事を受注して、そのための資材購入費用が一時的に必要になり、支払いは工事が完了後に振り込まれるもので対応する予定であるのが通常です。
そのため、資材購入費用分を追加融資で賄いたいということであれば、理由から返済計画までしっかり筋が通っていることになり、追加融資を受けられる可能性は高いでしょう。
このふたつのポイントをクリアすることができていれば、追加融資を申込みしても問題ないと考えらえるため、まずは銀行に相談してみることをおすすめします。
返済期間を見直すリスケ
リスケとはリスケジュール(予定を変更する)の意味です。
返済期間を見直すことで、毎月の返済を軽くすることが可能です。
100万円を10回払いにするのと、5回払いにするのでは月々の返済額に差があります。
これまで5回払いで毎月20万円支払っているところを、10回払いにすると毎月10万円となり月々の返済が少なく済みます。
期間が長くなることなどの、リスケをする場合は保証人の了承が必要となってきます。
またリスケをすると次回に融資を受けたいときに、不利になることもありますので、注意が必要です。
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