トレンド変化は再生開始のシグナル~抜本的な収益改善策と資金調達を考える
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赤字を埋める融資の雪だるま
中小企業経営者が赤字転落など経営状態が悪化した際に取れる手段はいくつかありますが、その中でも定番なのが資金調達です。
同時に、この資金調達は事業の再生を前提とするからこそ意味があるものであり、単に赤字を埋めるだけのものとした場合経営は加速度的に厳しくなります。
例えば毎月100万円の赤字が出ているとしましょう。
そこで銀行に相談したら1000万円まで借りられるとなってこの融資を受けたとします。
借りた1000万円で10ヶ月埋まる、と思うかも知れませんが、実は17万円の返済が毎月の赤字に上乗せされます。
よって8ヶ月しか埋まりません。
この8ヶ月で赤字を潰す努力が必要になりますが、支払いサイトというものがありますから、資金繰りで考えると7ヶ月目には売上ベースで埋め切らないと資金ショートの可能性があります。
クロージングまでの期間が1ヶ月程度なら、6ヶ月目には見込みが立っていないといけないことになりますね。
ここに遅れてしまうと、また資金ショート。
返済分が増え、単に不足資金を2割増にしたことになります。
一年以内の再借入となると、事業計画も抜本的な見直しが必要ですが、そうなると返済は更に増え、不足資金は3割以上増加することになります。
返済計画とは、借入資金を元手として赤字をなくし、更に返済原資を生み出す計画ですから高い利回りを生み出さなくてはならないのです。
抜本的な赤字解消策が必要
さて、赤字を潰すと簡単に書きましたが、これは赤字の質により難易度が異なります。
いわゆる放漫経営であれば、引き締めでそれなりに成果が出るでしょう。
しかし大抵の中小企業は絞りに絞った結果まだ赤字といったケースが多く、また資産が多いわけでもありません。
真面目だからこそきちんと経費を引き締め、真面目だからこそ経営者として自身で努力し、それでもなお上手くいかないという状態です。
そこで、私たちはバランスシートや資金繰りの改善だけではなく、売上と利益の向上策を同時に進行させます。
既存事業利回りでは返済原資が出ませんから、利回りを高める、つまり利益率を引き上げるためのオペレーションの改善やそれだけで解決することは少ない為、分母となる売上を高めるための販売チャネルや商品・サービスメニューの拡充改善、値付けの見直しなども含まれます。
こうした一連の作業によって再生を進めますが、これは私たちのような外部コンサルタントと進める場合も自社内で完結させる場合も、少なからず費用がかかります。
よって、条件変更済みで追加融資が受けられない場合や資金が枯渇している場合、短期的に必要な資金を通常の金融機関融資以外に頼る場合もあります。
再生に必要な資金をどう調達するか
例えば運送会社であればリースの終わった車両を担保にした融資を受けたり、売掛金の規模によってはこれを担保とした融資や、ファクタリングという手段を取ることもあります。
現在なら一般に中小企業向けの運転資金融資は信用保証協会の保証のもと無担保で実施されることが多いですが、これはいわば事業そのものの見通しが担保であると言い換えることもできます。
融資不可となるのは、事業の見通しが暗いと判断されるからで、それ自体は経営悪化の状態にある以上致し方ない部分もあります。
ですから、あえて担保を必要とする融資にすることで貸し手のリスクを抑え融資条件を整えるわけです。
こうした資金調達手段は、条件変更済みなどで通常の運転資金融資が難しい場合にも利用できます。
当然担保を出す以上返済が滞るようなことがあれば差し押さえられてしまう危険があります。
ですからそうしたリスクを勘案した上で適切な金融商品を選択することになります。
手元の手札をもう一度見直す
さて、そうした手法も取れない、つまり全く再生資金がない場合はどうでしょうか。
こうしたケースも当然存在します。
この場合、手札をもう一度じっくり見直してみる必要があります。
従業員のスキルや手持ちの資産、事業継続にどうしても必要だけれどフル稼働にはなっていない資産など、既存事業では生かされていない遊休カードがあるはずです。
こうした中から、新しいサービスなどを提供できるようになるケースは多々あります。
この手法の利点は既存事業に隣接した市場だったり、顧客層が被っていたり、既存の資産や人材の活用なので初期投資がほぼかからなかったりする点です。
酒屋さんが居酒屋になったり、運送事業者がレンタカーを始めたり、コンサル会社がwebマーケティング事業をやったり、実は再生企業でなくてもこうした手法で事業をスイッチしたり拡大する会社はたくさんあります。
低コストで事業を伸ばす、有力な方法です。
再生開始は売上・利益のトレンドが変わる時
企業再生というと、いわば潰れかけの会社をイメージされる方が多いようです。
しかしながらこれまで見てきたように、本当に資金が枯渇してからだとかなりのハードワークと再生失敗のリスクがつきまとうことになります。
では、再生を開始するタイミングはいつでしょうか。
これは、売上や利益のトレンドが変わると判断した時です。
つまり、先の予測が悲観的であれば再生シナリオを用意する必要があります。
またその予測が当たったら、つまり売上や利益が下がり始めたら、再生を開始しなければなりません。
早すぎる、と思いますか?
利益の主体は5年で変わる
中小企業の場合、利益の主体となる事業はおおよそ5年で変わります。
似通っていたり隣接市場だったりするかも知れませんが、主体の変化は前提として考えておくべきです。
特にインターネットやスマホで情報の収集や伝達が容易な今、この速度は更に早まっていくと考えるのは自然です。
再生とは、必ずしも元の事業を元の利益水準に戻す、ということではありません。
例えば元の事業とは違うかもしれないけれど、元よりも高い利益水準に成長させる、ということです。
その為にも、赤字を埋めるだけの借入が持つリスクを理解し、再生のアクションは速やかに起こし、事業スイッチも排除しない広い視点から取り組み、必要な資金を適切な金融商品によって調達するようにしましょう。
経営とは、こうした作業の繰り返しでもあるからです。
Cross&Crown LLC代表
増子貴仁
その後トヨタ自動車を経て31歳でクロスアンドクラウンコンサルティングを開業、1年後Cross&Crown LLCを設立。
平成20年12月株式会社アダムに合流しクロスアンドクラウン株式会社設立に参加。
Web事業なども展開、経営者向けの雑誌などにも寄稿している。
平成26年には事務所を東京都港区赤坂へ移転。
現在はコンサルティング事業を柱にweb事業、その他サイバーセキュリティー専門事業専門の子会社を設けている。