相続への備え(遺言の活用)
相続の問題点
相続対策を検討するにあたって、まず問題点を整理すると、
①「困る問題」
②「もめる問題」
③「税金の問題」
の3つに分けることができます。
①の困る問題としては、どんな財産がどれだけあるかわからない、手続きが膨大で大変といったことがあげられます。
対策としては、財産の「把握」と「整理」、そして「一括管理」がポイントになりますが、そのツールとしては「エンディングノート」の活用が有効です。
また、遺言は②のもめないための最大の対策であり、加えて遺産分割手続きをスムーズに進める効果があります。
③の税金対策は、それぞれの財産の状況に応じて「保険」、「贈与」、「不動産」を適切に活用することがポイントとなります。
今回は、このうち「遺言」の活用についてお話します。
「大争族時代」
高齢化に伴い、相続件数は年々増加しており、それに比例してもめる件数も増えています。
家庭裁判所に相談する件数は年間で約18万件と、10年間でおよそ倍に増加しています。
また財産別では、5000万円以下が70%以上と多数を占めており、「争族問題」は財産の多寡にかかわらず発生していることになります。
「相続人の仲が良くない」、「家族関係が複雑」、「財産は自宅の土地建物が大半」、といった場合は特にもめるリスクが高く、しっかりとした対策が求められます。
遺言の効果
相続財産の分割については、遺言があれば原則として遺言に従います。
遺言がない場合は、相続人で話し会って分け方を決めることになります。
つまり、遺言があれば、それで決まり、なければ相続人同士で話し合う必要が出てきます。
遺言の効力としては、以下の点があげられます。
①財産を思うように分けられる
- 築き上げた財産を贈りたい人に贈りたいものを贈ることができる
- 息子の嫁や孫など、相続人以外の人にも贈ることができる
- 出身校や自治体、非営利団体などへ寄付をすることができる
遺言がなければ、自分の意志を反映することが困難です。
②もめるリスクを減らすことができる
- 遺産分割の協議が不要
話し合う必要がないため、もめるリスクは格段に低くなります。
③相続手続きを簡単に進めることができる
- 相続人が誰か確定する必要がなく直ちに相続手続きを進められる
- 手続きに必要な書類は少なくて済み、手間がかからない
遺言がなければ生まれたときから死去までの全戸籍を調べ相続人を確定し、法定相続人全員で話し合う必要があります。
<遺産分割手続きの流れ・・・金融資産>
遺言がない場合 | 遺言がある場合 | |
---|---|---|
相続人の確定 |
| 不要 |
遺産分割協議 |
| 不要 |
遺産分割 |
| 不要 |
相続手続き |
|
|
このように遺言書は、もめるリスクを減らすだけでなく、遺産分割の手続きが大きく削減されたり、取りそろえる書類が少なくて済むといった効果があり、相続を受ける者にとって、負担が大きく軽減されます。
遺言書の作成
遺言書には主なものとして自分で書いて作成する「自筆証書遺言」と公証役場の公証人に作成してもらう「公正証書遺言」の2つがあります。
安心なのは、無効になりにくく、紛失改ざんの危険がない「公正証書遺言」です。
そして、公正証書遺言の作成にあたっては、公証人と直接やり取りするよりも司法書士や行政書士などの専門家に依頼して作成するのがおすすめです。
戸籍謄本や固定資産評価証明書など必要書類の手配や、公証人との打ち合わせ、適切な遺言の文案作成などをプロに任せることができます。
公正証書遺言の作成費用は、公証役場の手数料と専門家への報酬で、公証役場に支払う費用は財産の額によって決まります。
特に、子供がいない、必ずこのように分けたい、遺言がなければもめるのが必定、遺族の負担をできるだけ軽減したいといった場合は、費用をかけても専門家に依頼して適切な公正証書遺言を作成することが大変有効な備えになります。
ファイナンシャルプランナー
木下 俊治
きのしたFPオフィス代表。
ファイナンシャルプランナー(CFP)、1級FP技能士、
相続診断士、DCプランナー2級、住宅ローンアドバイザー、販売士1級など。
神戸市出身、西宮市在住。
地元の生協で、地域担当、店舗部門、人事や運営に携わり、定年前にFPの資格を取得後、コープの保険の窓口で保険の見直し相談やセミナーを担当、現在は独立し、地域の公民館や消費生活センターなどで相続、介護、ライフプランセミナーや個別相談を行っています。
生活者の目線で「楽しく」、「わかりやすく」、「役に立つ」がモットーです。
週末は孫の少年野球の応援で多忙の毎日です。