”もしかして-生涯未婚男性”のリタイアメントプラン
仕事が終わってひと息ついて寛ぐところはどこでしょうか。やはり多くの人にとってそれはわが家と家族団らんの場が多いでしょう。
一方で比較的最近の調査では、生涯独身者は男性23.37%、女性14.06%となっています*。生涯独身者とは50歳時の未婚者を指しています。
リタイアメントプランは一般的に子育ての終わる50代から立てるわけですが、もしかすると生涯未婚の可能性の高い50歳代未婚男性に的を絞って考えてみましょう。
*国立社会保障・人口問題研究所「人口統計資料集(2017)」
記事の目次
50歳代の未婚男性は考えます
男女ともに未婚者は積極的独身派と、結婚したいが未婚の2つ分かれるかもしれません。
積極的独身派(結婚しない自分の人生を選択する)もいるのでしょうが、結婚願望はあるが、相手に恵まれなかったケースも多いと想定されます。
あるデータ*では50歳代の結婚願望男性は32.8%に対して、女性は24.5%となっています。
男女ともに、残りの70%近い人は、結婚を考えないで人生の後半から終盤を過ごそうとしていることになります。
*株式会社インテージリサーチ『結婚・婚活に関するアンケート』
50歳代未婚男性の資産等の状況
リタイアメントプランには資産の状況を把握することが必要ですが、そんな50歳代の未婚男性の資産状況はどうなのでしょうか。
2人以上世帯と比較して確認してみましょう。
50代未婚男性 | 2人以上世帯 | |
---|---|---|
金融資産の有無の比率 | 有り 53.6% | 有り 82.5% |
金融資産保有額 | 1300万円 | 1481万円 |
年間手取り収入 | 345万円 | 665万円 |
住居の状況 持家率 | 41.9% | 持家率 75.9% |
遺産への考え方 | 使いきる 43.7% | 老後の世話・子どもへ 55.4% |
出典 家計の金融行動に関する世論調査 金融広報中央委員会 平成28年を編集
この表は平均値ですから、実際は2極化して大きな差があると想定されます。
金融資産の有無では、50代未婚男性は有りが53.6%となっていますので、残りの46.4%が金融資産無しになります。
約半分は少しリッチで残りの半分は日々を楽しむか、その日暮らしということになります。
また、年間手取り収入が345万円ですから、2人以上世帯の665万円と比べて大幅に少なく、またその中身も2極化していると想定されます。
従って、50歳代の未婚男性の中では、比較的富裕な人とそうでない人のライフプラン・リタイアメントプランは少し違ってくるという前提になります。
単身世帯の65歳以降の生活費
総務省「家計調査報告(家計収支編)─平成29年」によりますと、単身世帯(76.1歳)の月間支出は約15.4万円となっています。
すこし余裕のある生活を考えると20万円程度になります。
ただ、このデータの支出の内訳で住居費は約1.5万円になっていますから、上表の持家率の41.9%を考えた場合、住むエリアによりますが、さらに7-8万円のプラスが必要な人が多くなります。
ここでは、5つのパターンを考えましたが、それぞれの年間ベースの生活費は次のようになります。
くらしのパターン | 年間 | 20年間(85歳まで) |
---|---|---|
自宅有り・標準のくらし | 185万円 | 3700万円 |
自宅有り・余裕のくらし | 240万円 | 4800万円 |
賃貸・標準のくらし | 280万円 | 5600万円 |
賃貸・余裕のくらし | 330万円 | 6600万円 |
65歳以降の収入の見込みと収支
60~65歳まで給与所得があった場合の平均的な年金額は、平成30年度で、月15.6万円になっています。これは平均値ですから、勤務年数や給与額によって増減します。
また自営業などで国民年金加入の場合は、月6.5万円程度になります。(今回は対象外)
厚生年金受給者を想定してその年額と20年間分を計算すると、年187万円、20年で3744万円になります。
上表のくらしのパターンの生活費と組み合わせると下表のように、「自宅有り・標準的なくらし」を除いて、不足額が発生します。
くらしのパターン | 20年間の生活費 | 20年間の年金計 | 不足額 |
---|---|---|---|
自宅有り・標準のくらし | 3700万円 | 3744万円 | なし |
自宅有り・余裕のくらし | 4800万円 | 〃 | 1056万円 |
賃貸・標準のくらし | 5600万円 | 〃 | 1856万円 |
賃貸・余裕のくらし | 6600万円 | 〃 | 2856万円 |
不足額への備え
約1000万円から3000万円の不足額が生じますが、その不足額に備えるには様々な方法があります。
① 会社等の勤務先の退職金 想定額 0~2000万円(退職金なしの場合もある)
② 貯蓄した金融資産 想定額 0~2000万円
③ 65歳以降も働く
の3つの選択があり、実際にはこれらを組み合わせることになります。
2人以上(夫婦)世帯の老後資金は一般的に1億円と言われていますので、単身世帯の老後資金は、2人以上世帯と比べて少なくて済むわけですが、他に課題があります。
高齢期(80歳以上)の未婚世帯の課題
65歳でリタイアしたとして、60代~70代は病気などしなければ、比較的安定して過ごすことができますが、80歳以降の高齢期は独身世帯ならではの課題が起きてきます。
① 病気や心身の障害が起きた時の介護の人や費用
② 住まいの問題 高齢期の賃貸住宅の入居や介護施設への入所
③ 資産の承継や処分 誰にどんな形で遺すかが問題
これらのことは、2人以上の世帯でも当然考える必要のあることですが、相談・依頼する親族等がいる場合は別にして、独身者の場合は一人で考え・行動しなければならないことが多いので、少し早めから考えて準備が必要でしょう。
そのために考える単身世帯のリタイアメントプランのポイントは次の通りです。
人生100年時代の独身高齢者のリタイアメントプランのポイント
この2~3年すっかり世の中に定着した言葉ですが、「人生100年時代」、考えていた以上に、長く生きる時代になりました。そんな時に必要な準備は、何でしょうか。
少し多めの高齢期資金
85歳までの老後資金と不足分の確保法について、前段で触れましたが、さらに10年分を積みました資金プランが必要になってきました。
年間生活費を85歳までと同額にすると10年間で1800万円~3300万円となりますので、年金受給分を差し引きすると、0~1500万円の追加資金が必要になります。
高齢期になった際、自宅で最後まで過ごせるのが最も理想ですが、その人に合った高齢者住宅や介護施設への入居も必要になってきます。
その際、賃貸住居の借用自体の問題や、保証人などの問題が発生しますので、以下のサポートの制度や「身元保証会社」を使うことになり、追加の費用が発生します。
相談相手や支援のしくみの活用
単身者が高齢になった場合の相談や支援の方法はいくつか考えられます。
- 親族や知人に相談・支援を受ける
- 成年後見制度(任意後見制度)を利用する
- ファイナンシャル・プランナー等専門職のアドバイスを受ける
- 福祉制度の支援を受ける
親族に支援して貰う場合は、遺産を支援してくれた親族に遺して、それに応えるという ことになります。
一方で、成年後見制度を利用するとか、ライフプラン・マネープランに詳しいファイナンシャル・プランナー(FP)に相談するという方法もあります。
お金のこと、福祉制度にくわしい点では、FPに相談するのが、良いかもしれません。
支援のしくみを利用するための資金の準備
成年後見制度やFPを利用する場合は費用が発生します。
親族に遺産で遺すか、費用として支出するかの違いで、いずれにしても老後資金として、生活費とは別に準備をしておく必要があると言えるでしょう。
まとめ
経済的に余裕があって、70代・80代をアクティブに過ごす未婚男性も多く、人の生き方・ライフプランは100人いれば100通りです。
その人らしい生き方が望ましいのですが、ライフプランと裏付けとなるお金の計画を立ててみましょうというのが今回の提案です。
50代はまだまだ人生を前向きに立て直せる時期ですから、アクティブなプランも含めて考えていきましょう。
ファイナンシャルプランナー
植田英三郎
家電メーカーに37年間勤務し、退職後はMBA(大阪府立大学 経済学研究科大学院)にて経営情報システムを専攻。
CFPファイナンシャル・プランナー :2007年日本FP協会 兵庫支部所属、兵庫支部幹事(2018年~現在)
2013年福祉住環境コーディネーター2級取得
2014年にウエダFPオフィスを開業。<専門領域>
リタイア後の生活・老後の設計・高齢者の住まいと介護施設・資産運用アドバイス・保険の見直し
NPO法人やボランティア団体で高齢者支援や地域活動に携わる。