銀行融資で営業利益が重要視される理由
銀行が企業融資を検討する際、重要視するのが利益。
企業経営によって生み出されるこの利益が、融資した資金の返済原資となるわけですから、利益の上がっていない企業になど融資することはできません。
よって、銀行はどのくらいの利益があがっており、その成長率がどうなのかを一番気にするのです。
しかし、個人間で行われる物々交換さながらの単発的な取引なら利益の算出も簡単ですが、会社ともなれば下記のように多くの利益算出が行われ、それぞれが企業実態を示す指標となってきます。
・売上総利益
・営業利益
・経常利益
・当期純利益
・限界利益
そしてこの中でも銀行が重要視すると言われているのが営業利益。
銀行は数ある利益算出の中でも営業利益を重要視するのか、今回はこの点に焦点を絞って検証していくことにしましょう。
- 執筆者の情報
- 名前:馬井実
年齢:49歳
性別:男性
職歴:1992年~2008年まで地方銀行で貸付業務に従事
目次
銀行が重視する利益とは?
それではまず本題に入る前に、前述した5つの利益とはどんなものを指すのかを簡単に説明しておきましょう。
売上総利益
この売上総利益は企業の財務会計上で一番基本となる利益で、下記の計算方法で算出されます。
売上総利益 = 売上高 -売上原価
粗利益とも呼ばれ、売上総額から売上原価(販売するものの仕入れ、製造にかかる費用、社員給与)を引いた数値を指します。
営業利益
営業利益は企業の本業によって稼いだ利益で、下記の計算式によって算出されます。
営業利益 = 売上総利益 - 販管費(販売費および一般管理費)
販管費は売上総利益の際に出た売上原価以外の費用を指し、下記のようなものが含まれます。
・社長給与
・事務員給与
・工場以外の賃料、光熱
費
経常利益
本業で稼いだ営業利益に、本業営業以外で発生した利益と支出を差し引きしたものを経常利益と呼び、下記の計算式によって算出されます。
経常利益 = 営業利益 + 営業外収益 - 営業外費用
つまりは一過性でない配当や雑収入、売却損などの収入と支出を含めて計算し、経常的な利益を表した数値となるため、企業の総合収益力を知ることができます。
当期純利益
当期純利益は税引き前と税引き後の2つに分けられます。
税引前当期純利益とはその名のとおり税引き前の当期純利益を示し、特別利益(固定資産売却益や有価証券売価益など)が加算され、特別損失(火災等の災害による損失や有価証券売価損など)が差し引かれます。
税引前当期純利益 = 経常利益 + 特別利益 - 特別損失
また税引後当期純利益は税引前当期純利益から税金費用を差し引いいたもので、企業が稼いだ純粋な利益でありことから、これを当期純利益と呼びます。
限界利益
費用には売上に関係せず一定の固定費と、売上に比例して変動する変動費の2つがあります。
・固定費 設備機器リース代など
・変動費 残業代、賞与、給与
限界利益とはこの変動費を売上から引いた数値で、「限界利益が固定費を上回る」と黒字、「限界利益が固定費を下回る」と赤字となります。
銀行は営業利益を重要視する!
銀行は融資の際にあらゆる角度からの利益状態を確認しています。
これらすべてが良好な状態であれば何ら問題ありませんが、そんな企業はほんのひと握りなのが実情です。
そこで銀行がこれら利益を見る上で重要視するのが営業利益と経常利益の2つ。
この2つが下記のように問題なければ企業の財務状態は良好と判断され、融資審査も問題なく進みます。
・営業利益 黒字ならば順調に本業で儲かっていること指す
・経常利益 さらに黒字なら本業以外に利益を生む財務があり、企業体力があることを指す
しかし、この2つのうちでも銀行員が口を揃えて重要だと断言するのが営業利益。
それでは何故、営業利益が重要視されるのか、ここではその理由について説明していきましょう。
営業利益が本業の実態を表す!
営業利益と経常利益を比較する上で注目してもらいたいのが、その利益内訳の違いです。
先程説明したように営業利益は本業による営業力で稼いだ利益、経常利益はそこに本業営業以外で発生した利益と支出を加算した利益です。
よって営業利益は企業が経営継続する限り毎月定期的に生まれる利益に対して、経常利益は一過性で発生した利益が加算された利益ですから、決して定期的にあてにできる利益ではありません。
確かに経常利益が黒字であれば営業活動や財務活動、投資活動など、あらゆる費用を控除しても利益が手元に残る企業体力のある会社と判断することはできます。
しかし、一過性で発生した利益に大きく左右されるという側面があるため、経常利益だけを見て判断することはできないのが実情なのです。
下記2つの会社を比べてみましょう。
・A社 経常利益2,000万円(うち1,800が営業利益)
・B社 経常利益2,000万円(うち200万円が営業利益)
この2社の経常利益はともに同じですが、その内訳は全く違ってきます。
ここで問題となってくるのが営業利益の違いです。
営業利益の高いA社は次の事業年度に一過性の収入がなくても、本業が大きく傾きでもしない限り経常利益に大きな増減はないでしょう。
しかし、B社の場合は話は別です。
上記の事業年度は一過性の収入が高く、A社と同じ経常利益を上げていますが、次年度にはその収入が見込めず、本業の営業利益しかなくなったとします。
となれは次年度の経常利益は下記のように大きく様変わりすることになるのです。
・A社 経常利益1,800万円(うち1,800が営業利益)
・B社 経常利益200万円(うち200万円が営業利益)
経常利益は一過性の収入が含まれるため、経常利益を見ただけでは企業本来の持つ利益収益力は判断することができません。
少し大げさな数値比較ではありますが、その点はよくお分かりいただけるのではないでしょうか。
融資審査時には営業利益と経常利益の2つが重要視されますが、このうちでも営業利益が最重要視される訳がお分かりいただけるかと思います。
格付けの際に重要視されているのは営業利益
銀行は企業に対して格付けを行っています。
この格付が高ければ高いほど、融資額や金利、審査の厳しさなど、融資申込時には企業有利に傾きます。
格付けは下記2つの総合評価によって決定されます。
・定量評価 資本金や自己資本率など、財務指数を評価換算したもの
・定性評価 経営者や経営状態、営業基盤などを銀行担当者主観によって評価したもの
しかし、総合評価といってもその影響度は下記のように定量評価が大きな判断基準となっていることは否めないのが実情です。
・メガバンク 定量評価100%
・地方銀行 定量評価70%:定性評価30%
・信用金庫 定量評価60%:定性評価40%
そして、この定量評価は下記4項目に分類される13の経営指標においてスコアリングが行われます。
・安全性 固定長期適合率、流動比率、自己資本比率、ギアリング比率
・収益性 売上高経常利益率、総資本経常利益率、収益フロー
・成長性 経常利益増加率、自己資本額、売上高
・返済能力 債務償還年数、キャッシュフロー額、インタレスト・ガバレッジ゙・レシオ
このスコアリングの配点は銀行によって違ってくるのですが、実は営業利益の配点が群を抜いて高いのが実情です。
参考として、あるスコアリングシートを見てみましょう
総合点数129点のうち営業利益が関わるものが55点、経常利益が関わるものが15点。
得点割合にすると営業利益が43%、経常利益が12%と、いかに銀行が考える格付けにおいて、営業利益が重要視されているのかがお分かりいただけるかと思います。
銀行融資時に営業利益を重要視している実例はこれ!
融資審査で営業利益が最重要視されていることはご理解いただけたでしょう。
そこで、今度は実際に融資審査で営業利益がどう影響しているのかを紹介していきます。
営業利益が赤字だと銀行融資に不利に・・・
まずは営業利益は赤字だけれど、大きな営業外収入があったため、経常利益が高くなってトータルでは黒字という企業に対する銀行対応を見てみましょう。
企業の最終的な利益は本業による営業利益と本業営業以外で発生した利益を加味して算出されます。
よって、最終的に黒字であればOKという考えの経営者は多いことでしょう。
しかし、黒字であれば融資審査が優位に進むという経営者にありがちな考えは間違えです。
本業である営業利益以外の収益は毎期毎期出るとは限らないため、銀行はこれら一過性の収益は安定的に企業を支えるものとは考えません。
よって本業営業以外で発生した利益が大きく影響した結果である黒字は、安定した黒字とは評価されないのです。
もちろん営業利益においても黒字が出ている場合なら問題ありませんが、営業利益が赤字で経常利益が黒字の場合には、営業利益が赤字であることの方が重要視されることになります。
この営業利益の赤字が短期の場合なら必ずしも融資NGとなるわけではありませんが、2期以上続いているようなら、経常利益が黒字でも融資NGとなる可能性は大きいでしょう。
当期純利益が赤字でも融資OKなことも!
当期純利益が赤字。
この状態では融資を申し込んでも審査には通らないだろうと思うのが普通ですよね。
しかし、営業利益が黒字であるケースは融資される可能性は大きいのです。
先程とは全く逆のケースですね。
この場合はトータルで赤字であっても営業利益が黒字であれば、本業は健全な状態だと判断できます。
事実、事業を経営していれば不動産売却の売却損や退職金支払いなど特別損失と呼ばれる、その期特有に発生した損失によって当期純利益が赤字になってしまったということは珍しくありません。
となれば営業利益さえ黒字であれば、次の期は特別損失による支出がなくなるので、当期純利益も黒字となるであろうという見込みを立ててくれるので、銀行も融資しやすくなるというわけです。
銀行が過去の利益を見るのはなぜ?
銀行の融資審査では、会社の直近の利益だけでなく、過去の利益も見ます。
それは、直近のデータだけでは、その決算期にたまたま利益(又は損失)がでた可能性もあるため、銀行としては、会社に返済能力があるかどうか判断できないからです。
したがって銀行は、一般的に三期分の決算書を会社から提出してもらい、三期平均の利益に基づいて返済力を算出します。
また、損益計算書や貸借対照表におかしなところがないかも、連続して決算書を見ていくと把握をすることができます。
特に先にも話をした、勘定科目内訳書は穴があるくらいに見られるでしょう。
焦げ付いた売掛金がないか、手形がないのかはこの勘定科目内訳書を見ると分かります。
さらに、役員貸出しはあるかどうか、架空の売掛金はないかも確認をしてきます。
勘定科目内訳書は銀行に提出したくないという経営者もいるようですが、提出をしなければ債務者区分を引き下げされるため融資を不利な条件でしか受けられなくなります。
債務超過
債務超過とは、資本金がマイナスになっている状態です。
銀行が企業の審査をする際に、営業利益と同じくらい重視する視点が「債務超過か否か」という点です。
銀行融資が止まったら破綻する
貸借対照表とは、企業の資産を何によって調達しているかということを示す財務諸表です。
債務超過とは、企業の資産のすべてを債務によって調達しており、さらに赤字が拡大して総資産以上に負債が多い状態です。
<正常な貸借対照表>
資 産 | 負債・資本 | ||
---|---|---|---|
10000 | 負 債 | 4000 | |
資本金 | 6000 | ||
合 計 | 10000 | 合 計 | 10000 |
<債務超過先の貸借対照表>
資 産 | 負債・資本 | ||
---|---|---|---|
10000 | 負 債 | 12000 | |
資本金 | −2000 | ||
合 計 | 10000 | 合 計 | 10000 |
赤字が拡大し、赤字分を負債でまかない会社を継続させているだけですので、銀行融資がストップした段階で資金繰りが成り立たなくなり、この企業は倒産してしまうことになります。
債務超過解消の見込みがあるか
とはいえ、日本の中小企業の多くが債務超過です。
バブル崩壊、リーマンショックなどの不景気の際に大きな赤字を出し、その赤字で債務超過となり、今だにそのマイナス分を取り返すことができない企業が数多くあります。
そのため、債務超過だからといって必ずしも銀行から融資を受けることができないわけではありません。
利益を出して、債務超過がいずれ解消できる見込みがあれば融資には応じてもらえることが少なくありません。
しかし、債務超過と営業赤字が重なっている企業は債務超過解消の見込みがないため、そのような会社は融資を受けることは難しいでしょう。
キャッシュフロー
キャッシュフローとは現金がいくらプラスになったのかという考えです。
こちらも利益と同じくらい銀行が企業を審査する際に重要な視点です。
現金があれば会社は回る
いくら利益が出ていても現金がなければ借金の返済もできませんし、経費の支払いもできません。
会社が倒産する原因は赤字であることではなく、現金が枯渇して支払いができないために倒産するのです。
黒字だけど現金がないために倒産するのが「黒字倒産」です。
2016年には黒字倒産の企業が倒産件数のうち、約半分になっていると言われています。
このため、企業を評価する視点としては、利益と同じくらいにキャッシュフローが重要になります。
売上を拡大すること以外でキャッシュフローを改善する方法としては以下の2つの方法を挙げることができます。
売掛金を少なくする
売掛金が多いと、資金繰りは苦しくなります。
売掛金で販売を行なった場合、売上は上昇しますが、現金にはならないためです。
3ヶ月先に入金予定の売掛金で販売した場合には、手元に3ヶ月分の現金を持っていなければ会社は回りません。
資金繰りを改善するには、掛けでの販売を見直すか、入金サイト(入金になるまでの日数)を短くしてもらえる取引先がないか検討しましょう。
また、売掛金や受取手形は手形割引やファクタリングなどの方法で期日前に現金化することも可能です。
手数料はかかってしまいますが、資金繰りの改善には寄与するため、これも1つの方法です。
買掛金を多くする
仕入れ先に対して、こちら側の支払いサイトを長くすれば資金繰りは楽になります。
当月締め翌月末払いの取引先があるとしたら、翌々月払いにすることができる仕入れ先はないかなども検討しましょう。
このように、売掛金を少なくして、買掛金を多くすれば資金繰りは改善し、銀行が融資を行う際の審査にはプラスに寄与します。
キャッシュフロー計算書も重要視される
銀行は会社に融資をするときに、その会社の損益計算書を確認しますが、最終利益が黒字だからといってすぐに融資がOKとなるものではありません。
それは、銀行にとって黒字と、返済力があるかどうかは別問題であるからです。
銀行はあくまでもその会社に、返済するお金があるかどうかを確認することになります。
そこで銀行が確認するのが「キャッシュフロー計算書」で、これは会社の利益を基準としてお金が出ていかない経費である「減価償却費」や、逆に経費にならないけどお金がでていく「借入の返済」「税金の支払い」などを調整したものです。
今実際にいくらの現金(預金)があるのかを示すもので、返済力をしるための資料になります。
キャッシュフロー計算書は、資金繰り表ともいわれ、銀行は審査上でもちろん重視することになります。
また、経営者にとっても会社の借入が必要な時期が分かったり、どれだけの売上げが必要かといった指標も分かったりしますので、キャッシュフロー計算書を作っていない場合は作ってみることをおすすめします。
返済能力
収支や自己資本やキャッシュフローからは算出できない部分の返済能力も銀行審査の際には重要な視点になります。
会社の資産
利益が出ていなくても、会社に現金がそれほどなくても、すぐに現金化できるような有力な資産が会社にある場合には融資にプラスに働きます。
具体的には資産価値のある不動産や有価証券などです。
このような資産がある場合には、当該資産の価値を担保として融資を受けることができる場合があります。
代表者の資産など
法人融資の場合には、代表者が連帯保証人となることが一般的です。
そのため、財務諸表には出てこないものの、代表者が個人資産をいくら持っているのかということも審査の際には重要な視点となります。
代表者が個人預金を銀行に多く持っていれば、「代表者は当行に〇〇万円預金を持っており、返済には懸念ない」というロジックが成り立ち、銀行はそれを根拠に融資を行う場合があります。
代表者でなくても、代表者の親なども返済能力の根拠として扱われます。
したがって、大口預金者の子供の会社も銀行から融資を受けやすくなります。
創業資金などを借りたい時には、親が大口預金をしている銀行の方が、何も取引がない銀行よりも融資を受けやすくなります。
成長性
銀行は融資を行うことによって、当該企業を成長させ、地域経済や従業員の生活を向上させるという社会的な義務を負っていますし、だからこそ銀行も長期的に収益を上げることができるようになるのです。
したがって、銀行は企業の成長性を重視していますし、成長している企業の方が融資を受けやすくなります。
前期比からの収益の増加
前期から収益がどれくらい伸びているか、また売上がどれくらい上昇しているかも企業を評価する際の重要な視点です。
伸び率が大きいほど融資を受けやすくなりますし、特に金額の大きな設備資金などでは、前期からの伸び率が非常に重要です。
「企業は順調に成長しており、今後はさらなる規模拡大のために設備投資を行う」というロジックが成り立つためです。
逆に、利益が出ていたとしても毎期毎期売上や収益が縮小している企業は、「成長性がない」と判断されて融資を受けにくくなります。
業況が悪くても受けられる融資
業況が悪くても以下のように、自社の信用力以外の部分を担保に融資を行う融資に関しては、お金を借りやすいと言えます。
具体的には以下の3つの融資があるため詳しく解説していきます。
手形割引
手形割引とは、会社が持っている受取手形を担保にして融資を受ける方法です。
返済は手形の期日になると銀行が手形の取り立てを行うため、自社は返済に関与しません。
返済を行うのは受取手形の発行企業ですので、自社の信用よりも取引先の信用が重視されます。
このため、業績の悪い企業であっても取引先が優良先であれば融資を受ける可能性があるのです。
もちろん、自社の信用も審査対象となるため、優良企業の手形さえ持っていれば必ずしも融資を受けることができるわけではありません。
ABL
ABLとは流動資産担保融資のことで、近年活発になっている融資です。
売掛金などの売上債権や棚卸資産などの流動資産を担保にして融資を受けます。
売上債権の場合には手形割引と同じように売掛先の信用力を担保にできるため、業績が悪くても融資を受けることができる可能性があります。
また、棚卸資産担保の場合には、換金性の高い資産や継続的に売上が見込める棚卸資産を持っている場合には、業績が悪くても融資を受けることができる可能性があります。
不動産担保
不動産を担保にして必ずしも融資を受けることができるわけではありません。
銀行は現金での返済をしてほしいと考えているため、バブル期のように、不動産さえ担保に入れれば担保評価額の範囲内で融資を受けられるということは全くありません。
しかし、それでも不動産などの価値のある資産を持っている会社の方が融資では有利になります。
また、借入希望額と比較してかなり高い価値のある不動産を持っている場合には業績が悪くても融資に応じてもらえる可能性があります。
代表者の個人資産にしても同じことです。
また、預金を担保にする場合には業績に関係なくほぼ確実に融資に応じてもらえます。
再建のめどが立っている会社も融資を受けられる
会社経営の中には業績が悪くなってしまうことは決して珍しいことではありません。
また、そのような業績不振のときこそ企業を支援するのは銀行の社会的な責務でもあります。
このため、支援を行うことによって再建の目処がたつような以下の場合には業績が悪くても銀行は融資に応じることがあります。
業界全体の不況
バブル崩壊やリーマンショック時のような社会全体の不況によって企業の業況が悪化した際には銀行は支援に積極的になります。
バブル崩壊時は戦後日本が直面した初めての大型の社会的な不景気でしたので、銀行は企業の救済よりも銀行自身の保身に走り、結果として多くの企業を倒産に追い込んでしまいました。
しかし、リーマンショック時にはバブル崩壊時の苦い経験を生かして、国をあげて中小企業の資金繰りを支援しました。
経営者や会社単体の責任ではなく、社会全体の風潮によって会社の業績が悪化している場合には、銀行は積極的に企業に対して支援を行わないと、結果的に地域経済の衰退につながってしまうため、このような場合は銀行は積極的に融資に応じています。
特別な技術がある会社
業績が悪くても、他者にはない特別な技術があるようなオンリーワン企業は融資を受けやすくなります。
そのような企業は将来的には競争に勝ちやすいですし、状況次第ではさらに成長が見込めるためです。
このように、付加価値の高い企業も業績が悪くても再建の目処が立ちやすいため融資を受けやすい企業と言えます。
業績が良くないときに融資を受けるには
業績がよくない状態では融資を受けることはできないのでしょうか?
そのようなことはありません。むしろ業績がよくないからこそお金が必要になるのです。
実現性の高い経営改善計画書を提出する
融資を受けることによって、会社がどうなるのかを示す必要があります。
運転資金を借りるのであれば、今後売上が改善して、流動資産が増えて流動比率は100%を超える状態に転じるなどの根拠を示して説明する必要があります。
また、固定資産を購入するための長期借入金を借りるのであれば固定資産から今後どの程度の収益を生み出すことができるのか、長期適合比率は100%を切るような健全な投資で、そこから生み出す収益で長期借入金は返済可能なのか。
また、収益から流動資産が増えて流動比率は改善するのか、自己資本は強化されていくのかなどの根拠をつけて説明する必要があります。
根拠とは例えば「今まで、この取引先からこのような仕事の依頼があったが、設備がなくて断っていたが、今後は設備導入によって今まで断っていた仕事を受けることができ、さらに売上と収益を強化できる」などのできる限り具体的な情報を示します。
赤字の原因が一過性のものであることをアピールする
先ほど述べたように、売上総利益が赤字、営業利益が赤字の会社は本業で収益を出せない構造にあるということです。
赤字の原因が一時的な原価の高騰などの一過性のものであれば問題ありませんが、この状態が3期以上続いてしまうと、いくら融資を行って延命を図ってもこの会社は経営改善する見込みがないと判断され、融資を受けることはできません。
このため、赤字の原因は一過性のもので、例えば「1年間時間があれば経営は改善できる」という見込みが重要になります。
そのため赤字の原因が一過性であることをアピールすることが重要になります。
「デモの影響で原価が高騰している」とか「異常気象の影響で仕入れ値が高騰している」などといった理由が赤字企業が融資を受けるためには重要になります。
資金力・売却可能資産があることをアピール
会社には信用がなくても経営者個人の個人資産や経営手腕が評価されて融資を受けることができる場合もあります。
大口預金先の息子の会社に融資を行うなどという場合も少なくありません。
このように、決算書から読み取れる内容以上に資金力がある場合には積極的にアピールしたり、他の銀行にある個人預金を融資を受けようとする銀行へ移したりすることで審査にプラスとなることもあります。
また、審査の際には銀行員との面談がかなり重要になります。
「この社長のビジョンはしっかりしている」「今後銀行からの要求にも誠実に対応してくれる」と判断できると銀行はそれもプラス材料として審査を行いますので、銀行員との面談の時間は大事にするようにしてください。
損益計算書は会社の家計簿!
損益計算書とは決算期の中で会社が受け取った収益と、支払った費用を合計した、一般家庭でいう家計簿になります。
損益計算書の一番上に売上げが記載されており、下にいくにしたがって費用や一過性の収益が加減され、一番下にその会社が最終的に黒字、又は赤字であるかを記載しています。
損益計算書は色々な項目が載っていますが、5つの利益の意味が分かれば混乱することはありませんので確認してみましょう。
5つの利益を理解しよう
損益計算書には上から記載されている順番に、5つの利益がありますので、確認してみましょう。
「売上げ総利益」
まず一番上に記載されているのが、「売上げ総利益」になります。
売上げ総利益は売上げから売上原価を引いたものであり、粗利とも呼ばれます。
銀行担当者はまずこの粗利について、経営者との会話の中でつかもうとしてきます。
そして、お金を貸すことができそうな会社に目星をつけてきます。
また、売上原価とは、仕入れや外注費といった、その売上げをあげるために直接かかった費用のことであり、売上原価と売上げは大体比例する関係にあります。
「営業利益」
次に記載されているのが、「営業利益」になります。
営業利益は売り上げ総利益から、人件費や家賃等の販売管理費を引いたもので、会社本業として活動した結果の利益です。
銀行は融資審査のときに営業利益を重視し、そもそも本業で儲(もう)かっているかを確認します。
その理由としては、本業でしっかりと業績を出していれば、安定した経営をしていると見られるからです。
本業以外の利益は一過性のものが多く、毎年決まって入ってくるとは限らないのです。
「経常利益」
そして三番目に記載されているのが、「経常利益」になります。
銀行では「経常(ケイツネ)」ともいっています。
経常利益は営業利益から支払利息や貸倒金といった、「本業とは関係のない経済活動で発生した経費」を引いたものです。
この利益も重要視される項目です。
中小企業の場合は、この数字を操作している可能性がありますので、税務署に申告したときに利用した勘定科目内訳書と一緒に確認をしていきます。
「税引き前当期純利益」
そして「税引き前当期純利益」ですが、これは経常利益から売却損や評価損など、「いつも発生することはない一過性の経費」(特別損失)を差し引いたものです。
また、生命保険の保険金を受け取った場合などは、経常利益が赤字でも税引き前当期純利益が黒字になることもありますので、会社本来の業務による利益とは一致しません。
「当期純利益」
損益計算書の最後に記載されているのが、「当期純利益」になります。
当期純利益は税引き前当期純利益から、法人税といった税金を差し引いた金額です。
なお、法人税は「税引き前当期純利益」を元に計算がされています。
このように利益の種類はたくさんありますが、銀行が一番重視するのは「営業利益」ですので覚えておきましょう。
重要視されるのは営業利益
たくさん種類のある損益計算書の利益の中で、銀行が審査の際に一番重視するのは「営業利益」です。
その理由としては、営業利益は会社の本業でできた利益であり、銀行にとって将来的に安定した返済をしてもらえるかという指標になるからです。
逆に、売上げ総利益は業種によって異なりますし、経常利益や税引き前当期純利益は、一過性の原因による可能性もあるので、銀行は参考程度にしか見ません。
最終利益を黒字化しても意味はない
銀行融資では営業利益がどうなっているのかが最重要視されることを理解してもらったところで、最後に一点だけ忠告させていただければと思います。
経営者の中には黒字にしたくなかったから、といった理由で決算書の数字に手を加える方は少なくありません。
減価償却費を計上しないといった手段で、最終利益を黒字にしたという話はよく聞きますよね。
しかし、銀行融資ではそんなことをしても何のメリットもありません。
原価償却費を計上していないことは提出書類を確認すれば簡単にわかりますし、今回説明したように当期純利益が黒字であれば銀行員が二重丸の評価をするわけではありません。
企業の現在と将来的な発展性を担う営業利益を重要視しているからです。
しかも、こういった小手先の操作は却って銀行印の印象を悪くすることにもなりかねません。
軽く考えているようですが、このような数値操作は厳密に言えば粉飾決算に当たりますし、こういったことをする経営者は他にもなにか隠し事があるのではと怪しがられるだけで、マイナスとなることはあっても、プラスとなることはないのです。
経営者がよくやる利益操作がいかに無駄なことなのかをよく理解して、こんな馬鹿な真似だけは絶対にしないようにしましょう。
赤字でも理由があれば大丈夫!
銀行は融資審査をする会社の最終利益が赤字だったとしても、正当な理由があれば業績の悪い会社とは判断しません。
それは、最終利益が赤字になった原因が、不動産の売却損や、災害や盗難による損失といった、本業とは関係のない場合であれば、今後の融資の返済には直接影響がないからです。
また以下の例のように、赤字になった原因が一過性である理由であれば、銀行はその経費がなかったものみなす可能性もありますので覚えておきましょう。
参考例)
・「社員が頑張ったから、今期だけ特別ボーナスを出した」
・「来期に向けて、ホームページの改修をしたため広告費が増えた」
タグ:その他金融業者