銀行融資枠はどうやって決定する?事業資金と個人ローンの金額決定方法
法人や個人事業主が銀行から借入可能な金額というのは、実はあらかじめ個別に決められています。
事業者の決算状況などから判断して、この会社はいくらまで総額で融資に対応すると決められており、銀行もその空き枠に基づいて営業を行っています。
企業もそれ以上の金額を借りることは難しくなります。では、銀行の事業資金の枠はどのように決定するのでしょうか?
- 執筆者の情報
- 名前:手塚 龍馬(36歳)
職歴:過去7年,地銀の貸付業務担当
目次
事業者の借入枠は業況で決定する
事業者の借入枠は決算書の数字から判断して決定します。
実際には、決算書の内容を銀行の審査システムに打ち込むと、システムが自動で判定する仕組みとなっています。
この数字がどのように決定するのかの計算方法は公表されていませんし、銀行独自で異なります。
ここでいう借入枠とは、融資全体のことで、カードローンや当座貸越だけのことではありません。
その会社が当該銀行から借りることができるすべての融資額がいくらなのかという話です。
限度額を決める3つ指標
銀行の借入枠を決定するシステムの計算式は銀行のトップシークレットの1つですので、公表されていません。
しかし、一般的には借入金月商倍率、借入限界点、支払利息対売上総利益率などが限度額算出の基礎となっているといわれています。
借入金月商倍率
借入金月商倍率とは、借入金が月平均の売上高の何倍あるかということを示す指標で以下のように計算します。
借入金月商倍率=(長期借入金+短期借入金+割引手形)÷月平均売上高
一般的に、3か月が1つの基準と言われており、6か月を超えると危険水域と言われています。
つまり、借入金月商倍率を基準とした借入金の限度額は、月商の3か月分が融資額の限度と言えます。
月商300万円の会社であれば900万円程度までは融資に応じてもらえる可能性があるということです。
ただし、借入金月商倍率は業種によって3か月分よりももっと多い借入金があっても大丈夫とされる業種もあります。
あくまでの基準の1つとして参考にして下さい。
借入限界点
借入限界点とは支払利息を負担できるキャッシュフロー(支払利息負担利益)から算出していくらまでの借入に耐えられるかを算出する方法で以下のように算出します。
支払利息負担利益=営業利益+受取利息+減価償却費
借入限界点=支払利息負担利益÷金利
たとえば営業利益が300万円、受取利息が10万円、減価償却費が40万円の会社が金利2%のローンを借りようと検討した場合の借入限界点は以下のようになります。
支払利息負担利益=300万円+10万円+40万円=350万円
借入限界点=350万円÷2%=1億7,500万円
となります。
借入限界点は借入可能額が少々大きくなりすぎるということが指摘されている考え方ですので、あくまでも借入可能額の参考として考えるようにしてください。
営業利益300万円に対して1億7千万円の借入が可能というのは少々無理があるように思います。
支払利息対売上総利益率
支払利息が売上総利益からどのくらいかで借入可能額を判定するのが支払利息対売上総利益率という考え方です。
10%が基準で20%に近付くと危険という考え方があります。
支払利息対売上総利益率=(支払利息+割引料-受取利息)÷売上総利益
売上総利益が5,000万円、受取利息が10万円の会社の場合の支払利息対売上総利益率を10%にしようとした場合に支払うことができる利息は以下のようになります。
10%=(支払利息+割引料-10万円)÷5,000万円
ですので、支払い可能な利息は510万円までとなります。
金利が2%のローンを借りようと検討した場合は、510万円の利息までは耐えられるため、510万円÷2%=2億5,500万円まで借入可能となります。これも明らかに大きすぎる金額となります。
こちらも1つの目安ですのであくまでも参考程度としてください。
現実的な指標でいえば、やはり月商の3倍程度までが借入限度と目安と考えるのがよいでしょう。
銀行はこれらの指標と銀行独自の経験則と融資方針に基づいて、取引先各企業の融資限度額を設定しています。
持ちつ持たれつで曖昧
自社の融資限度額がいくらなのかということを銀行員に聞いてもおそらく教えてはくれません。
また、計算方法も銀行によって異なるために決算内容から知ろうとしても完全に知ることは不可能です。
銀行と取引先企業は融資をしたい銀行と、お金を借りたい企業という持ちつ持たれつの関係ですので、厳密にこの融資限度額までは1円も多く借りることができないというわけではありません。
保証協会の保証や担保によって保全ができている場合にはこれ以上の金額を貸してくれる場合もあります。
ただし、大きな融資方針を決定するため、銀行内部では「この企業には○○万円までの融資」という枠が決められているということも事実です。
銀行からの借入枠を増やすには
銀行が企業に対して決定している借入枠は毎年決算書を提出してから行われる企業審査というもので毎年変化します。
固定されているわけではありません。業況が良化すれば増額しますし、悪化すれば減額します。
借入枠を増やすためにはどのようにすべきでしょうか?
担保を差し出す
銀行からの借入枠を増やす方法は担保を提供するという方法があります。
抵当権とは1つの融資に対して担保を提供することで、返済が終了すると抵当権は解除されます。
抵当権には担保を入れっぱなしにする根抵当権という権利があります。
これは、銀行に対して極度額という○○万円までの融資に対してはこの担保を抵当として使ってくださいという抵当権です。
つまり、根抵当権3,000万円が設定されていたのであれば、融資残高が0円の状態でも銀行に対して、3,000万円の担保を差し出している状態となります。
銀行とすれば3,000万円分は担保によって守られているという考えになりますので、3,000万円分の審査に対しては甘くなります。(もちろん業況に基づいて返済可能かどうかの審査は厳格に行いますが)
無担保の状態での融資限度額を使い切ってしまったなと思ったら、保有する不動産を担保として提供することで融資限度額が増える可能性があります。
業況が良くなれば枠は大きくなる
先ほど説明したように、銀行が企業に対して設定している融資限度額は売上や利益率によって変動します。
このため、融資限度額を増やすためには単純に売上を拡大したり、利益を出したりすればよいのです。
銀行も業況のよい会社にはどんどん融資を行っていきたいと考えているため、年に1回の企業審査において融資方針は積極融資方針などに変わり、融資限度額も増額されます。
融資限度額に対する見方は企業と銀行側では違ってくる
まず銀行融資の決定方法について検証する前に知っておいてもらいたいのは、融資限度額に対する考え方の違いです。
銀行は返済能力なしと判断すれば融資は行いませんし、希望額相当を融資するには足りないと判断すれば減額融資の決定を行います。
銀行は返済能力に応じた融資実行しか行いません。
よって借り手の企業側とは融資限度額に対する見方が全く違ってくるのです。
企業側から見た借入限度額は必要性の範囲内
企業が銀行に事業資金の融資を申込む際は、その資金使途は基本的には運転資金、もしくは設備資金のどちらかとなります。
この2つの額は下記のように明確に数値化することが可能です。
- 運転資金 経常運転資金として算出される必要資金
- 設備資金 利益償還が可能と考えられる投資額
こうして算出された金額が、企業の求める必要性の範囲内の借入限度額となるのです。
運転資金
経常運転資金とは企業が利益等から支払うことができず、自己資金等で立て替えている資金を指します。
通常、企業間取引においては売上が上がってもすぐに現金化できず、在庫を増やしたからといってすぐに請求されるわけではありません。
よって企業は常にすぐに現金化できない売掛金と、後で支払わなければならない買掛金が常に存在します。
ここで問題となるのが資産不足です。
売掛金入金と買掛金出金の時期は同じとは限らず、売掛金入金がまだなのに買掛金出金の時期が先に来ることは珍しくありません。
このように入手金のずれによって企業が立て替える必要のある資金を経常運転資金と言い、その総計は下記の計算式によって求められます。
経常運転資金 = (売掛金 + 受取手形 + 棚卸資産)-(買掛金 + 支払手形)
経常運転資金は企業の自己資金に余裕があればそれを充当できますが、大抵の場合は銀行融資に頼ることになるため、銀行としても認めやすい王道の運転資金とも呼ばれています。
設備資金
設備資金は流動性の高い運転資金よりも数値化しやすく、その返済原資は購入設備が生み出すキャッシュフローが充当されます。
そのキャッシュフローは下記の計算式によって求められます。
税引後当期利益 + 減価償却費
この算出された金額から購入設備の返済額を引いたものがプラスになれば、設備資金として妥当な金額と判断されますが、マイナスとなる場合は自己資金の追加や、購入設備の見直しが求められます。
以上のように融資申込側にとっての借入限度額は、上記の経緯を踏まえ必要となる範囲内の金額がそれに当たるのです。
銀行側から見た融資限度額は臨機応変に変化する
企業側から見た借入限度額は明確に数値化することが可能ですが、銀行から見た融資可能額の決定は少々複雑です。
もちろんいま説明したの点についてもチャンと審査しますが、銀行の場合はそれだけでは済みません。
銀行の融資限度額は下記のような要因が関係し、これによってその額が変わってきます。
- メインかサブか
- 取引スタンスがどうなっているか
- 融資実績が必要な時期かどうか
メインかサブか
中には取引先銀行が1行だけというところもあるようですが、メイン銀行の他にサブ銀行をいくつか抱えているのが一般的です。
取引先企業が優良であればあるほど、メイン銀行はメインの座を死守しようとします。
よって、融資申込先がメインかサブかで、融資限度額も変わってくるのです。
基本的にはメイン銀行の融資限度額が高く、サブ銀行以下の融資限度額はそれよりも低いのが一般的となっています。
取引スタンスがどうなっているか
基本的に銀行は企業が下記のどの取引スタンスに当たるのかを決めています。
- 積極的
- 現状維持
- 撤退
銀行格付けが良かった企業だとしても、格付けが下がることがありますし、またその逆もあります。
よって、融資時においてこの格付けを重要視する銀行は、業績によって取引スタンスも変わってくるのです。
また力を入れていた業種に対して積極的でなくなったりすることでも、融資限度額は大きく変わってきます。
よって、決済権を持つ人の方針が変わってしまえば、「積極的」だった企業が「現状維持」となったり、現状維持だったところが「撤退」となったりします。
決済者の鶴の一言で融資スタンスが全く変わってしまうのです。
現在自分の企業がどのようなスタンスに置かれているのか、それを見極めるのも経営者に求められる必要な技量となってくるのです。
融資実績が必要な時期かどうか
銀行は決算時期になると業績を上げるために、ある程度の権限が下部層にも認められ、通常では通らないような融資額が実行される可能性も高くなります。
しかし、逆にそれほど融資を求めていない時期や、堅実な融資をしようとしている時期は審査は厳しくなり、融資限度額は抑えられます。
銀行の事業資金融資の限度額には「明確な基準が定められているわけではない」と言われることが多いのも、こういった銀行の事情も大きく影響しているのです。
以上のように銀行の融資限度額の決定は企業が求める必要性の範囲内であることを無視することはありませんが、そこへ銀行の事情が加わってくるため、融資限度額が高くなることもあれば低くなることもあるのです。
融資限度額の増額を狙うなら不動産担保融資もおススメ
先程、少し触れましたが担保とできる不動産があるなら、それを担保として融資限度額の増加を図ることが可能です。
不動産を担保にすると融資限度額はどれくらいになるの?
500万円以上に上る事業融資を受けることは簡単なことではありませんが、担保となる不動産があれば話は別です。
融資限度額は不動産の評価額によって左右されますが、その目安は評価額の約70%と言われています。
ですが銀行の場合はこの相場を下回る50%というのが一般的で、銀行によって融資限度額は違っています。
ですが銀行からの融資金額が希望額に満たない場合は、不動産を担保にするのも1つの方法と言えるでしょう。
不動産担保ローンにはこんな問題点が・・・
しかし、不動産を担保にした場合に一番に考えなければならないのが地価動向です。
不動産を担保にする場合は比較的金利も安く、長期返済が可能となるので融資方法としてはおススメですが、評価が下落してしまうと銀行の担保評価も低くなってしまいます。
不動産担保融資の相場が評価額の70%と言われるなか、銀行が50%と低く設定しているのも、この担保下落を心配してのことです。
また担保評価が下がれば銀行は別の担保を追加して埋めることを要求してきます。
よって、不動産ローンにはメリットもありますが、不動産担保融資を受けることはリスクが伴うことをよく理解しておく必要があるでしょう。
個人の借入額は年収に大きく関係する
個人の借入額に対して決定的な影響を及ぼすのは年収です。
様々なローンがありますが、基本的には年収の○○%までというように決められています。
つまり、基本的に年収の多い人は高額まで融資を受けることができますし、年収の低い人は少額までしか借りることができません。
カードローンは年収の半分まで
銀行系カードローンの融資枠は、消費者金融のように年収の3分の1以内と法律によって厳格に定められているわけではありません。
銀行独自の判断によってきめられていますが、銀行の中にも融資額に対して暗黙の了解があります。
カードローンのような使い道自由で、無担保のローンは年収の半分を超える金額の融資には応じないということです。
年収400万円の人であれば200万円までというのが相場です。
つまり、限度額800万円のカードローンであれば、800万円と借りることができるのは年収1,600万円以上が必要になってしまうのです。
他社との合計で半分以内
銀行カードローンでは審査の際に個人信用情報に照会を行い、申し込んだ人が他社からどの程度の借入があるかを調べます。
この際に住宅ローン以外の借入がある場合には、他社との合計で年収の半分以内と大まかに決められています。
年収400万円の人は200万円まではカードローンの借入ができる計算となりますが、すでに他社借入が150万円あった場合には50万円までしか借りることは難しいでしょう。
消費者金融並みに変更する銀行も
昨今、銀行のカードローンによる過剰融資が社会問題化され、銀行の融資姿勢が批判されています。
そこで、全国銀行協会は銀行のカードローン融資に対する自主規制の強化を各行に促しており、銀行の中にも自主規制強化に動いているところもあります。
みずほ銀行は年収の3分の1までしか融資を行わないと発表しましたし、今後はその動きに追随する銀行も増えてくることが予想されます。
とはいえ、現状では大多数の銀行が自主規制を強化しておらず、今のところ、借入枠の限度は年収の2分の1以内であると理解しておいて差し支えありません。
増額は基準以上に貸す銀行も存在
銀行は最初の融資では年収の半分を超える金額の融資は行いません。
しかし、半年以上の利用実績があり、返済状況に全く問題がない人には年収の半分を超える金額の増額を行うこともあります。
過剰融資の実例では、増額を繰り返し年収の倍以上の金額の融資を行い、社会問題となったこともありました。
返済を期日通りに履行していけば増額の結果として、年収の半分よりも多くの金額の融資を受けることも可能な場合もあるようです。
自動車ローンは年収と同金額
自動車ローンは年収を超える融資は行いません。年収400万円の人は400万円の融資までしか受けることはできません。
自動車ローンは自動車という特定の目的のためだけにお金を使うローンで、ローンの対価として自動車という資産を手に入れます。
何にお金を使ったかどうかわからないカードローンとは根本的に性質が異なりますので、カードローンの倍の融資にまで対応しているのです。
他社との合計で年収以内
自動車ローンも単純に年収と同金額の融資にまで応じてくれるわけではありません。
住宅ローン以外の他社借入との合計で年収までというのが基本です。
年収400万円の人は400万円まで自動車ローンを借りることができますが、すでにカードローンの利用が100万円あった場合には300万円までしか自動車ローンを組むことはできないと理解しておきましょう。
住宅ローンは年収の5倍まで?
住宅ローンの融資限度額は昔は年収の5倍までと言われていました。
年収500万円の人であれば2,500万円までしか融資を受けることができないため、一定の頭金が重要であるなどと言われてきましたが、今や頭金なしでもローンを組める時代です。
そのため、現在では年収の5倍という考えから、返済比率という考えが重視する方向へと変化しています。
返済比率が重視される傾向に
返済比率とは毎年の返済額が年収に対して所定の比率以内になるまでしか融資を受けることができないということです。
銀行によって差異があるものの、許容される返済比率は25%~40%以内というのが相場です。
年収500万円の人が返済比率30%以内の住宅ローンを組もうと思った場合、許容される年間返済額は150万円までということになります。
ここから借入限度額を逆算します。
20年ローンを金利1%で組もうと思った場合の融資限度額は約2,700万円です。
これではほしい物件のまで届かないと思えば、返済期間を長く設定します。
夫婦の所得の30%程度
住宅ローン借入額の計算の根拠となる年収が他のローンと異なる点として、共働き夫婦の場合には配偶者の所得の1部または全部を合算して返済比率を求めることができるという点です。
例えば、夫の年収500万円、妻の年収400万円の世帯が、妻の年収の半分を所得合算できる住宅ローンを組む場合の基準となる年収は500万円+400万円×50%=700万円となります。
返済比率30%、金利1%の住宅ローンを20年で組もうと思った場合の借入限度額は約3,800万円となります。
この点が申込人本人の年収しか考慮されないカードローンや自動車ローンとの大きな違いです。
担保価格の範囲内までの融資となる
住宅ローンの借入限度の枠は返済比率だけで決定するわけではありません。
担保価格の範囲内という考えも融資枠を決定するにあたって重要になります。
要するに、住宅ローンの融資額の限度枠は、返済比率の範囲内と、担保評価額の範囲内のいずれか低いほうとなるのです。
上記の夫の年収500万円、妻の年収400万円の事例で考えると、この世帯の借入限度額は返済比率でみると、約3,800万円まで借りることができます。
この夫婦が購入しようとしている住宅の土地と建物の評価額が3,500万円までとすると、この世帯が借りることができる限度額は3,500万円までとなります。
とはいえ、土地と建物を購入する場合には一般的には購入価格が評価額となりますので問題ありません。また、マンション購入の場合にも購入価格が評価額となります。
問題になるとすれば、建物の評価額が売価よりも大きく少なくなる中古物件購入時くらいのものでしょう。
このように、住宅ローンの評価額は返済比率の範囲内と担保評価額の範囲内のいずれか低いほうが住宅ローンの融資枠の限度となります。
まとめ
銀行からいくら借りることができるのか、ということは経営者であればだれでも気になるところです。
しかし、いくら聞いても銀行は借入限度額は教えてくれませんし、計算しても正確な数字を把握することは不可能です。
やはり、事業資金において重要なのは、何の目的でいくら必要なのか、融資の結果企業はどのように展開するのかということです。
いくら借りることができるのではなく、いくら必要であるという根拠を把握することが重要です。
単純に業況が好転すれば銀行は積極的に融資に応じてくれます。
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