債務超過とは?原因や対策、債務不履行との違いを徹底解説
「債務超過の企業はお金を借りることができない」そのように耳にしたことがある人も多いのではないでしょうか?
実際のところ、債務超過の企業はお金を借りることが難しくなります。
しかし、日本の中小企業の多くが債務超過ですし、債務超過は解消することも可能です。
そして、1番の問題点が、多くの経営者が債務超過とは何かということをあまり理解していないため、気づいた時には債務超過になってしまうという点にあります。
債務超過の仕組みをしっかりと理解していれば、債務超過は回避することもできますし、債務超過に陥っても回復することも可能です。
債務超過をしっかりと理解して、健全な企業経営を心がけましょう。
この記事では債務超過の仕組みや原因や対策や、債務超過となった場合の影響などについて徹底解説を行っていきます。
この記事はこんな人におすすめ
この記事は以下のような人におすすめの記事になります。
- 債務超過について知りたい人
- 自分の会社が債務超過にならないか心配な人
- 債務超過から立ち直る方法を知りたい人
債務超過について徹底的に解説していますのでぜひご覧ください。
目次
債務超過=倒産ではない
債務超過となっても必ずしも倒産するわけではありません。
倒産とは、債務超過だから起こるわけではなく、取引先や銀行に対して支払うお金がないから倒産するのです。
このため、債務超過になっても資産を売却して現金化することができたり、銀行から融資を受けることができる場合には倒産しません。
しかし、債務超過とは銀行からの融資がなければ赤字を補填することができない状態ですので、極めて倒産が近い状態ということはできるでしょう。
債務超過と資金ショートの違い
資金ショートとは、会社から現金が枯渇して取引先や銀行などに支払いができなくなる状態です。
会社の資産にはすぐには現金に変えることができない資産も含まれます。
例えば、在庫や他者への貸付金や売却が難しい不動産などです。
このような資産が多い会社は貸借対照表上は資産過多であり、債務超過に陥っていないかもしれません。
しかし、取引先から売掛金が入金にならないなどの理由で手元に資金がなくなってしまえば、債務超過でなくても資金ショートになる可能性は十分にあります。
資金ショートは債務超過でなくても、黒字であっても起こる可能性があり、債務超過と資金ショートは別物です。
純資産とは赤字の余力分の目安
先ほど述べたように、赤字になっても会社の自己資本があれば、そこから赤字を補填することができます。
つまり、自己資本分だけは今後赤字になっても会社は独力で赤字を補填するだけの体力があるということなのです。
債務超過は赤字を借金で埋めている
資本金がマイナスになっている債務超過は、赤字になっても独力で赤字を埋めるだけの体力がありません。
では、何によって赤字を埋めているかといえば、銀行からの借入です。
つまり、債務超過とは、赤字が膨らみ、自社の体力を使い切って、さらなる赤字を銀行からの借入によって埋めることで何とか会社を回している状態ということができます。
このような状態になってしまうと、銀行からの借入がストップした時点で、資金ショートをしてしまい、会社は倒産してしまうのです。
債務超過とは
そもそも債務超過とはどのような状態なのでしょうか?
筆者は銀行員として、多くの会社の財務諸表を見てきました。
その中で、債務超過の企業経営者の多くが債務超過とは何かということをよく理解していないのが現実です。
債務超過をよく理解しておらず、毎期毎期なんとか会社を回し、支払いに追われ、気づいたときには債務超過になっているという人がほとんどです。
債務超過がどんな状態か知って置くことで、現在の会社の体力はどのくらいなのか、倒産するリスクはないのか、どの程度の赤字なら耐えることができるのかということを知ることができます。
債務超過とはどのような状態なのか、分かりやすく解説していきたいと思います。
負債が資産を上回ること
債務超過とは、負債が資産を上回ることです。
健全な会社は資産が負債を上回り、資産と負債の差額が自己資本である資本金になります。
債務超過とは、自己資本がゼロどころかマイナスになっている状態です。
わかりやすく債務超過を個人に置き換えれば、毎月の給料だけでは支出に追いつかずに、足りない分を借金でまかない、その借金の総額が、自分の持っている家や自動車や預金などの資産の総額を超えている状態と言えるでしょう。
個人で言えば、このような人を借金地獄になっていると言います。
会社でこのような状態になることを債務超過と言い、倒産一歩手前の状態と言うことができます。
債務超過な会社の決算書(貸借対照表)
会社の資産と負債の状態を表す貸借対照表はバランスシート(BS)というくらいですので、必ず借方と貸方の合計額が一致するようにできています。
債務超過とは、バランスシートのバランスを資本金がマイナスになることによって取れている状態です。
つまり貸借対照表で負債が会社の資産総額を上回り、純資産がマイナスになっていると債務超過になるのです。
簡単に図解してみましょう。
<正常な企業の貸借対照表>
資産 | 負債・資本金 |
---|---|
資産1億円 | 負債7,000万円 |
資本金3,000万円 | |
合計1億円 | 合計1億円 |
この会社は総資産1億円のうち、負債で7,000万円、自己資本で3,000万円を調達したということになります。
この会社には自分のお金である自己資本があるので、3,000万円までの赤字であれば不景気になっても耐えることができます。
では債務超過企業の貸借対照表を見てみましょう。
資産 | 負債・資本金 |
---|---|
資産1億円 | 負債1億,3000万円 |
資本金▲3,000万円 | |
合計1億円 | 合計1億円 |
この会社は総資産1億円を超える負債である、1億3千万円もの借金を抱え、負債の方が総資産よりも3,000万円多くなっています。
このため、資本金の欄がマイナス3,000万円となっています。
このような会社は、借金で会社を回しているケースがほとんどですので、銀行は債務超過の企業に融資をしないのです。
銀行が融資を止めた時点で倒産する可能性が高いので、債務超過の企業=リスクの高い企業と判断して融資は極めて受けにくいと言えます。
このように、負債が資産の金額をオーバーし、資本金の欄がマイナスになっている状態を債務超過と呼びます。
債務超過に陥る5つの原因
債務超過とは、会社の総資産を負債が上回っている状態です。
利益が出ていない限り、会社が何によって回っているかと言えば銀行からの借金によって回っています。
では、債務超過はどのようなことを原因として起きるのでしょうか?
単純に赤字が毎期継続するから債務超過になるケースもありますが、売上はあるのに、不良債権となり債務超過になるケースや、大型の投資に失敗して債務超過に陥るケースなどがあります。
債務超過が起こる5つの原因を詳しく解説していきます。
①資本金の減少
資本金は、損益計算書から算出されるその年の収益や損失によって増減します。
まずは、資本金がどのように変動するのかのメカニズムを理解しましょう。
損益計算書で利益が発生すると、その利益は「利益剰余金」として資本金に振り替えられます。
1,000万円の利益が出た場合の貸借対照表
資産 | 負債・資本金 |
---|---|
資産1億円 | 負債7,000万円 |
資本金3,000万円 利益剰余金1,000万円 | |
合計1.1億円 | 合計1.1億円 |
このように、利益がでた分だけ資本金は増強されるのです。
一方、1,000万円の損失が出た場合には、当期純損失という形で資本金からマイナスされます。
1,000万円の損失が発生した場合の貸借対照表
資産 | 負債・資本金 |
---|---|
資産9,000万円 | 負債7,000万円 |
資本金3,000万円 当期純損失▲1,000万円 | |
合計9,000万円 | 合計9,000万円 |
このように、赤字が出ると資本金は減少してしまいます。
②赤字が継続すると債務超過に
上記の事例では、3,000万円の自己資金があったため、赤字を自己資金で補填することができました。
しかし、この会社が2年目3年目と赤字1,000万円を継続し続けた場合はどのようになるでしょうか?
2年目
資産 | 負債・資本金 |
---|---|
資産8,000万円 | 負債7,000万円 |
資本金2,000万円 当期純損失▲1,000万円 | |
合計8,000万円 | 合計8,000万円 |
2年目は資本金2,000万円から損失1,000万円を補填したため、自己資本は残り1,000万円となってしまいました。
3年目
資産 | 負債・資本金 |
---|---|
資産7,000万円 | 負債7,000万円 |
資本金1,000万円 当期純損失▲1,000万円 | |
合計7,000万円 | 合計7,000万円 |
この会社はついに自己資本がなくなってしまいました。
では、4年目も1,000万円の赤字を出した場合はどのようになるのでしょうか?
資産 | 負債・資本金 |
---|---|
資産7,000万円 | 負債8,000万円 |
資本金0円 当期純損失▲1,000万円 | |
合計7,000万円 | 合計7,000万円 |
ついに自己資本から赤字を埋めることができなくなったため、1,000万円の借入を行い、なんとか赤字を補填したことになります。
このように、赤字が継続すると、自己資金がなくなり銀行借入に頼り、負債が資産をオーバーすることになるのが、債務超過の仕組みです。
③突発的な大赤字で債務超過に
健全な企業でも突発的な大赤字で債務超過に陥ることがあります。
資産 | 負債・資本金 |
---|---|
資産1億円 | 負債7,000万円 |
資本金3,000万円 | |
合計1億円 | 合計1億円 |
この会社が突如4,000万円の赤字を計上した場合の貸借対照表は以下のようになります。
資産 | 負債・資本金 |
---|---|
資産7,000万円 | 負債8,000万円 |
資本金0円 当期純損失▲1,000万円 | |
合計7,000万円 | 合計7,000万円 |
4,000万円もの赤字は自己資本3,000万円では補填することができません。
そこで、不足分の1,000万円を銀行から借り入れ、結果として資産7,000万円よりも多い8,000万円の負債を抱えた債務超過に陥ることになるのです。
大手企業が急激に業績が悪化するのがこのパターンです。
バブル崩壊期の銀行が取引先の急激な倒産によって不良債権が急拡大し倒産したのはこのような原因ですし、東芝が急に債務超過に陥ったのもアメリカの子会社が多額の負債を抱えて倒産したためと言われています。(東芝の場合にはその何年も前から粉飾決算を行っていましたが)
④資金繰りの悪化から債務超過
見た目は健全でも資金繰りが悪化して債務超過になる可能性もあります。
取引先からの売掛金が入金にならないため、資金繰りのために銀行借り入れを行った場合、取引先から入金があれば問題ありません。
しかし、取引先から入金が長期間なく、結果的に当該売掛金を不良債権として損失処理した場合には損失が膨らみ債務超過になる場合があります。
⑤投資の失敗
高額な投資を借金をして行ったものの、その後投資が失敗して多額の損失が発生し、借金だけが残ってしまうというケースもあります。
この場合にも投資の失敗によって資産は増えませんので、投資のために借りた借金だけが資産を上回り債務超過になってしまう可能性があります。
バブル崩壊期に土建会社などがホテル事業やゴルフ場に投資を行い、失敗して債務超過になり倒産したという事例はこのケースにあたります。
債務超過から脱出するための6つの対策
自分の会社が債務超過になってしまった時、または債務超過にならないためにはいくつか対策を講じることができます。
最も簡単な方法は優良な顧客により多くの販売を行い、売上を拡大することなのですが、この方法ができていれば、最初から債務超過の危機には陥ってはいないはずです。
ここでは、自社の企業努力だけで行うことができる債務超過の対策を6つご紹介していきたいと思います。
①経営体質を見直す
「お金がないなら資産売ればよい」と考える人が多いかもしれません。
しかし、資産を売っても必ずしも債務超過は解消することはできません。
資産を売って現金にするということは単純に資産と資産の交換です。
つまり、貸借対照表では左側である借方で資産の交換をしているだけで、右側の資本の欄には何も影響しないのです。
むしろ、評価額よりも安い値段で売却してしまうと、資産売却損が発生し、さらに赤字が拡大して債務超過が拡大する可能性があります。
だだし、売却して現金が増えた分だけは資金繰りは楽になるため、資金ショートは防ぐことができますし、資産の維持にはコストがかかるので、経費削減に繋がります。
債務超過にならないためには、赤字にならないことが最も有効ですし、基本です。
自社の経営体質をもう1度見直し、無駄な経費はないか、圧縮できるコストはないかということをチェックしましょう。
高コスト体質から低コスト体質に経営体制を見直し、売上が伸びないときでも収益を確保することができる体制へと転換を図る努力をしましょう。
②利益が出る資産を売却する
資産を売却するのであれば、簿価よりも高い値段で売却すれば「資産売却益」という収益が発生するため、赤字が減少したり収益が出ることがあります。
会社名義で土地などの資産を保有しており、その資産を使用していない場合には、簿価と時価を比較して利益が出るのであれば売却して赤字になるのを回避することができます。
この場合には、債務超過解消に資産の売却が寄与することになりますし、資金繰り確実に改善します。
③経費を見直して収益を出す
債務超過の最も根本的な原因は損益計算書で利益が出ていないことです。
このため、損益計算書を徹底的に洗い直し、なんとか収益が出る方法を考えましょう。
経費の中に無駄な経費ないでしょうか?
役員報酬が不要に高く設定されてはいないでしょうか?
削れる経費があるのであれば徹底的に削って、なんとか赤字を回避すれば債務超過解消の糸口になりますし、銀行も「業況回復の余地がある」と判断して融資を継続してくれる可能性が高くなります。
資産を売却して利益が出ても経常利益には寄与しませんが、販売費および一般管理費や売上原価を削減することができれば経常利益が大きくなります。
経常利益は本業から出る利益ですので、一度経営努力でコストを圧縮すればその後も赤字になりにくい体制を作ることができます。
④増資を行う
役員や経営者自ら会社に出資を行い増資を行えば、ダイレクトに増資した分だけ資本金が増えるため、債務超過を解消することができます。
赤字で債務超過の企業に出資するという人を探すのは困難かもしれませんが、自分や家族に個人資産がある場合には、まずはそのような資産で増資を行うことを検討してみてください。
また、最近は第3者割り当て増資などによって投資家に株式を発行する中小企業も増えていますし、未上場の企業に投資をしたい投資家も増えていますので、セミナーなどで投資家を探して増資を行うという方法も検討できるでしょう。
⑤役員借入金を資本金に振り替える
以前会社に貸したお金が会社の貸借対照表上に「役員借入金」という形で計上されていることがあります。
しかし役員は返済期日を設けているわけではなく、すぐに返済しているとも考えていない場合がほとんどですので、役員借入金の多くが実質的には資本金です。
このような場合には、役員借入金を資本金へ振り替えることができます。
この処理を行えば、負債がダイレクトに資本金に変わるため、会社の財務状況が劇的に改善します。
⑥資本準備金で補填する
資本準備金とは株主から払い込まれた金額のうち、資本金に組み入れなかった金額の累積で、会社が赤字になった時に取り崩しを行い資本金に振り替えることができます。
このため、赤字で債務超過になりそうな時に、資本準備金がある場合にはそこから補填して債務超過を食い止めるという方法があります。
ただし、経営に苦しむ中小企業に十分な資本準備金があるケースはほとんどないので、資本準備金がある会社のみ活用できる方法と言えます。
もちろん、会社設立時や増資を行なった際に株主から払い込まれたお金を資本準備金として用意しておくことが最も重要です。
赤字と債務超過の違い
赤字と債務超過は全く異なります。
赤字とは、売上から経費を差し引いて収益を計算する損益計算書上の収支がマイナスになっている状態です。
一方、債務超過とは企業の収益状態ではなく、財務状態を示すもので、会社の資産額よりも負債の方が上回っている状態です。
赤字=収益状態を表すもの 債務超過=財務状態を表すもの |
と覚えておきましょう。
なお、自己資本がある会社は赤字分を自己資本から埋めることができるため、債務超過にはなりません。
赤字と債務超過の関係については詳しく後述します。
純資産とは赤字の余力分の目安
純資産とは、会社の自己資本です。
つまり、総資産のうち自分のお金はいくらなのかということです。
純資産が3,000万円であれば借入をしなくても3,000万円分の余裕がその会社にはあるので、今後赤字になっても3,000万円までであれば赤字に耐えられることになります。
例えば、不景気になり年間1,000万円程度の赤字が今後も続きそうな状態であれば、この会社には3,000万円の純資産があるので3年間は借金なしで不景気を乗り越えることができるのです。
純資産は「どのくらいまでの赤字に耐えることができるのか」という目安です。
債務超過は赤字を借金で埋めている
前述したように、債務超過とは赤字を借金で埋めている状態です。
債務超過になっている時点で手元に自己資金はありませんので、どのように会社を回しているかと言えば借金で回しています。
繰り返しになりますが、この状態になってしまうと銀行融資がストップした時点で会社は倒産します。
至急、会社を黒字化させるか、資産の売却などで借金を返済する必要があります。
債務超過と〇〇の違い
債務超過と他の会計用語を間違えている人が多いようです。
ここでは、債務超過と間違えやすいものをいくつか紹介していきます。
債務超過とマイナスの利益剰余金の違い
利益剰余金は、企業が今まで稼いだ利益を蓄積させたもので、利益が出ていれば利益剰余金は大きくなりますし、赤字が続いていくと利益剰余金がマイナスになることがあります。
純資産の部の全ての合計がマイナスになれば債務超過ですが、利益剰余金がマイナスになっているだけでは債務超過ではありません。
ただし、マイナスが大きくなり、純資産の部全てがマイナスになってしまえば債務超過になるのでマイナス幅が大きくならないように注意しましょう。
債務超過と欠損金の違い
欠損金とは法人税を計算する際の所得がマイナスの状態をさします。
欠損金が蓄積すると繰越欠損金になり、翌年に利益が出た場合には利益から控除することができ、法人税が減額されます。
欠損金は2018年4月1日事業開始年度以降は10年間繰り越して控除することができます。
一度大きな赤字が生じて欠損金が出た場合には10年間税金を減額することができるものです。
純資産がマイナスの状態を指す、債務超過と欠損金は全くの別物です。
債務超過と資産超過の違い
資産超過とは債務超過と全く逆の状態で、資産が負債を上回っていることです。
つまり、正常に自己資本がある会社は資産超過ということになります。
債務超過は銀行からの融資が止まった時点で倒産する可能性が高いですが、資産超過の会社は自己資本があるということですので、赤字に耐えるだけの体力を持っている会社ということができます。
債務超過の5つのリスク
債務超過先の企業というのは、銀行融資で回っているだけですので、銀行融資が止まった段階で倒産するという危険な状態にあります。
しかし債務超過の影響はそれだけではありません。
債務超過になると、取引先からの信用を失ったり、銀行からの融資を受けることが難しくなったり、銀行から金利を引き上げられたりします。
また、東芝が近年まで世間を騒がせてきた上場廃止という可能性もあります。
債務超過を起こすことによって生じる5つのリスクについて詳しく解説していきます。
①銀行融資が受けにくくなる
債務超過というのは、銀行融資が止まった段階で倒産する企業です。
何らかの理由で債務超過が解消する見込みがない限りは融資を受けることは難しいと言えるでしょう。
また、すでに銀行から融資を受けている企業は取引先銀行の格付けが下落することはほぼ確実です(後述)。
今後の銀行取引にも悪く影響することになってしまいます。
②取引先の信用を失う
債務超過になったことを取引先に知られてしまった場合には、取引先の信用を失ってしまう可能性があります。
「債務超過の企業に卸してしまったら代金を回収できないかもしれない」と考えるためです。
このため、自社が債務超過になったという話は決して口外しないようにしましょう。
③上場企業は上場廃止になる可能性がある
証券取引所に上場している企業には「上場規則」という規則があります。
債務超過が数年続くと、上場規則違反となり、上場を取り消される可能性があります。
東芝が上場廃止の恐れがあると、最近話題となっていましたが、これは半導体メモリー事業が売却できない限りは債務超過が解消されない見込みであったためです。
今では業況が回復し、半導体メモリー事業を売却し過去最高益を叩き出したため、上場廃止の恐れはなくなりましたが、このように上場企業が債務超過の状態を継続してしまうと、上場を廃止されてしまう可能性があるのです。
④銀行融資が止まった段階で倒産する
先ほどから述べている通り、債務超過の企業というのは、赤字分を銀行からの借入によって埋めているだけですので、銀行の融資が止まった途端に資金ショートして倒産する可能性があります。
債務超過の影響をここまで述べてきましたが、なんだかんだ言っても債務超過の最も恐ろしい点は銀行が会社の生殺与奪の権利を握ってしまうというこの点にあるでしょう。
ある程度大きな企業になると、銀行も簡単には倒産させることができないので、銀行から融資と引き換えに様々な経営再建の条件を突きつけられ、場合によっては銀行から経営再建のための職員が派遣され、経営者の権限が奪われてしまうこともあります。
⑤転職する人が増える
債務超過であることが従業員に知られてしまうと、会社の大切な人材が退職してしまう可能性があります。
債務超過ということは、今後倒産する可能性が高いと従業員は考えるので、給料を受け取ることができない可能性が高くなってしまいます。
また、将来性も望めないので、生活の維持や今後のキャリアのために自社を退職して他の会社へ転職されてしまう可能性があるのです。
債務超過先への銀行の審査基準
債務超過の企業に対して銀行はどのような審査を行うのでしょうか?
銀行が企業の審査を行う場面は融資案件の審査と企業そのものの格付けや債務者区分を評価する2つの審査に別れます。
債務超過になると、債務者区分は確実に下落して融資を受けにくくなるということは覚悟しておいたほうがよいでしょう。
さらに、決算書上は債務超過ではないのに、銀行の審査によって債務超過先の企業へと転落させられてしまう可能性もあります。
債務超過になると債務者区分が下がる
銀行の基準では1円でも債務超過になってしまった場合には、正常先という債務者区分から要注意先という債務者区分に転落します。
債務者区分が要注意先へ転落すると、銀行内部の当該企業に対する融資限度額は下がり、融資を受けにくくなります。
また、制度資金を借りない限りは適用される金利も高くなってしまいます。
債務超過だけなら融資の可能性も
債務超過になり、要注意先へ転落したとしても、融資を受けることができる可能性は残っています。
この場合には、銀行が企業に対して「業況が回復し債務超過を解消できる見込みがある」と考えられる場合に限ります。
業況が回復できずに債務超過が解消できないと見込まれる企業に対しては銀行にとって返済できる見込みがない融資が増えるだけで、貸し倒れのリスクがさらに大きくなるため融資は行いません。
3期連続営業赤字と併発は厳しい
リーマンショックやバブル崩壊など、世界的・社会的不況の時には、多くの企業が赤字に転落します。
そのため、1期赤字になったくらいでは、銀行は「業況の回復が難しい」とは判断しません。
具体的に銀行が「業況の回復が難しい」と判断するのはどのような状態なのでしょうか?
銀行員が決算書で最初に見るポイントは債務超過か否かです。
先ほどから述べているように、債務超過でなく、資本金がある状態であれば、その企業はまだ体力が残っているという状態ですので、赤字であっても融資をしても問題ないと考えることができます。
問題なのは債務超過で赤字である場合です。
債務超過であるにも関わらず赤字になってしまっている企業は銀行融資がなければほぼ確実に倒産してしまいます。
特に重要なのは営業収支です。
営業収支とは、売上から仕入れや製造原価を差し引き、人件費や光熱費などの経費を差し引いた本業の収支です。
営業収支が赤字である場合には、本業を継続するほど赤字が拡大するということですので、営業赤字の会社は銀行から良い目で見られることはありません。
さらに、営業赤字が3期連続して続いている会社に対しては、銀行は「もはや業況の回復は不可能」と判断します。
『債務超過かつ営業赤字』の会社に関しては銀行はほぼ確実に融資を行いません。
銀行にとっては返済してもらえないと分かっているお金をわざわざ貸し付けるようなものだからです。
実質債務超過へ評価換えされる可能性も
銀行は年に1回以上、融資取引がある企業の業況を審査しています。
これを企業審査と言います。
企業審査は企業の真の状態を洗い出す作業とも言われています。
貸借対照表上は債務超過になっていなくても、銀行が企業審査によって債務超過へと評価換えする可能性があります。
例えば、長期間同じ販売先に対して計上されっぱなしになっている売掛金です。
このような売掛金は実質的には回収の見込みの薄い不良債権です。
そこで、銀行はこのような不良債権を損失処理して、資本金から削る作業を行います。
結果として、表面上は債務超過でない企業も債務超過へと評価換えされて、要注意先以下へ転落してしまうことがあります。
債務不履行との違い
債務超過と債務不履行は全く意味が違います。
債務超過は企業に対して使われる言葉であるのに対して、債務不履行は個人にも法人にも使用する言葉です。
債務不履行とは、お金を支払ったり、モノを渡したりする義務である債務を、正当な理由がないのに履行しないことです。
例えば、借りたお金を期日に返済しない、モノを購入したのにその代金を払わないことなどが、債務不履行に該当します。
住宅ローンやカードローンの返済を期日に怠った場合には債務不履行ですし、企業が取引先に対して買掛金の支払いを期日に怠った場合にも債務不履行になります。
債務超過とは企業の貸借対照表の状態を表すモノであるのに対して、債務不履行は債務を履行しないという行為を表す言葉です。
債務超過は企業などの事業者だけにしか起こらない状態ですので、個人が使うことはありません。
しかし、債務不履行は債務を負っているのであれば、法人にも個人にも使用します。
債務不履行の知っておきたい5つのこと
債務不履行というのは、支払ったりモノを渡したりする給付の義務を怠ることです。
簡単に言えば約束を破っているのですから、良いことの筈がありません。
債務不履行になるとどのようなペナルティがあるのでしょうか?
以下、お金を支払う債務ということに特化して説明していきます。
①遅延損害金が発生する
銀行や消費者金融からの借入には遅延損害金という罰金が遅れた日数分だけ発生してしまいます。
遅延損害金が20%で100万円の借入の返済に3日遅れた場合には以下のような遅延損害金が発生します。
100万円 × 20% ÷ 365日 × 3日 = 1,644円 |
たった3日の債務不履行で1,600円以上もの遅延損害金が発生してしまうため、決して金銭的な負担は少なくありませんので、やはり期日は守った方がよいでしょう。
②取引先や銀行の信用を失う
仕入先に仕入れ代金の支払いをしなければ仕入先からの信用を失います。
債務不履行が何回も続いたり長期化するような場合には、取引の停止を通告される可能性を少なくありません。
また、そのような噂が地域に広がってしまえば、その地域で商売をしていくことも難しくなるかもしれません。
また、銀行から借りたお金の返済に遅れると、以後、その銀行からお金を借りることが非常に難しくなります。
銀行とすれば、返済に遅れた前科がある人や企業に対して、あえて追加で融資を行いさらなるリスクを負うようなことはしないのです。
個人であれば個人信用情報に債務不履行となった旨が記録されますし、支払いの遅れが一定期間以上経過すると金融事故情報として登録され、いわゆるブラックという状態になってしまいます。
③期限の利益を喪失する
支払いの遅れが長期化すると、期限の利益を喪失します。
銀行からの借入は、長期間かけて返済していけばよいことになっています。
本来であれば、毎月コツコツと貯めていけばお金を借りる必要などありません。
しかし、それではお金が用意できるまで非常に時間がかかってしまいます。
そこで、銀行からお金を借りれば、時間をかけずに必要なお金を用意できます。
このことから、銀行は時間を貸しているとも言われます。
これを期限の利益と言います。
債務不履行が長期化すると、この期限の利益を銀行が喪失させてくることがあります。
つまり、「貸しているお金を一括で返済せよ。」という手続きです。
期限の利益を喪失し、一括で返済できない場合には法的な措置を取られる可能性が高くなります。
④最悪の場合差し押さえも
銀行からの借入で期限の利益を喪失した、取引先に対する支払いを行わない、など債務不履行が長期化すると、債権者は債務者の資産から回収を図る可能性が高くなります。
裁判所へ申し立てを行い、最悪の場合は資産の差し押さえもあり得ます。
資産とは不動産だけではないため、預金口座、給料など、あらゆる資産が差し押さえになる可能性があります。
さらにそこからでも回収ができない場合には、自己破産まで至るケースもあります。
債務者が債務から逃れるためには、返済するか、自己破産などの法的な手段によって債務を消滅させるかの方法しかないのです。
⑤とにかく早く支払おう
1日でも支払いに遅れると債務不履行になることは間違いありません。
しかし、数日の遅れであれば、期限の利益を喪失したり、資産が差し押さえられるようなことはありません。
債務不履行が長期化するとこのような事態になる可能性が高いため、1日でも早く支払いを行うことが重要です。
なお、どうしても支払いができない場合には自分から電話をかけて、支払に遅れることを謝罪するとともに支払いに遅れる理由をしっかりと伝えるようにしましょう。
相手も人間ですのでやむを得ない理由がある場合には、強硬な手段をとってくることなないでしょう。
Q&A:債務超過に関する6つの質問
債務超過に関してよくある質問をご紹介していきます。
①日本の財政は債務超過?
日本の財政は債務超過です。
日本政府には資産が約700兆円、借金が1,100兆円あるので、これだけで考えれば400兆円の債務超過です。
借金の金額ばかりがフォーカスされますが、実質的には400兆円の債務超過となっています。
さらに、1,100兆円の借金のほとんどが日本国内から調達しています。
会社で言えば、借金のほとんどが役員借入金と同じような状態ですので、必ずしも民間企業と同じような債務超過の状態とは限りません。
そろそろ日本国内だけで国債を消化することが難しくなってきていると言われていますので、今後さらに借金が増え海外から借りるようになると本当の意味で民間企業と同じような債務超過となってしまうリスクがあります。
②会社更生法と民事再生法の違いとは?
会社更正法は規模の大きな会社を再建する際に適用され、民事再生は会社更生よりも手続きを簡素にしたもので、中規模の企業でも民事再生が認められることもあります。
会社更生法では、裁判所が選任した管財人しか再建業務を行うことができませんので、会社の経営者が経営再建に関わることができません。
これに対して民事再生は基本的に会社主導の経営再建ですので、会社の経営者が会社の再建を行うことができるという違いがあります。
③自己資本比率の少ない会社は倒産の危機?
自己資本比率が高い企業の方が安全であることは間違いありません。
それだけ体力があるためです。
しかし、自己資本比率が低い会社でも利益さえ出していれば倒産の心配はありません。
リーマンショック級の大不況が到来した時には体力が少ない自己資本比率が低い企業の方が倒産の可能性は高いと言えますが、通常の経済状態であれば、自己資本比率が低い=倒産の危機とまでは言えません。
大切なことは、利益やキャッシュフローなども加味したトータルの目線の中で企業を評価することです。
⓸流動比率と債務超過の関係は?
流動比率とは「 流動資産 ÷ 流動負債 × 100」で計算される指標で、会社の短期的な支払い能力がどれくらいあるのかということを知るための指標です。
流動比率が100%を超えていれば、流動負債を全て返済するだけの体力が会社にあるということですし、100%を切っていれば長期借入金や資産の売却などで現金を確保しなければ流動負債の支払いができないということです。
債務超過の会社でも、固定資産が少なく流動資産が多ければ流動比率がプラスになるということもあります。
しかし、債務超過に加えて流動比率が100%を切っている場合には、その会社は銀行から追加融資を受けなければ流動負債を支払うことができずに倒産するということですので、この会社は倒産間近ということもできます。
債務超過企業を見る時には短期的な安全性を知るために流動比率を調べてみると良いでしょう。
⑤債務超過だと酒類免許の取得ができない?
債務超過の場合には酒類販売免許の取得はできません。
酒類販売免許の要件には以下のようなものがあります。
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債務超過になっている場合には、「経営の基礎が薄弱でないこと」という経営基礎要件を満たしていないことになり、酒類販売免許を取得することはできません。
⑥債務超過なのに黒字決算とはどういう仕組み?
黒字とは売上−費用がプラスになっているということです。
債務超過とは、負債が資産を上回っている状態ですので、経営状態が悪い時に銀行からの借入で会社を何とか回したことによって債務超過に陥ってしまいます。
しかし、経営危機が去って商売が順調になってくると、黒字になり、その利益から債務超過は徐々に解消することができます。
つまり、債務超過なのに黒字の企業とは、以前の経営危機から立ち直って、健全化に向かっている企業ということができます。
まとめ
債務超過とは、負債の額が資産総額を超えている状態です。
この状態というのは、会社の赤字を自力で補填する能力がないため、赤字分を銀行融資によって補填してなんとか会社を回している状態と言えます。
銀行融資が止まった段階で、資金ショートするため、債務超過の会社は倒産1歩手前の状態だと言えるでしょう。
債務超過の企業は少なくありませんが、全ての企業が銀行融資を受けられずに倒産しているわけでは全くありません。
銀行は債務超過であっても業況が回復して、いずれ債務超過が解消される見込みであるなら、その企業を融資によって支援しています。
このため、最も重要なのは、債務超過そのものではなく、赤字を食い止め、債務超過の拡大を食い止めることができるか否かです。
債務超過をどうやって解消するのかを考えるよりも、どうやったら損益計算書の赤字を食い止めるのかを考えるべきでしょう。
まずは、会社の経費を見直し、無駄な部分はないか探し、なんとか赤字を食い止めるようにしてください。
赤字を垂れ流し続ける企業に対して銀行は「回復不可能」と判断して融資が継続されない可能性が高くなります。
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